2012-01-01から1年間の記事一覧

ワイルドカード7巻その5

ジョン・J・ミラー 1988年7月18日 正午 17号線を転がしながら、ジェニファーのことは考えないよう努めている。 クリサリス殺しの犯人を捜す旅なのだから、手をかすことがなくとも責める いわれなどありはしない、結局ジェニファーが正しいのだろう…

ワイルドカード7巻その7

ジョージ・R・R・マーティン 1988年7月18日 午後4時ジューブはEldridgeエルドリッジにある宿屋の地下に住んでいる。 壁は剥き出しの煉瓦で、じめついた雨と腐肉の絡んだような匂いが 染み付いていて、 ジューブの部屋には手製の家具があり、 それと…

ワイルドカード7巻 その8

ジョン・J・ミラー 午後4時Church Of Our Lady Perpetual Misery <憐れなるもの達のための永劫女神教会>は ほぼ無人に思えたが、 傷の目立つ木のPew会衆席には跪き懺悔する数人の姿が 散らばっていて、 その低く静かに垂れた頭からは、 聖書に示された明…

ワイルドカード7巻 その9

ジョージ・R・R・マーティン 午後7時クリスタルパレス前の路地には数人固まっていて、 正面には4台のパトカーが停められており、 5台目が後ろの通りに停められている。 ジェイがタクシーから降りると、 その内の一台の傍にマセリークが立っていて、 警察…

ワイルドカード7巻 その10

ジョン・J・ミラー 午後8時 ブレナンのノックに応え、ドアを開けたのは、、 古びた雀を思わせる、小柄で年老いた女性だった。 「サーシャはいるかね?」ブレナンが尋ねると、 「いないよ」という言葉が返されてきたが、 ブレナンはドアの間に足を挿しいれて…

ワイルドカード7巻 その11

ジョージ・R・R・マーティン 午後9時アパートは店じまいした印刷屋を見下ろす二階にあった。 世紀を経た鉄骨作りの建物が川を遮るかたちで建っていて、 扉のところには、消えかけた判読しにくい文字で、 かろうじてブラックウェル印刷会社と読み取れる。 …

ワイルドカード7巻 その13

ジョージ・R・R・マーティン 午後10時 「お眠り」 そう囁いたエジリィの声を聞きながら、 ジェイはすでに強い眠気に襲われていた。 なんとか抵抗しようと試みはしたが、 身体が柔らかいカーペットに沈み込んで いくように感じる。 目は閉じようとし、 穏や…

ワイルドカード7巻その14

ジョン・J・ミラー 午後11時 チッカディーはバワリーの中心に位置し、 その外装は質素で味気ない石灰が 用いられているのみで、 看板もなければ、店らしい天蓋もなく、 その存在を示すドアマンすら置いていない。 チッカディーは宣伝の必要のない、 口コミ…

ワイルドカード7巻 その15

ジョン・J・ミラー 1988年7月19日 午前2時 地下は淀んだ空気の吹き溜まりであり、 カビと腐臭で満ちている。 そこはクリサリスによって、パレスの秘密の入り口として造られたが、 使われなくなって久しく、 ブレナンの持つ懐中電灯の放つ光のみの暗…

ワイルドカード7巻 その16

ジョージ・R・R・マーティン 午前9時 「トーマス・ダウンズという名のレポーターに用がある」 ジェイがそう言うのを受付嬢は疑わしげに見ている。 クロームとガラス張りのデスクに座りなれた生え抜きなのだろう。 受付デスク自体はハイテクに対応した仕様な…

ワイルドカード7巻 その17 

ジョン・J・ミラー 午前9時 ブレナンはベッドの脇のナイトスタンドに置かれた電話の 立てる不協和音で目を覚ました。 ホテルの部屋で、寝乱れて垂れ下がっているベッドに 腰をかけ電話を取りながら、 強張った肩とひりひり痛む背に呻きをもらした。 オーデ…

ワイルドカード7巻 その18

ジョージ・R・R・マーティン 午前11時 ディガーの部屋は、ウエストヴィレッジ、Horatioホレイショに あるエレベーターの無いアパートの5階にあり、 通りに面した場所には公園があって、 シャツを肌に貼り付けた十代の若者がバスケットに興じて いる。 ジェ…

ワイルドカード7巻 その19

1988年7月19日 午前11時 ジョン・J・ミラー ブレナンはヘアリーズ・キッチンで卓についている。 手にもったカップからも時々わずかにしか口にしておらず。 それから注文をだそうとせず何度もその前を通りすぎる ウェイトレスの苛立ちまみれの視線に…

ワイルドカード7巻 その20

ジョージ・R・R・マーティン 午後1時 「おかわりはいかがですか?」Floフローがそう声をかけてきた。 「たのむよ」ジェイはそう応え、フォーマイカ仕上げのカウンター 上にカップを滑らせた、確か飲むのは4杯目だっただろうか フローは20分前に出されたpatty …

ワイルドカード7巻 その21

ジョン・J・ミラー 午後1時 ブレナンは<エーシィズ・ハイ>に入ったことはなかったが 悪くない場所だ。 古い友人が旧交を温めるにはもってこいの場所といえるだろう。 実際そこで話すのが殺しや後ろ暗い事柄であったとしてもだ マセリークもそう思ってくれ…

