2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

その9

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午前10時 ジャックが肩幅の広いスーツを選んだのは・・・ 記録映像に映っていた身なりの良い恰好をした 保守色の強い伝道師に少しでもよく見られたいと いう見栄からであったが・・・ 実際に目の当たりにしたレオ・バー…

その10

スティーブン・リー 午前11時 カル・レッドケンはあばた面の典型的な駄菓子漬けの男で、 話している最中にもプラスチックの袋に手を突っ込んで いるようでがそごそ音が聞こえている・・ 言葉が聞き取りづらいのはおそらく頬にトウィンキィーズ だかスニッ…

その11

メリンダ・M・スノッドグラス 午前11時 「誰かつけてきていないか?」 タクシーに乗り込むやいなやタキオンはバック ミラーを睨みながらそんなことを言い始めた。 アクロイドはタキオンの腕に手を添えながら、 「おいおい、落ち着いたらどうだ、今更そんな…

その12

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 正午 「記者会見を開いてほしいんだ」 ジャックがそう告げると・・・ 「あなたがそう言うんなら、彼らも 飛びつくんじゃないかな・・・」 バーネットも異存はないようだった・・・ 見たところ党大会の指名争いから ハート…

その13

ウォルトン・サイモンズ 正午 スペクターはバスルームのシンクに跨って蛇口をひねって 水を出し、口一杯に頬張って、 ガラガラと音を立て乾いてこびりついた血を洗い落として 吐き出してから、 再び口いっぱいに水を含んで今度は飲み下した。 えらく喉が渇い…

その14

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午後1時 「なんてことをしてくれたやら……」 その菫色の瞳に怒りを滲ませて、医療鞄を 手にもったタキオンの後ろには、 血液検査の結果に、バーネット言うところの サタンの黒い雨の影響など認められなかった 事実を受けて…

その15

スティーブン・リー 午後2時 グレッグは病室で電話をかけながら、同時に エレンの髪を指で弄びつつ、 まだ青白い沈んだ顔に微笑んで見せると、 エレンも微笑み返そうとしたようだったが、 うまくいかなかったようで、 その危うい様子に見とれていると、 そ…

その16

メリンダ・M・スノッドグラス 午後4時 まるで水星のよう(涼しい名前に係らず実際地表は 50度ほどの高温)ですね…… エアコンの効いたマリオットのドアから外に 出て、背中に感じたアトランタの熱気にたまらず そう呟いていた。 汗が顔に滴ってくるのを感…

その17

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午後4時 騒音にまみれ意味のないことをしている内に 午後もだいぶ過ぎてしまった。 フィルムをカットしてつなぎ合わせる感覚に 近いというものだろうか…… 代議員の出入りは激しくて、 ここ30分の間でもコンスタントにハ…

その18

メリンダ・M・スノッドグラス 午後4時 タキオンは何の気もなしにその手をとっていたのだ。 すると激しく叩くような衝撃と共に男が口火をきった。 「マッキィ・メッサーたぁ俺のことだ……」と。 その口上と共にチェーンソーを思わせる振動音が響き渡って いた…

その19

ヴィクター・ミラン 午後4時 気が付くと鉄格子の中のでっかい黒い連中に囲まれた 部屋にいて、 夢を見ているのじゃないか、と思いはしたが、 顔とジャケットの前に、プラスチックを溶かして固めた ような異星人のものと思しきまだ暖かい血肉のかたまりが こ…

その20

スティーブン・リー 午後5時 ジェシーの手を取ると、 パペットマンはがっつくようにして開いた その精神に飛び込んでいた。 何と味わい深い精神だろうか…… 痛みと恐怖に染めあげられたオレンジがかった 赤に彩られているのだ。 もちろんグレッグはどうして…

その21

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午後5時 オーバープルーフ・ラムが胃を炎のようにちりちり 焼くのを感じながらも、さらにがぶ飲みしてから ボトルをポケットに仕舞い込んだ。 それはタキオンが病院に運ばれたのを確認して、私服 警備員たちからも解放さ…

その22

午後7時 ウォルトン・サイモンズ ホテルのコンコースからは、もはや人混みは引いている。 おそらく人々の関心はすでに党大会の行われている会場に 移ってしまっているということか。 スペクターは堂々とスナックバーに入っていって、 ジャック・ブラックの…

その23

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 「なぁジャック」 「どうかしたか、ese(スペイン語で<旦那>、とか いった意味)」 「デヴォーンからなんだがな……」 「そうか……」 ジャックは気乗りしない声でそう応えていた。 実際ジャックは代議員達を避けていたのだ。…

