メリンダ・M・スノッドグラス
午後3時
「切断面からさらに数インチ切除せなばなるまい……」
ロバート・ベンソン医師の物言いは乱暴にすぎて、
もう少し気遣いというものがあってもいいのではないか。などとぼやき。
私も医者なのだから自分で処置した方がよいのではなかろうか。などとぼんやりと考え、包帯の巻かれた右手を見やっていると、
心臓の鼓動に呼応するように右腕がうずくのが感じられる一方、
左腕の静脈には針が刺されていて点滴が行われているようだ。
right hand右腕がない以上こうする他ないというものでしょうからね、
right handed正しい処置というのも言い得て妙ですが・・・
などと一人ごち苦笑していると、
「吐き気はありませんかな?」
ベンソン医師が洗面器を抱えそう声をかけてきて、
「麻酔の副作用としてそうなるのはよくあることですから……」
そう言葉をついだところに、
「それはわかっていますが……どれほど時間は経過したの
でしょうか?今はいつになりますか?」と訊ねかけると、
「日曜の三時です」と教えてくれて、
「もう……そんなになりますか」とため息をついていると、
「精神的な動揺もあるでしょうが、血がかなり失われとるから、
消耗も甚だしいといったところですかな……」
そう言って肩を竦めているベンソンに、
「まだ痛むのですよ」と応えると、
「看護婦を呼んで薬を投与しましょう」と応えたところに、
「コデイン(鎮痛剤)にはアレルギー反応がでるので、
モルヒネを使っていただきたい、それから……」と返すと、
「最悪の患者と言っていいでしょうな、常に処置以上を
要求するときたものだ」
ベンソン医師はカルテを眺めながらそう気分を悪くした風もなく
そうぼやいて微笑んでから、
「ともかくお眠りなさい」といったところに、
「私の手は……」と訊ね返すと、
「その程度ですんで幸運だったと思うべきですな」
そう言ってたちさりかけたベンソンに、
「ドクター」と呼びかけ、振り返ったところに、
「話していないことがあるのではありませんか?]と訊ね返すと、
ベンソンは顎を掻きながら、
「ウィルスの影響についてですな」と応えてくれた。
「そうです」と応えると、
「私からは何とも申しあげられませんな」と返されてきて、
タキオンはそこで目を閉じ、自分の体調について考えてみることにした、
喉には気管チューブが差し込まれていて痛み、
麻酔で全身の痛みは和らげられてはいるものの、
それにも増して千切られた腕がずきずき痛んでいて、
ないはずの指が痒く感じられてならない。
もし故郷にいたならば、数週間で再生させることができただろうが、、
ワイルドカードウィルスが遺伝子に与えた影響は未知数であって、
普通に生えてくることもあるかもしれないが、
さもなくばもっと恐ろしいことになることもありうるのだ。
なんと皮肉なことだろうか……
身内を手にかけてまで投下を阻止しようとして、その償いに身を粉に
して40年近く勤めてきたというのに、今更何を願うというのだろうか。
「発現したならば、これくらいどうとでもなるというのに……」
そう叫んではみたものの、迸った涙の熱さが髪を伝って額ともみあげをも
濡らすのは感じられはしたが、
ウィルスは沈黙したまま何も答えはしなかったのだ。
無情なまでに……