ワイルドカード7巻 7月19日 午後2時

    1988年7月19日

       午後2時

   ジョージ・R・R・マーティン


カントの顔には、露骨に歓迎していない表情が
張り付いていて、
「昨日のことでまだ懲りていないのか?」
などと言っているが、
Reptile-Ranch爬虫類博物館が閉まっていたものでね」
そう軽口を返して、
「ところであんたの相棒はどうしたんだ?」と
返すと、
「昼飯に行ってるよ……誰だって飯ぐらい
食うさ、あんたは違うのか?」
カントはそう言って歯を剥いて凄んで見せた、
ぎらぎら尖った歯が目に痛く感じながらも、
「笑ってほしいのか?」ジェイがそう返して、
くたびれた制服に視線を向けて、
「カントはお笑い志望ってわけだ」
そう茶化してみせたが取り合ってもらえず、
「勿論本気で言ったわけじゃないがね」
と取り繕ったところで、
「俺をからかうのをやめないのなら、これ以上
あんたの相手はご免被るぜ」
そう言ったカントはしかめっ面を向け乍ら、
「一体何の用だ?」といら立ちも露わに襟の下から
覗いて見えるかさぶたのようなものを掻いていて、
その外郭が剥がれて落ちているのを見つめつつ、
「エルモに会いたい」と率直に切り出してみせると、
カントは驚いたようで殻を掻きむしるのをやめて、
「放り出される前に出ていくんだな」と凄みだした
ではないか。
「飛ばされるのはお前の方だろうがな」
マセリークがそう言って入ってきた、口には
つまようじが差し込まれたままなのを観る限り
相当いいものを食べてきたとみえる。
「エルモに会いたいんだとさ」
カントはいかにもとんでもないことを聞いたと
ばかりにそう相棒に伝えたところで、
マセリークはにこりともせずに
「どうしてだ?」と切り出してきた。
それにジェイは肩を竦めてみせて
「手荒な真似はしたくない」と言葉を被せると、
「エルモはだんまりをきめこんでいるぜ」
マセリークはそう言って、
「まぁ実際黙秘する権利があると言ったから
そうしてないとも限らんわけだがね」
そう継がれた言葉に、
「俺になら話すさ」とジェイが断言してみせると、
カントとマセリークは目を白黒させながら互いを
見かわしていたが、
「それじゃ何を放したか教えてくれるんだな」
マセリークがそう切り出してきたが、
「そいつは請け合えない」
そう応えたジェイから視線を背けつつ、
「俺がきれちまう前にここから出ていくことだ、
あんたを怪我させたくはないからな」と
言い出したカントを尻目に、
「おい聞いたか?」ジェイはそう言ってのけ、
「マセリーク、あんたの相棒は警官なのに善良な
市民に手を上げるって言っていなかったか?
これは警察の横暴じゃないか?
それとも爬虫類が狂暴だというだけかね、
いやこいつが特別狂暴ということかな?」
カントはデスクを背にして必死にこらえている
ようながら胡乱な瞳でジェイを見つめていて、
「おい、Assholeこの野郎、調子にのるもんじゃないぜ」
などと言っている。
ジェイはそれに無視を決め込みながら、
「提案があるんだがね・・・」そうマセリークに切り出して、
「こいつ抜きで話そうじゃないか」
そう言葉を継ぐとマセリークはカントに目くばせをして
「少し外してくれないか、ハーヴ」と言ってくれた。
「こいつと取引をしようというのか?」
そう言い募るカントにマセリークは肩を竦めてみせ、
「話だけでも聞く価値はあるというものだろう」
と言い添えて、誰もいない取り調べ室に二人で入って
いき、マセリークがドアを閉めたところで、椅子を
回してそこに座り、背もたれを掴むようにして手を
組んで、その菫色の瞳をジェイに向けながら、
「これでいいな?」と切り出したところに、
「悪くない取引だと思うよ、あんたが興味を持つか
どうかはわからないがね」そう前置きをして、
「エルモと10分話せるなら、スペードエースの殺し屋の
名を教えてもいいと思っているんだ」
そう言い放っていたのだ。