2010-06-01から1ヶ月間の記事一覧

第五章その5

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午前10時 ジャックが事故の話を聞いて最初に考えたことは、<秘密のエース>が関与するのか、ということだった。 「で上院議員は今どこに?」 「病院です」 「それでレイは?」 「同行しています」 レイがいるなら心配は…

ワイルドカード6巻第五章その4

スティーブン・リー 午前9時 まるで葬儀のようだった・・・ 控えの間にマスコミが群れを成していて・・・ ドアが開くたびに一々対応しなければならないのだ・・・ カメラの放つ鈍い光からフラッシュの放つ激しいまでの光りと共に・・・ 弾ける泡のように質…

第五章その6

ヴィクター・ミラン 午前10時 ホテルというものは外界から隔絶された、いわば 要塞と呼んでいい場所ながら、 代議員やマスコミの蟇蛙どもが集っているさまは いわく言い難い異様さを放っているにしたところで、 そこは一夜開けたとしてもマッキーにとって…

第五章その7

スティーブン・リー 午前10時 ジョン・ウェルテンが病院の講堂に席を設けて急場 しのぎとはいえ記者会見を用意してくれている。 グレッグの後ろの狭いステージにはエーミィが控えて いるが、そこから突然苛立ったような感情が伝わって きて、 「ジョン、な…

第五章その8

ヴィクター・ミラン 午後2時 安宿だけにカッテージチーズを塗りたくったような色の漆喰の塗られている 壁程度では音が遮られないとみえて、水の流れるような音が響いてきている 一方・・・ テレビからは鮮やかな蒼い肌をした可愛らしいジョーカーの女の子が…

第五章その9

メリンダ・M・スノッドグラス 午後3時 「止めなさい」 雑誌をめくる音が気に障って思わず声を荒げていたのだ。 「どうして?」口答えするブレイズの声も跳ね上がって聞こえる。 タクはブランディを含み、気を静めるようにしてから応えた。 「考えをまとめな…

第五章その10

スティーブン・リー 午後3時 マリオットに向かう際中にも、パペットマンがビリィ・レイの内に 潜む罪悪感をつついて貪っている・・・ 酸味を帯びて香ばしい不安というものは、ちょっとしたスナックの ようで旨味があるというものだろう・・・ グレッグにも…

第五章その11

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午後4時 タキオンを探したがオムニでは見当たらず、タキオン抜きで病室に 向かうことになった・・・ さすがにマリオットでフルール・ヴァン・レンスラーにちょっかいを だしているだろうことまで話すのは憚られたのだが・…

第五章その12

ウォルトン・サイモンズ 午後5時 スペクターは病院の待合室にいて、リーダーズ・ダイジェストを 眺めている・・・ 座った長椅子は赤く固いビニールで作られていて、銀色の粘着 テープで補修されているようだ・・・ 上を見ると、蛍光灯の灯りがちかちかと揺…

第五章その13

メリンダ・M・スノッドグラス 午後6時 電子顕微鏡の画面の上には、ワイルドカード特有の 水晶に似たパターンが映し出されていて、 「Jesusなんて」 アクロイドから息を飲んで感嘆する言葉が続いていた。 「美しいんだ」と。 タキオンはアクロイドの背中を擦…

第五章その14

ウォルトン・サイモンズ 午後7時 胸につけた<貴賓>と記されたバッジを撫でながら スペクターは苦笑せずにはいられなかった・・・ 前にここに来たときは命のやりとりをしていて・・ 胸までどっぷり死に漬かっていて命からがら抜け だした経緯があったのだ…

その15

メリンダ・M・スノッドグラス 午後7時 マリオットのロビーが落ちてくるような、 眩暈のような感覚を感じながら、 ともあれ何かにすがろうと、 手が白くなるまで手すりを握りしめていた。 行くしかあるまい。 命綱から手を離せば、 もはや安らぐことは叶わな…

その16

ウォルトン・サイモンズ 午後7時 きつく押し当てていただけに離したときには音が立ったほど だった・・・ ともあれ壁に面したドアのノブに手をかけ回しながら・・・ 「なんて話を聞いちまったんだ!」 と悪態をついて重い息を吐かずにはいられなかった・・…

その17

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午後7時 ジャックは選挙本部から階下に通ずる階段に腰かけて ピザを頬張って、 タキオンがハートマンと話し終えるのを待っていた。 情勢は概ね悪くないといえる。 勝つのに必要な2062票にあと100票くらいまで 迫っ…

その18

ウォルトン・サイモンズ 午後7時 辺り一面己のものである血にまみれで・・・ スペクターは 外れかけた顎を掴み・・・ 何回か深く息を吸い込んでから顎を元の位置に戻すと・・・ 溢れる涙に瞬きすることになったが・・・ 痛みは耐え難いというものではない・…

