ワイルドカード6巻 その24

      スティーブン・リー
      1988年7月19日
         午前10時

どうにもちゃんと眠れた気がしない・・・
6時にエーミィに起こされスケジュールを
つきつけられて・・・
それから7時にはPompanoポンパノのアンド
リュー・ヤングと朝食を兼ねた会食をして、
7時45分にはタキオンにブローンを伴って、
いわゆる陳情者や代議員とジョーカーの権利と
党の姿勢に対する議論を闘わせ・・・
8時10分にはオハイオの代議員と些細な問題に
ついて話し合った・・・
グレッグはオハイオ出身であるから、息子のように
思って特権のように連絡をとってくるのだろう・・
8時30分にはテッド・ケネディジミー・カーター
明日行われれる予定の候補就任演説の草稿について
話し合って・・・
エーミィとジョンは明日のスケジュール調整に
まだ苦慮している旨を伝えてきたから、トニー・
カルデロンと話して受諾スピーチの内容について
手短に収めるよう伝えることになって・・・
そして9時半を回る頃にはタキオンが不平を零しに
やってきて・・・
セイラ・モーゲンスターンの常軌を逸したさまを
伝えていった・・・
「正気とは思えんね・・・
阻害感に病的なまでにとりつかれているとみえる・・
あれは何か手を打ったほうがいいだろうね・・」と・・
それには大いに同意する所だ、タキオン以上にその
必要にかられているといえる・・・
あの女は予測不可能な存在であり、そのため極めて
危険な存在と化しているのだ・・・
それでもパペットマンを使うわけにはいかない・・
ギムリが何をしでかすかわからない以上、それはさける
べきだろう・・・
それに公の場でパペットマンを使うこと自体身の破滅を
意味している、それは賢明とはいえまい・・
そして10時を少しすぎたところでようやく一人になる
ことができた・・・
エレンはキャンペーンの一環として代議員達との握手に
出かけていて部屋にいない・・・
そのはずだったが、こめかみはずきずき痛み、ギムリ
声が響き渡っているのだ・・・


モーゲンスターンが何だってんだ、そうだろ・・・
パペットマンを出せれば何とかなるだろうからなぁ・・
わかってるんだろグレッギィ・・・
そうやって奴の彷徨に耳を傾けながらときを待っている
んだろう?俺もそうだぜ、あんたもそうだろ?
今はそうするしかないのだからなぁ・・・

「黙れ、それがなんだというんだ」
そう声を荒げてみたが静まりはしない・・・
それから聞き取れない声が微かなエコーとなるまで聞こえていたように思えたが、
また笑い声が聞こえてきて、また響き始めたではないか・・・


そうとも、しばらくは黙っておいてやるとも、それでも
あんたが自問する声を聞くことになるだろうな、
ギムリはまだここにいるのか、という声をね、その度に俺の存在を思い出すことになるだろうからな、
そうして待ち続けるまでさ、あんたに忘れられちまうんじゃ
ないかとびくびくしながらね、それを願ってるんだろうが、そううまくいくかね・・・

そこで声は消え失せたが、頭に唸り声は依然として響き続けている・・・
厄介ごとの一つにすぎないじゃないか


そう己に言い聞かせた
まずはセイラを何とかしなくては
そうして気を落ち着かせ、電話に手を伸ばし、
番号をダイヤルした・・・
長距離通話特有の微かな異音の後、
呼び出し音に続いて応答があった・・
「ハートマンを88年候補に」
その声には強いハーレムの訛りが感じられる・・
「ニューヨークオフィス、マット・ウィルヘルムです」
Fursファーズ、北部はどうかね?」
電話の向こうからウィルヘルムの笑い声が響いてくる・・
ウィルヘルムはジョーカータウンではファーズと呼ばれており、
自分でもそう呼ばれることを好んでいる・・・
上院議員、お待ちしてました、そろそろかかってくる頃合だと思って
おりましたよ、すべては順調です、わずかな誤算といえば、まだ候補就任の
公式な連絡がいただけていないことでしょうかね・・精々期待を高めて
待つとしましょう・・それでアトランタはどうなんです?」
「どうにも蒸し暑くてね、部屋にいてからしてそうだからたまらない」
「それは我慢ならないことでしょう」
ふわふわの毛に覆われたジョーカーが熱さに参っている様子を思い浮かべ
ると可笑しくなってきて・・・
「そいつは気の毒に、君を呼び寄せようと思っているんだよ」
つい悪戯ごころのままに声をかけていた・・・
「よしてください上院議員、そっちにいって何ができるというんです」
「電話番はどうだろうか、それなら私の仕事も減るし、エーミィと
ジョンの手もすくというものだから、誰かかわってくれたら助かる
のだけれどね」
「わかりました、行きますよ」
「よろしい、それではクオモが明日何時くらいにアトランタに着く
予定なのか調べて貰えないかな、昨日のファイルにシュラウドの手配に
ついて礼をいわなければならないから、会う都合がつけられたらいいの
だけれど・・・誰か一人空港に迎えにいかせたらいいかな・・・
それからAlbanyアルバニーに入れてある8月第一週の予約を確認して
くれないか・・・
エーミィに頼んだが返事をもらえていないんだよ、
それとニューヨークのアパートに連絡してエレンに月曜トムリンに
出向けるかも確認して欲しい・・・詳しいところはジョンから
連絡させるからね・・」
「承りました、上院議員、他には何を?」
グレッグは目を閉じて、長椅子を抱きしめるようにに腰を沈めて
言葉をついだ・・・
「もう一つ頼みたいのだが、それはあとで連絡するよ」
そうしてニューヨークを立つ前に覚えた電話番号を暗礁して
伝えてから・・・
「連絡はこの番号の留守電にいれておくからね」
そして念をおした・・・
「心配はいらない、メッセージはこの留守電で聞けばいいから、
ただちにアトランタ行きのチケットをとってくれたらいい」
「チケットを大至急ですね、問題ありません、それだけですね」
「それだけだよ、ありがとう、ファーズ、会うのが楽しみだよ」
「あなたは我々ジョーカーにとってのよりどころですからね」
「それじゃしっかり頼むよ、引継ぎも怠らないようにね、
あなた方の支援なくしては私は成り立たないのだから・・」
そのお約束の殺し文句と共に慎重に受話器を電話台に置いて通話を切った・・・
まぁいいさ、ともあれマッキーが来るのだ・・・
グレッグはあの激しやすいエースがアトランタにくることを望んでは
いないが・・
それでも手段を講じる必要がある以上やむをえまい・・・
マッキーならばダウンズの始末をつけたら、セイラのほうも方をつけ
てくれることだろう・・
それでも気はおさまらない・・・
消え入るような嘲る声が幽かに聞こえ続けているのだ・・・
俺はどうなんだ、どうなんだい、、と・・・