ワイルドカード7巻 7月19日 午後2時

1988年7月19日 午後2時 ジョージ・R・R・マーティン カントの顔には、露骨に歓迎していない表情が 張り付いていて、 「昨日のことでまだ懲りていないのか?」 などと言っているが、 「Reptile-Ranch爬虫類博物館が閉まっていたものでね」 そう軽口を…

ワイルドカード7巻 7月19日 午後2時

1988年7月19日 午後2時 ジョン・J・ミラー ストーニィ・ブルック、 メモにそう記されていた場所、ストーニィ・ブルックはサフォーク群 ロング・アイランドにある小さな郊外の街だ。 レンタルしたToyota日本車の給油に立ち寄ってグレンホロウに 行く道を聞…

ワイルドカード7巻 7月19日 午後2時

ジョージ・R・R・マーティン 1988年7月19日 午後2時 フォート・フリークの監房には特別な相手に対する 特別な檻というものがあるとみえる。 エルモの収監されているのは窓がない鋼鉄の扉のみ がある小部屋で、 扉にはそこから出ようと試みたと思しき拳の跡…

ワイルドカード7巻 7月19日 午後2時

1988年7月19日 午後2時 ジョン・J・ミラー 壁やフェンスといったブレナンを阻む障害は 8800番グレンホロー通りには一切なく、 数本植えてある木が目印のようなかたちと なって狩りも釣りも立ち入ることすらも禁止 されているに違いないが、だとしてもそ…

ワイルドカード7巻 7月19日 午後8時

ジョージ・R・R・マーティン 1988年7月19日 午後8時 遺体安置所に張り込んでいる警官もかなり まばらになってはいるが、 それでも曲がり角の近くで屋台のフランク フルト売りをしているものもあれば、 半ブロックほど道を下ったところで車を 留めて見張って…

ワイルドカード7巻 7月19日 午後9時

ジョン・J・ミラー 1988年7月19日 午後9時 Ann Marieアン・マリィは妊娠し8ヶ月になっていて、 互いの愛の営みは緩やかで優しいものとなっている。 ブレナンはその前で片足を伸ばし、もう片足を曲げて 挟むこむようにして、その姿を眺めていた。 アン・マ…

ワイルドカード7巻 7月19日 午後9時

ジョージ・R・R・マーティン 1988年7月19日 午後9時 静寂に押し包まれるように感じながらも、ともあれジェイは 気を取り直し安置室に戻ると、驚いたことにジョー・ ジョリィはドアの傍に立つのを放棄したようで、代わりに ウォルドー・コスグルーヴがそこ…

ワイルドカード7巻7月19日 午後10時

ジョージ・R・R・マーティン 1988年7月19日 午後10時 「話すことは特にないよ、ミスター・アクロイド」 チャールズ・ダットンはそっけなくそう言っていて、 熱い7月の風がバワリーを吹き抜け、丈の長い黒い 外套をばたつかせながら歩いていくそのジョーカ…

ワイルドカード7巻 7月19日 午後10時

ジョン・J・ミラー 1988年7月19日 午後10時 また夢が襲ってきた…… 今度の夢は漠然としたもので、 まとわりつく霧の中、かたちの ない怪物に追われ、存在しない 家路を辿っていると…… 追い縋る未知の怪物の呟く声以外は 沈黙に包まれた状況の中で…… 誰かの、…

ワイルドカード7巻 7月19日 午後10時

ジョージ・R・R・マーティン 1988年7月19日 午後10時 落ち着いて、コーヒーを一口飲みながら、 「驚きのあまりコーヒーを零すか、罪の意識に顔面 蒼白になって黙りこんだ方がよかったかな?」 そう言葉を漏らしたダットンに、 「どちらでもご随意に、自白し…

ワイルドカード7巻7月19日 午後11時

ジョン・J・ミラー 1988年7月19日 午後11時 ブレナンはドアを開ける前から匂いを感じていて、 中に入ると同時に、素早く的確に動きそこにいた 男の肘を掴んで、難なくその身体を壁に押し付けると、 ジェニファーがどこからともかく実体化して ドアを閉めて…

ワイルドカード7巻 7月20日 午前5時

ジョン・J・ミラー 1988年7月20日 午前5時 3階建てのヴィクトリア朝風の建築に、何やら弔事に 相応しいくすんだ文字ののたくった看板が掛けられて いて、そこに目を凝らすと、ゴシック体の文字で、 <コスグローヴ葬儀社、コスモ、タイタス、 ウォルドー…

ワイルドカード7巻 7月20日 午前6時

ジョージ・R・R・マーティン 1988年7月20日 午前6時 身じろぎもしない病んだ色合いの月明かりに照らされて、 通る端から飢えたように手を伸ばす木々の指の間を通り 抜け…… 厳めしく星のない空に浮かぶ月からまるで生きている ような波動を感じ顔を上げるこ…

ワイルドカード7巻 7月20日 午前9時

ジョン・J・ミラー 1988年7月20日 午前9時 ブレナンは目を覚ましたが、ジェニファーはその横で 寝乱れたまま目を覚ましていない。 そしてブレナンはというと、まったく寝ていないかの ように疲れが取れておらず、オーディティと闘った 後遺症として背中と肩…

ワイルドカード7巻 7月20日 午前11時

ジョージ・R・R・マーティン 1988年7月20日 午前11時 ジェイ・アクロイドは午前中いっぱいを無駄に 過ごすことになった。 もう何度目かになる受話器相手の応答を終えた ものの、現実問題として二部屋あるささやかな オフィスのエアコンが壊れていて、窓も開…