その19

メリンダ・M・スノッドグラス 午後7時 「ジョージ・カービィ(Topper「天国漫歩」というコメディに登場する 二人の幽霊の一人)の名義で航空便のチケットがとってあったってな」 アクロイドの金切り声に近い言葉を聞きながらタキオンはドアから、 電子制御…

その20

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午後7時 痛みは思ったより強く、頭から脚の先まで、全身の神経に 筋肉、肌全体に及ぶまで焼け付くように感じられて、 脳は超新星と化し、心臓はターボ装置のように脈打って いて、目はまるで溶けてしまったように感じるな…

その21

メリンダ・M・スノッドグラス 午後8時 だいぶ落ち着きを取り戻しように自分では思っている・・・ あれから小一時間はたっているのだから・・・ ジャックが死に・・・グレッグ・ハートマンという名で 知られている男との友情も失った・・・ それに今更ながら…

その22

ヴィクター・ミラン 午後10時 「・・・精神的に不安定なところがあるのです」赤毛に長髪の小男がテレビの 画面でそう語っている、その後ろには「JAC」と「SON」と書かれた文字が 両側に掲げられていて、その傍にはにやついた黒い男がたちが控えてい…

その23 

メリンダ・M・スノッドグラス 午後11時 呼び出し音は鳴り続けているが、ジェイは寝息をたてた ままピクリとも動かない。 ただ眠っているというより、疲れたまま意識を 失ったという方が正しいのだろう。 タキオンはその姿を嫉ましく思いながら眺めて いた…

第5章その26 第五章完

メリンダ・M・スノッドグラス 午後11時 タキオンはナースステーションの壁を力一杯殴っていた・・・ 痛いのはわかっていたが、そうせずにはいられなかった のだ・・・ 「どうして引き留めておかなかったのですか?出来たはずでは ありませんか?必要だっ…

第5章 その25 

ウォルター・ジョン・ウィオリアムス 病院に着きはしたが・・・ 体力の落ちているのが感じられてはいるもののそう悪くないように 思える・・・ おそらく心臓は弱っているのだろうが・・・ 繰り返される検査にさらされているうちに・・・ 抵抗するのにもくた…

7月23日 その1

メリンダ・M・スノッドグラス 午前1時 そこはアトランタの外れにあるモーテル6の扉の前だった・・・ タキオンは誤解したままで別れた女性に何を話そうかと考えて いたのだが・・・ どうにも考えがまとまらない・・・ そういえば最後に寝たのはいつのことだ…

その2

ウォリター・ジョン・ウィリアムズ 午前2時 ジャックは寝汗を感じて目を覚まし、薄いホテルの枕を 下に敷いて腰を下ろした・・・ それから半分あけたウィスキーのボトルを手にして、 キャメルもすでに二パック空けてしまっている。 TVもついたままで、ボリ…

その3

メリンダ・M・スノッドグラス 午前10時 ジェイがいきなり入ってきて、タキオンはルームサービスで とった齧りかけのトーストをトレイに一端放り出すことに なった。 そのときのジェイの格好ときたら、タキオンのスーツの一着を 着ているが、彼の手足のサイ…

その4

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午前10時「バーネット師父をだしてくれ} 「どなたからだとお伝えいたしますか?」 強いスペイン訛りの声でそう訊ねられ・・・ 「ジャック・ブローンだ・・・」と応えると・・・ 「バーネット師父はどなたともお会いにな…

第六章その5

スティーブン・リー 午前10時 あいつが来るぞ パペットマンがそう警鐘を鳴らしている。 タキオンが現れて、ビリィ・レイが悪態をついているのを 感じとったようだった。今度はうまくやれるかもしれないじゃないかね駄目だ! 思わずむきになって言い返して…

その6

ウォルトン・サイモンズ 午前10時 ドアの開く音で目を覚まし・・・ スペクターはベッドの下にいる・・・ 一晩中こうしていて・・・ 開いたときに眠っていることを考えると 恐ろしくてならず・・・ カーペットとベッドの僅かな間から そうして瞳を凝らして…

その7

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 朝食にコーヒーでステーキをたいらげるのは 一仕事と言えるが、それだけでは終わらない・・ これからバーネットに会うという大仕事が待って いるのだ、おそらくエースの殺し屋が出てくると いうのは揺るぐまい・・・ ウォ…

その8

メリンダ・M・スノッドグラス 午前10時 どうにもふらふらして、グラスを唇に つけることすら覚束ない。 起きてから何杯飲んだことだろう。 二杯、いや三杯、といったところか。 大きく手を振り回すようにしてグラスを 落とさないよう置くことに成功してか…