2010-01-01から1年間の記事一覧

ワイルドカード6巻その2

ラッツ・アレー鼠通り、死人といえども油断できはしない。 骨といえども持っていかれることだろう。 ラッツアレー、そこにはかのジョーカーズ・ワイルドがあった。 Rats(卑劣漢)に相応しい場所なのだ。 もはや客は残っちゃいない、しみったれた壁に染み渡…

ワイルドカード6巻その3

喧騒はすでに過ぎ去っている、それでもアトランタマリオットマーキスホテルの前には、依然として警察の警護が敷かれていて、その警戒線を越えながら、ジャック・ブローンは党大会に集まった何百人もの代議士たちを眺めていた。 普段着に、標語の入ったたすき…

ワイルドカード6巻その5

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ帰路は7月の熱気にさらされたものであったが、ピーチツリーモールを通ることでそれは解消できた。 空調が施されたモールでエスカレーターに乗り最上階に向かうと、バーネットを支持するカトリックの一派に出くわした。 ロ…

ワイルドカード6巻その4

メリンダ・M・スノッドグラス [[]]ラジオからはU2の調べが流れ、そこに忙しいフォークを操る音、そしてオレンジジュースを啜る音が交じり合っている。 まだ10代であろう血の如き赤髪を頭頂で切りそろえ、編み紐Braidをたらした長くぴっちりしたレザージャケ…

ワイルドカード6巻その6

スティーブン・リー 飢えはつねに感じている。 今週末には、民主党推薦候補に確定する見通しはすでにたっているが、 それがなんだというのだ。 マリオットをエレベーターで下りながら、これからジャック・ブローンに ハイラム・ワーチェスターと朝食をともに…

ワイルドカード6巻その7

ヴィクター・ミラン午前9時「セイラ」リッキー・バーンズがささやいている。 「ハートマンの件からは手を引いた方がいい……正気とは思えない、意固地になって 反応してるだけじゃないのか」 緑のチェックに彩られた円形テーブル、ル・ピープの窓際で外に視線…

ワイルドカード6巻その8

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 帰ろうかと立ち上がって思い直し、煙草とコーヒーを用意した、ハイラムが息せき切って駆け込んできたのは そんなときだった。 たしかにハイラムとはスタックド・デッキで旅をともにしたものだった。 それでもさほど親しい…

ワイルドカード6巻その9

午前10時 スティーブン・リー昨晩ジャックが喰い散らかした代議士たちの相手にも飽いてきた。 熱狂の響きにももはや飽いている。 そういえばアレックス・ジェームズという男がいた。 選挙期間初期からのパペットだ。 大概のシークレットサーヴィスは職務に…

ワイルドカード6巻その10

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 二日酔いはウォッカを二杯ひっかけたところでようやくおさまった。 それからスイートで二時間ほどたつ。 ジャックの右腕と称されているエミル・ロドリゲスに何度も電話をかけているが・・代議員間を駆け回り、 票のとりま…

ワイルドカード6巻その11

ヴィクター・ミランばっさりと切り捨てたさ・・ 鼻にかかった音とともに亡き別れになった・・ 暗黒の髪、オリーヴ色の肌をしたプエルトリコ娘が微笑んでご開帳ときたもんだったが・・もちろんどうなるもんじゃない・・ たかがカレンダーの一枚だ・・ そうし…

ワイルドカード6巻その12

AM12時 正午 ウォルター・ジョン・ウィリアムス 「Devils and ancestors悪魔と祖先の名にかけて(一体全体)どうしてこんなことに?」 「バーで飲もうと思ってね・・」手を大仰に伸ばし、ピアノバーを示しながら言いつくろっていた・・ 「二杯か・・三杯、ひ…

ワイルドカード6巻その13

午後2時 ヴィクター・ミラン「ちょっと待ってくれ」チャールズ・デヴォーンの声だ。 「世界ツアーでグレッグと、何があったか知らないが、セイラ、 もう終わったことじゃないのかね」 ハートマンの選挙参謀であるこの男は、愛想のよい上院議員にはりついた …

ワイルドカード6巻その14

午後5時 スティーブン・リー 重いビロードのカーテンの向こう、いわゆるPodium Screen演幕の 後ろで、グレッグとエレンはエーミィ・ソーレンスンと合流したわけだが・・・ 向こうからは、連中の騒々しいさえずりが響いてきて・・・ カメラのレンズが放つ紅…

ワイルドカード6巻その15

ヴィクター・ミラン響く雑音を振り払い・・・まともに仕事をするためには、Valium安定剤を飲まなければならなかった・・・ モデムは内蔵式であるに対し、ホテルのモジュラージャックは電話同様古式ゆかしく壁に縛り付けられている・・・ 二股の受話器を電話…

ワイルドカード6巻その16

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午後7時夕食のため党大会は一端閉会となった。 九時に再開するとのことだった。 ジャックはガラス張りのエレベーターに乗り込むと、ドミノピザを抱えた男がいたが、 その視線はしっかりとドアにむけ背けられている。 タキ…

