2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ワイルドカード5巻「一縷の望み」その1

The Hue of a mind 一縷の望み スティーブン・リー 水曜 午前9時15分 あれからもう七日になる、ニューヨークに辿り着いて、なぜかギムリや取り巻きのAbomination醜い 怪物(ジョーカーのこと)と夜毎顔をあわせるようになっている。あれからもう七日にな…

ワイルドカード5巻「一縷の望み」その2

一縷の望み スティーブン・リー 金曜、午後6時10分 「うわさは本当だったんだな、あんた戻ってきたんだ」 その声は彼の後ろ、中身の溢れかえったゴミ溜め・・・その影から届いてきた ものであり、ギムリは悪態をつきながら振り返らねばならなかった。 夕…

「一縷の望み」その3

一縷の望み スティーブン・リー屋根にはVideoヴィデオがいて、あの女に手を振って否定を示しながら、影がかたちを とったように現れたシュラウドにうなずいている・・・鉄骨を通しながらも、ギムリには くぐもった声によるそのやり取りを雷鳴のごとく聞き取…

「一縷の望み」その4

月曜午後2時30分 弟の声を思い出す、ヌール・アル・アッラーはまだミーシャがカーヒナと呼ばれていたときに、その雄弁な声で死後の苦しみについて語っていたではないか・・・ ミンバルから響くその力強い声は、バディア・アッシャームのモスクにこもる午…

「一縷の望み」その5

月曜7時32分ギムリがいらいらしていたのは、ポリアコフが最後に、それもだいぶ遅くに現れたからばかりではない・・・ ニューヨークJJSの古馴染みたちももはや信用はならなくなっていたのみならず、ここ二週間の間は、ミーシャのジョーカーに対する蔑みに…

「一縷の望み」その6

火曜午後10時50分ギムリが言っていた、セイラのアパートを誰が見張っているかわからないと・・・ あの侏儒は被害妄想気味であるとは思っていたが、それでも辺りに人の姿がなくなるのを待ってから、前の通りを横切った、夫のサィードは、ヌール・セクトの…

「一縷の望み」その7

火曜午後10時オフィスのドアを開けて、目の前のデスクの上に裸足の脚を放り投げた侏儒が腰掛けているのを目にしても、クリサリスはそれに構わず、落ち着きはらったままドアを閉じた・・・ クリスタルパレスではこれがいつものことででもあるかのように・・…

「一縷の望み」その8

火曜午後11時45分クリサリスのところを出てからずっとふらふらしていて、ヴァンで待っていたファイルに、一人で帰ると言ってしまったのだ・・・Fuck the risk(なんて迂闊だったのだろう)逃げ回るのにも疲れたし、用心するから、と言い放ってしまった・…

「一縷の望み」その9

一縷の望み スティーブン・リー 水曜午前12時45分白昼夢に襲われたのは、倉庫のドアを開けようとしていたときだった・・・文字が液体のように流れ、鉛の人影が火に投じられたかのようにたわみ・・・ 闇に覆われた中、笑い声のみが耳に届く・・・ ハート…

「一縷の望み」その10

木曜午前3時40分クリスタルパレスの裏通りで、黒い外套を着た巨体が道化の仮面をつけた男に身体を寄せて囁いた。 外套の下の顔はフェンシングの仮面を着けているようだ。 「大丈夫です、上院議員、もはや誰も残っていません……」その幻影のような巨体がさ…

「一縷の望み」その11完結

木曜午前7時35分セイラはジョーカータウンクリニックの南側の一角におちつかなげに立ち尽くしていた、カナダから移住してきたなら涼しいともいえる場所だというのに・・・ 横切る雲が、路面に染みのように広がるのを見ながら、また腕時計を見つめることに…