その20

        午後8時
      スティーブン・リー


グレッグは話すのをやめていたが、喝采
囃し立てている人々はそれに気づいて
いないようだ。
そこでグレッグは見下ろしてみると、
カーニフェックスがマッキィに飛びかかっていて、
マッキィもそれを見えていないながら察したようで、
不平の声を漏らしつつ、今は腕を振動させている。
それを横にいる人間が指さして叫んだところで、
人々はそこでカーニフェックスの唸りに応じ、
闘いやすいよう場所をあけている様子が見て取れる。
いいぞ、あの小僧はもう用済みだからな、このままカーニフェックスに始末させるといい。これでマッキィも処分できるというものだろう、


と嘯いたパペットマンに……。
どっちもパペットなのだから、どっちに転んでも愉しめるというものだろう。とグレッグも叫び返していて、
恐怖と喜悦の入り混じった感情はなんとも味わい深いもので、
そうとも、これでマッキィも片付くというものだ。



そう漏らしていると、
マッキィが手を振り回すと、血が飛び散り……
カーニフェックスの染み一つなかったユニフォームが
台無しにされていって、
エースの拳がマッキィを捉え、地面に打ち倒しはしたが……
カーニフェックスはそこで激しい痛みと恐怖の真っ赤な感情に
捕らわれたと見えて、
一瞬立ち尽くし、白衣のエースはそうしてマッキィの手をを見下ろして
いたが、
マッキィは床を叩くような仕草をして挑発してみせて、
その切り裂かれた顔に嘲るような笑みを向けているではないか。
パペットマンがそこに手を伸ばし、
カーニフェックスの恐怖を乱暴に振り払うようにして、
そこでマッキィに河岸を変えて、その狂気に満ちた精神の
働きを鈍らせるように仕向けつつ、

そこだパペットマンがそう喜悦の声を上げていて、
いいぞそうだ、と叫んだところで、銃声がつんざくように
グレッグの耳に轟いて、
その瞬間、パペットマンは驚いて折り重なった人の列が
パニックの叫びをあげる中、マッキィから手を放してしまって
いた.......その混乱と恐怖はすでに薄い霧のように漂っていて、
「なんてことだ、互いに殺し合っているじゃないか」と誰かが叫び、
「止めるんだ!」グレッグは小型マイクに向かってそう叫んでいたが、
その叫びすら轟音にかき消されてしまっていたのだ。



       ヴィクター・ミラン


やらねばなるまい、それはわかっていることではないか、

さぁ手遅れになる前に、腕に力を籠め、まっすぐに伸ばし、鈍い光を放つ黒い
拳銃を掲げ持ちながら……
恐怖に打ち勝つべくそうして己を鼓舞していると、
背が高くひょろっとして頭頂部にわずかばかりの白髪を
残した男がいきなり
立ち上がって、
まるで何かの拍子で驚いて茂みから飛び出したコウノトリ
ようだと考えていると、
肘を突き上げるようにしてでセイラの手から銃をはじき落として
いたのだ。
セイラは絶望の呻きを漏らしながらも、ボックス席から離れ、
飛び込むようにして人混みに紛れていくと、
演壇の方から別の銃声が響き渡って、私服警備員達が盾になる
ように上に覆いかぶさったとみえて、すでにグレッグ・ハートマンの
姿は伺えなくなっていたのだ……



          ウォルトン・サイモンズ


スペクターは思わず身体をびくっと反応させていた。
ガラスの割れる音がしたのだ、そこで上に目をやると、
メディアブースでその音がしたことがわかった。

人々をおしのけ、上院議員に近づこうとしてみたが
それでも、2〜3人は演壇の後ろに控えていて、
悲鳴が耳をつんざくようでありながら、
スペクターが何が起こっているか掴みかねていると・・
銃声が響いてきた。
数人が人混みを撃っていて、上ではゴールデン・ボーイ
梁を伝って滑るようにこちらに向っているではないか。
スペクターがハートマンの様子を伺っていると、
上院議員は何かをがなりたてていたが、振り向こうとせず、
背中をむけたままで、
スペクターにはじっと待つしかなかったのだ。


ウォルター・ジョン・ウィリアムズ


ジャックは身体を振り子のように投げ、
梁の間を移動しつつ……
まだ何が起こっているか掴めないで
いながらも、
ビリィ・レイの白いスーツと銃を持った
私服警備員が何人かいて、代議員達が慌て
ふためいていることは把握できてはいたが、
ハートマンも、あの背の盛り上がった男が
どうなったかもわからず、
何かが起こってしまったことだけは理解
できていた。
ようやく自身の属するカリフォルニア代議団
上空の梁にまでたどり着いて、
そこで一端躊躇してしまっていた。
グレッグ・ハートマンは秘密のエースであり、
人殺しであるならば、そんな男がどうなろうが
気にする必要もないのではあるまいか、と
思えてきたのだ。
そうしていると、精神の内に響くかのような
叫びが聞こえてきた。
タキオンだ。
タキオンが暴徒の中にいて、
踏まれているようだ。
そこでまだ躊躇っていると、
また叫びが聞こえてきて、
誰もいないのを確認してから、
下に飛び降りていたのだ。