2010-04-01から1ヶ月間の記事一覧

その14

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午後8時 「俺が一存でやったことだ、誰かにやらされたと いうやつもいるようだが、全て自分の判断でやった ことだよ・・・」 ジャックはそこで芝居じみたため息をついてみせた・・ 「見当外れもいいとこだろうが、あのと…

その13

ウォルトン・サイモンズ 午後8時 夥しい嫌な汗をかいてはいるが、演台までは 問題なく近づけた。 後はそこでじっとしていればいいのだ。 党大会の会場はTVで見て想像していた より思いのほか広いようだ。 そこに数千、いや数万といった夥しい 人びとがひし…

その15

メリンダ・M・スノッドグラス 午後8時 随分長い間迷ってはいたが、カリフォルニアの 代議団に立ち寄ったところで、ようやく探している 男がどこにいるか見つけ出した。 込み合った広間の、演壇のスピーカーから迸る 大音量は耳をつんざくようだと感じながら…

その16

午後8時 ヴィクター・ミラン 藁を思わせるビニールで編まれたハートマンという 文字の踊る帽子を被った代議員の間を縫うように すり抜けながら、 まるで空気のようだ。 とマッキィは考えていた。 身体の位相を変えて元に戻ったところで彼自身は 何も変わる…

その17

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ 午後8時 ハートマンが話していて、人々はその名を 囁き合うのに喧しく、ジャックはかろうじて そこから距離を置きつつも、 CBSのスカイブースから周囲を見回して、 喧騒に巻き込まれないように努めた。 モニターは狂乱す…

その18

午後8時 ヴィクター・ミラン マッキーは折り重なったように群がっている代議員の間 を駆け抜けていた。 肘から先を振動させて牛追い棒で尻を叩くようにして 散らしたり、必要な場合は位相も変えて摺りぬけながら…… 衆人環視の下、この右腕であのSara fuckin…

その19

メリンダ・M・スノッドグラス 午後8時 ハートマンは人々を魅了し、話しているようだが、 タキオンにはその口の動きは見えていても、その 言葉は届いてこない....... これまで何も考えず見聞きしていたいつも通りと いった顔の上に覆い被さるようにして、 邪…

その20

午後8時 スティーブン・リー グレッグは話すのをやめていたが、喝采し 囃し立てている人々はそれに気づいて いないようだ。 そこでグレッグは見下ろしてみると、 カーニフェックスがマッキィに飛びかかっていて、 マッキィもそれを見えていないながら察した…

その21

午後8時 ヴィクター・ミラン 後ろに飛びのいていたが、どうやら殴られたようで、 顎にハンマーでもぶつけられたような感覚があって、 首の筋肉が悲鳴をあげているではないか。 もし顔面でこれをうけていたなら、首の骨が折れて いたに違いない。 どいつがや…

その22

午後8時 スティーブン・リー グレッグはまだ起き上がれずにいた。 なんせ二人の壮健な私服警備員から不言実行とばかりに 強烈なタックルを食らわせられて床に押し付けられた かたちになっていたようで、 それだけではなくグレッグのすぐ上にはジョーカーの…

その23

午後8時 ヴィクター・ミラン マッキィは心地よい闇に引きずられながらも それに抵抗していた。 何か、いや誰かがやらねばならないことがあった はずなのだ。 内に恐怖が燃え立つように感じながら、 目を開き、 首を伸ばして人混みを伺ったが、演壇が邪魔で …

その24

午後8時 ヴィクター・ミラン 革ジャケットの男が爆ぜた、と思った瞬間に、 セイラは頭を両手で抱えた形でうずくまっていた。 髪は思いの他ぐっしょりと濡れていて、そこに ずっと沈みこんでいたいと思いながらも、 再び目を凝らしてみたが、 背の盛り上がっ…

