その22

           午後8時

         スティーブン・リー


グレッグはまだ起き上がれずにいた。
なんせ二人の壮健な私服警備員から不言実行とばかりに
強烈なタックルを食らわせられて床に押し付けられた
かたちになっていたようで、
それだけではなくグレッグのすぐ上にはジョーカーの身体が
覆いかぶさっているのが感じられる、おそらくコリンだろうが
息も絶え絶えといった様子で、
「そのまま動かないでください、上院議員」と言っている・・
邪魔が入ったかたちになって不平の声を上げているパペット
マンの声が聞こえていて、
それだけではなく人々の叫びを縫ってマッキィの腕の振動する
音も聞こえているが、
おそらくカーニフェックスに向っていっているのだろうが、
それを見ることは適わず、
何が起きているかわからない以上、安易に糸を手繰るわけにも
いかないでいると……
俺にやらせろ!任せておけばいい!それしかあるまい!


そう叫んだパペットマンの声にグレッグが応じてすべての枷を外すと、
守衛の下から乱暴に這い出たパペットマンが手を伸ばし、
カーニフェックスの精神に押し入ると、痛みと恐怖を剥ぎ取って
アドレナリンを汲み出すと、
心臓の鼓動がグレッグの脳裏に聞こえるかのように高まって、
それと同時にマッキィの狂気じみた怒りを抑えようとしたが、
それは燃え盛る炎に手をくべるようで、思うように
ならず、
なんとか双方の手綱を握り直して
叩き潰せ!
その莫迦力でそのちびを血溜まりに沈めるといい
パペットマンがカーニフェックスにそう叫んだところで、
精神を遮断しているにも係わらず、ビリィの
痛みを感じられる叫びが聞こえてきて……
マッキィが勝ったのだ、と思ったところで、
私服警備員が叫びながらどいたのを感じ、
グレッグが何とか立ち上がろうともがいているうちに、
「ばらばらにされるぜ」という声が聞こえたと
思ったところで、
さらに銃声が轟き渡った。
より高く……
より近くで・・・


ヴィクター・ミラン


手を必死に擦りつけて、目に飛び散ったあいつの血を
拭ったが、
あのくそ女はいなくなっていた。
Damn Damn、Damn、おいおいおい
なんてこった……
ともかく見つけ出さなければ、
また取り逃すわけにはいかないのだ。
顔を上げてみたが、ハートマンの姿は見えなくて、
どうやら何か起こった様子に見える。
何が起こったというのだろうか?
涙と血を振り払い、
咳ばらいをして喉にたまった血を吐き出して、
壊れたおもちゃのような身体をひきずって、
巨人の使う梯子のように思いながらずりあげて、
演壇から見て右端に這い上がると、
ハートマンは6人ぐらいのスーツを着た男に囲まれて
そこにいて……
どうやら無事であったようで、
喜びの涙に下睫毛を濡らしていると、
頬に熱い息がかかったと思った瞬間に……
背後から弾でもくらったような苦痛を訴える声が聞えて
きて、
ハートマンの傍の紺のスーツを着た男が膝をついて
両手で銃を構え、こちらに向けているではないか。
迷いと疲れから集中を欠いていて、
位相を変えようとしたが、
できない
そう思った瞬間に……
短い銃口から放たれた黄色い閃光に続いて、
腹に何かが炸裂し、
意識を失っていたのだ。


          

       ウォルトン・サイモンズ
 

強く引っ張られてハートマンから引き離されていて、
人混みの方に追いやられて、
「ばらばらにされるぜ、離れているんだ、俺達が
なんとかするから……」
私服警備員がそう言っている、確かにその方が
いいだろう。
小柄な背の盛り上がった男が、手をチェーンソウの
ごとく振動させて振り回しているのだ。
スペクターは革の吊りバンドをはだけて、そこから
銃を抜き、
What the hellくそったれが
そう呟いて状況を見極め、
まずは目先のトラブルに対処することにした。
膝をついて発砲してみると、反動が思ったより強く
照準が定まらなかったようで当たりはしなかった。
そこでもう片方の手で銃を掴んで固定し狙いを
定め、
3発ぐらい撃ったところだっただろうか、
背の盛り上がった男の体が衝撃で揺れたと思った
瞬間どさっと倒れたところで、
スペクターは振り向いてハートマンの方を向き、
「ご無事ですか、上院議員……」
と声をかけ、
ハートマンが顔を上げたところで、
視線を合わせていたのだ。