その24

ヴィクター・ミラン 午後9時 肩に真新しい旅行鞄をかけ、いかにも旅行者然とした スーツを着たその男が人混みから出てくると、 笑顔は自分でもぎこちないと思えるものであったが、 それでも驚いたことにセイラは男の首に手を回し、 自然に抱きしめていて、 …

その25

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午後9時 「ここに立てるということは役得といえるかもしれませんね」 ジェシー・ジャクソンがそう言っていて、 「それもすべて多くの無辜の人々の血と汗の賜物と言ってよい のかもしれません……」 そう言葉を添えた白い大…

その26 第6章 完

ウォルトン・サイモンズ スペクターは絨毯の敷かれた床に腰かけ、テレビの ボリュームも絞っていた。 嗅ぎまわっている連中にも1019号室には誰も いないと思わせる必要があるからだ。 新任投票の間を見計らってカシューナッツのカンと ウィスキーも下の…

第七章その1

ヴィクター・ミラン 午前7時 まるで傷ついたこころを隠すかのように 胸から太股まで安手のタオルで包み、 セイラは息を切らしつつ浴室から出てきて、 死後硬直にでも陥ったかのような心もちで、 「もはやタキオンには頼れない」とパソコンの 画面から油粘土…

その2

スティーブン・リー 午前9時 病院というものは食欲をそそる場所であり、実際 パペットマンは飢えているわけだが、 グレッグは背もたれにもたれるようにして コンパック・ポータブルの画面から目をそらし 目頭を擦りつつ、 <トニー、少し休むよ、あの演説原…

その3

ウォルトン・サイモンズ 午前11時 スペクターはくらくらする頭を抱えて目を覚ました。 口の中には金属を思わせる血の味が広がっていてずきずき 痛み、 荷物をモーテルに置いてきていたから、髭を剃っても いなければ歯も磨いていないのだ。 トニーのところ…

その4

スティーブン・リー 午後1時 わずかながら意識を抑えておけたと思いはしたものの…… すでにパペットマンはトニー・カルデロンの痛みを味わっていて…… その味わいは芳ばしく……それを啄み、ただその快楽を貪っていると、 トニーは表情を曇らせ、微かに飛び上が…

その5

メリンダ・M・スノッドグラス 午後3時 「切断面からさらに数インチ切除せなばなるまい……」 ロバート・ベンソン医師の物言いは乱暴にすぎて、 もう少し気遣いというものがあってもいいのではないか。などとぼやき。 私も医者なのだから自分で処置した方がよ…

その6

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午後4時 タキオンの病室に入っていくと、その赤毛の異星人は 失った手のあったあたりを掴み呻いていて、 「Jesusおいおい」 ジャックがそう悪態をついて駆け寄って、 「何をしでかしたんだ?」とからかい交じりに声をかけ…

その7

スティーブン・リー 午後4時 演説原稿の準備はできていて、すでにデヴォーンとジャクソン陣営にも 送付済みで、 グレッグは代議員たちを個人的に呼んで、彼らの州の票の取りまとめを 頼み込んでいて、 デュカキスとゴアはその話に前向きなようで、労いの言…

その8

ウォルトン・サイモンズ 午後6時 スペクターはマリオットを出て、ピードモント公園に入って 注意深く散策してみると、 数多のジョーカーがひしめいているが、今まで見たことのない ほど幸せそうでいて歌い、抱き合い、互いにキスしあったり していて夜っぴ…

その9

メリンダ・M・スノッドグラス 午後6時 タクは横向きに寝そべって、ひどい状態の手を枕に 添えてはいるが、 先程の尿の匂いが強く感じられて尻の下にも湿った ものが感じられる。 勢いが強すぎてかなりの量が跳ね飛んでしまって いたのだ。 それでもなんとか…

その10

ウォルトン・サイモンズ 午後7時 スペクターはベッドの陰に身を潜め、 コリンがインタビューで語っていたように、習慣を きっちり守ってくれていたらいいが、と願いつつも、 シャワー室に押し込んだままのヘースティングの ことを思い出しつつ、 あいつも一…

その11

ヴィクター・ミラン 午後7時 演台の後ろには使われていない広間があるが、 そこには地響きを思わせる低温が反響している。 外のバスケットボールのコートにひしめいている ハートマン陣営のノーム達の喧騒が響いている ようだ。 なんて愚かなのだろう。セイ…

その12

メリンダ・M・スノッドグラス 午後7時 食堂の人影はほぼなくなっているが、 オムニの巨大な会場にひしめいていたかもしれない 人々が屋内でジャクソンの副大統領受諾演説の結びの 言葉に拍手喝采している声がする。 タキオンはその巨大な喉が咆哮しているよ…