第七章その25

スティーブン・リー まだ叫ぶか大声でがなり立てている者も あれば、 パニックに陥って出口に殺到する人も あれば恐怖に凍り付いたようになり ながら演壇を見つめている人々も いて、 グレッグはその瞬間を写真の一枚にでも 残りそうなそんな静逸な一瞬だと…

その26 

スティーブン・リー グレッグは話し始めながら、席についた 人々の様子を伺うと同時に、 その視線に懇願の意思を込めつつ、 「どうか」と強く言い含めるように 言葉を発したそのときだった。 タキオンが頭の中に入り込んできた。 そしてその異星の男の強固な…

その27 完

メリンダ・M・スノッドグラス 午後11時 タキオンはベッドで横たわっていた。 泥でできた怪物に押し包まれるようにして 抵抗虚しく病院に連れ戻されて、ジャックに によって医者に引き渡されていたのだった。 包帯は巻き直されていて、肋骨の辺りにも 包帯が…

その1

1988年7月25日 月曜 午前8時 スティーブン・リー 「あんたの政治生命は終わったんだ」 そう言ったデヴォーンの声はむしろ 晴れ晴れとしたもので・・・ グレッグは殴られた方がまだましだと 想いながらも・・・ パペットマンがいてくれたら、そう仕向…

その2

メリンダ・M・スノッドグラス 午前9時 モルグで過ごす時間というものは美しく静謐で あると言っていいだろう・・・ 完璧に清められていて何一つ本質を歪められて はいない・・・ とはいってもそこにあるのは等しく冷凍された 肉の塊にすぎないわけだが・・・…

その3

ヴィクター・ミラン 午前10時 <党大会、エースの闘いで血に染まる> ゴシップにまみれた新聞記事を眺め溜息を ついて、放り投げたい気分に襲われつつも 忌々しいけれど、あなたの言う通りだったわね タキオンが名乗り出るかと思ったがそうは しなかったと…

その4

メリンダ・M・スノッドグラス 午前10時 タキオンがグレッグのスイートに入って、後ろ 手でドアを閉めると、ちょうどグレッグは サムソナイトの旅行鞄に荷物を詰め込んでいたが 顔を上げていて・・・ 「ドクター!」そう声をかけられ・・・ 「こんなに早く…

第八章その5 午前11時

メリンダ・M・スノッドグラス 午前11時 「必要ありませんよ」 「タキス流の遠慮というやつですかな、閣下」 ジャックはベッド脇で折りたたまれた 車椅子を開きながらそう言っていて・・・ 「あなたや車椅子などなくとも今朝は何の 支障もなく過ごせていまし…

ワイルドカード6巻第8章 その6

スティーブン・リー 午前11時全てに違和感が感じられる・・・ リムジンを借りてエレンの病院に向かう際に 同乗した私服警備員達してからも・・・ どれも見知らぬ顔に思えて、そうして何も 話さずどいつも濃い色のサングラスで顔を 蔽っていて、一様に紺のス…

6巻Ace in the Hole 第8章その7 

ウォルター・ジョン・ウィリアムス 12時正午 Maitre d`支配人はさぞ苦い顔をしているに違いない・・・ ホテルはC-note(C‐ノート:10ドル紙幣)の出る幕がないほど 閑古鳥が鳴いていて・・・ ベロ・モンドももはや混んではいないときたものなのだから・・…

6巻Ace in the Hole 第8章その8 完 

メリンダ・M・スノッドグラス 12時正午 タクが背筋が凍るような感覚を覚えていると、 「小さいころのことを思いだしたの……」 そこでフルールは微かな笑みを浮かべて見せて、 「中国で赤どもにちょっかいを出してから姿を 見せないと思っていたら、そんな髭で…

ワイルドカード20巻編集後記より

ワイルドカードの物語は虚構の中のことながら、 少年兵の問題は現実に起こっていることです・・ この架空の歴史の中のアフリカの楽園の内にいる 人々は恐ろしい存在かもしれませんが、実際の コンゴの現実の方が恐ろしいものであるのです。 第二次コンゴ戦争…