ワイルドカード6巻その17

メリンダ・M・スノッドグラス 1988年7月18日 午後9時 マリオットのメインエントランスには人々が束になって溢れていたが・・ タートルの警報に反応して、歩道にまで下がりだして・・・ 横ではBraiseブレーズが踵でシェルをコツコツやっていたがよう…

ワイルドカード6巻その18

ウォルトン・サイモンズ 1988年7月18日 午後9時 凡そ一年半、店に入ったことなどなかった・・・ あのワイルドカード記念日以来か・・・ アストロノマーの爺の栄光が消えうせたからだが・・ もちろん些かとはいえあの爺のお陰といえて・・・ 買い与え…

ワイルドカード6巻 その19

メリンダ・M・スノッドグラス 1988年7月18日 午後9時 「ジャクソンに票を投じて当選させるというのは如何なもの でしょう、別にこれは差別したいとかそういうつもりは・・・」 「差別でなくてなんだというんだね・・」 そういってタキオンの言葉を途…

ワイルドカード6巻 その20

ウォルトン・サイモンズ 1988年7月18日 午後11時 スペクターは髪の束を持ち上げ、鋏の歯を当てると・・・ 細く茶色い房が、薄汚れたシンクに落ちていく・・・ 学生時代から、髪は片手間に自分で切ってきた・・・ これでいい 皹の入った鏡を取り上げ…

ワイルドカード6巻 その21

第二章 1988年7月19日 午前8時 メリンダ・M・スノッドグラス昨晩は酒を過ごしすぎて正体をなくしていたのだろう・・・ 留守電にも気がつかなかったのだから・・・ 今は目もしっかり焦点を保っていて、頭のちかちかする感覚も 幾分落ち着いたように思…

ワイルドカード6巻 その22

1988年7月19日 午前8時 ヴィクター・ミラン 「ミズ・モーゲンスターン・・・」Braden Dullesブレーデン・デュレスの声がする。デュレスはセイラより若いが、State Voice<社説>担当を任されている・・・Ben Bradleeベン・ブラッドリーが有無を言わ…

ワイルドカード6巻 その23

メリンダ・M・スノッドグラス 1988年7月19日 午前9時スティーブン・リー 1988年7月21日 午前9時

ワイルドカード6巻 その24

スティーブン・リー 1988年7月19日 午前10時どうにもちゃんと眠れた気がしない・・・ 6時にエーミィに起こされスケジュールを つきつけられて・・・ それから7時にはPompanoポンパノのアンド リュー・ヤングと朝食を兼ねた会食をして、 7時45分に…

ワイルドカード6巻 その26

ヴィクター・ミラン 1988年7月19日 午前10時 ラガーディアのコンコースにいる大勢の乗客が・・・この色あせた黒いジャケットを身に着けた痩せぎすの若者が動けるようスペースを作った・・・汗のすえた匂いがするのみではない、あまり洗っていない身…

ワイルドカード6巻 その27

ウォルトン・サイモンズ 1988年7月19日 午前10時 機内の狭苦しい洗面所に立って、顔面から雫を 滴らせていると・・・ 胃はむかむかし、肌は凍えて・・・ 風呂場にいって、飛び込みたい気持ちにかられたが、 そうもいくまい・・・ そのまま飛び散ら…

ワイルドカード6巻 その28

スティーブン・リー 1988年7月19日 午前11時 別々のチャンネルを映した5台のテレビ画面が霞んで・・ リビングの一部屋を映し出した・・・ ハートマン陣営が、スタッフ本部にしているスイートだ・・ グレッグに近いテレビには、ダン・ラザーがウォルター…

ワイルドカード6巻 その29

ウォルトン・ウィリアムス 1988年7月19日 12時 正午 スペクターはリポーター風の男の後を追って、 洗面所に向かった・・・ なぜか人々はざわついており・・・ 追ってきたことにも気づかれていない・・・ もちろんこの男の名など知りはしないし・・・ 知ら…

ワイルドカード6巻 その30

スティ−ブン・リー 1988年7月19日 正午 それはいわばニューヨークのジョーカータウンを、アトランタに持ってきて 振り回し路上に地ぶまけたといった有様といえよう・・・ 大都市にはどこでも、小型のジョーカータウンとでもいうべき貧民街がつき もの…

ワイルドカード6巻 その31

ウォルトン・サイモンズ 1988年7月19日 午後1時 タクシーに乗ってからすでに1時間以上たつが・・ 空港からの渋滞は数珠繋ぎとなっていて・・・ バンパーをぶつけそうになった車同士がクラクションを 鳴らしあっているなか・・・ 歩行者・・ほとんど…

ワイルドカード6巻 その32

ジョージ・R・R・マーティン 1988年7月19日 午後1時 ハイラムはマリオットのスイートを借り切って宴を催している。グレッグも顔を出すし・・ニューヨークの代議士やその家族の顔も見える・・・煙草の吸殻にピザの空き箱が積みあがったかと思うと・・次…