ワイルドカード7巻 その20

       ジョージ・R・R・マーティン

            午後1時


「おかわりはいかがですか?」Floフローがそう声をかけてきた。
「たのむよ」ジェイはそう応え、フォーマイカ仕上げのカウンター
上にカップを滑らせた、確か飲むのは4杯目だっただろうか
フローは20分前に出されたpatty meltパティ・メルトやら
フライドポテトやらの乗っていた皿を片付けながら、
Puzzle(謎)でも解いているのかしら?」そう言ってコーヒーを
注ぎなおしてくれたものだから、ソーサーにまでコーヒーが飛び
散ってしまっていたが構わず、
「まぁそんなとこだ?」と無難に応えた。
ジェイはカウンターの上に広げたのリストに載った名を食べながら
眺めていたのだ。
紙にはパティ・メルトからこぼれた玉ねぎが貼りついて透明な染みに
なってしまっている。
「何か用ができたら呼んで頂戴」フローはそう言ってから、
「TVガイドのクロスワードは毎週解いているのよ」そう言い添えて
コーヒーポットをもって奥のボックス席の方に引っ込んでいった。
奥のボックス席では、白い麻のスーツを着た兵役逃れの
chicken hawk 自称タカ派セントポールからのバスを
降りたばかりの金髪の青二才を軍隊に入れようとしているようだ。
Java Jointジャヴァ・ジョイントはポート・オーソリティ
タイムズ・スクエアの間にある42番目の通りにある店で、
Wet Pussycat Theaterウェット・プシィキャットシアターと成人向けの
本屋に挟まれたかたちになるが、そこの料理はエーシィズ・ハイには及ばないに
しても、ジェイはここが気にいっている、値段が手ごろで何よりもオフィスから
半ブロックしか離れていないのだ。
ジェイはフローから拝借したちびた鉛筆を舐めながらリストを眺めている。
残った19人からさらに11人に絞り込むことができた。
スノットマンは投獄されているから真っ先に除外できるとして次に星一つの奴も
除外しても構わないだろう
クリサリスのオフィスは象が入れるほど大きくないから、ラーダ・O・ライリーは
論外として、モジュラーマンとスターシャインは活動場所からみて犯行を行うのは
厳しいのではなかろうか
とりたてクリサリスを殺す理由がないという以外に、カーニフェックスはアトランタ
いるからジャック同様除外できる。
リスト上では星3つの表示がされているが、エルモが犯行に及ぶとは考えにくい、
とすると残りの容疑者は以下の通りとなる。


Crenson Croyd    The Sleeper     ****
Darlingfoot John   Devil John      ***
Demarco Earnest   Ernie the Lizard   **
Doe John       Doughboy      ***
Johnes Mordecai   The Harlem hammer   **
Morkle Doug      該当名なし     **
Mueller Howard     Troll       ***
Seivers Robert    Bludgeon       ***
本名不詳      Black shadow      **
本名不詳      The Oddity       **
本名不詳      Quasiman        ***
本名不詳       Wyrm         ****


そこでジェイは残った名前を眺めながら考えていた。
アーニー・ザ・リザードことデマルコはジョーカータウンにある
バーのオーナーだが、いくら近葉で営業しているとしても、
パレスと競合するほどではあるまい。
そう考えて除外した。
デビルジョンことデアリングフットは雇われジョーカーとして
名をはせた男で、その歪んだ脚から繰り出される強烈なキックが
有名だが、あの脚ではクリサリスの頭をああいうかたちで潰すのは
考えにくいとして、棒線を引いて除外した・・・
ドウボーイは力からは有力だとしても、あの子の精神は子供のままだ、
確か数年前にも警察にしょっぴかれていったことあったがもちろん
あの子が犯行に及んだわけではなくて、今回もこの子が犯行に及ぶ
可能性は低いとして除外した。
モーデカイ・ジョーンズはハーレム在住でジョーカータウンからは街
半分くらい離れた場所にいることになる、確か去年の視察旅行では
クリサリスと同行していたのではなかったか
可能といえば可能だが
数分迷いはしたがハワード・ミューラーについて考えることにした。
そうトロールだ。
タキオンのジョーカータウンクリニックの保安主任を務めていて、
ミューラーはパレスの常連でもある、確かに9フィートの巨体を誇る
ジョーカーで、力に置いてはゴールデンボーイやハーレムハマーに
劣らないにしても、トロールが善人であることをジェイは知っている。
とはいえもしそうでないとしたら、クリサリスが彼の過去の汚点のような
ものを探り出したとしたら、そしてそれを利用しようとしたどうだろうか、
可能性はあるというものだろう。
とは言ったものの、こんなことを言い始めたらアーニー・ザ・リザード
あろうとハーレム・ハマーであろうとスターシャインにしたところで動機
さえあれば全員そのまま容疑者となるのだ、
だとしたらそれこそ容疑者は319人にまで膨れ上がるのだから、さすがに
全員洗っているわけにはいくまい。
そう呟いてトロールの上に線を引いて除外した。
すると残るリトルインディアンは7人というわけか(マザー・グース
10人のインディアンにある言い回し)
7人の屈強なインディアンというわけだ。
ワーム、クオシマン、オーディティ、ブラックシャドウ、ブラジオンに
スリーパー、そしてダグ・モークルとそんなところか。
ワームはシャドウ・フィストの手先である醜い男で、ジェイも一度顔を
会わしたことがある、そういえばこいつがクリサリスを脅していたと
聞いたことがある、とはいっても実際、二年も前の話だ、
ワームが今更そんな昔の恨みを持ち出してきたとは考えにくい、それに
ワームの手口は噛みついて毒液で殺すというものだから、クリサリスの
死体の状態に合致しない。
そこでジェイはクリサリスの死体を思いだしてみたが、噛み跡はなかった
ように思う、とは言っても調べてみる価値はあるというものか
検死で何らかの毒物が検出されていないとも限らないのだから
クオシマンは<永遠なる悲惨の聖母教会>の墓守であり、ワームよりも
強い腕力を誇りテレポート能力も持っている、この男ならば誰にも見咎め
られることなくパレスに出入りできる、この男がある意味天使のごとく
純真であるのは確かながら、一方で精神が別の次元だかどこかだかを彷徨って
いるような状態になることもあるという、だとしたらその状態でことに及んだ
ということも考えられる、ありえなくもないといったところか、保留といった
ところだな、
オーディティはジェイが真っ先に容疑者に上げた人間でこれも外せない。
ブラック・シャドウは病的正義感を抱えた自警主義者で、犯罪を憎んでいて、
犯罪者を殺すことで知られているが、気分のよいときには武器を破壊して、
手足の一本や二本で済ませてくれることもあるとの話だ。
もしかしたらシャドがクリサリスと何らかの犯罪との関与、もしくはこの男の
本名を調べだして、そいつを公表すると脅迫していたらどうだろう、
まぁあくまで可能性がある、というだけの話だが、
やはり死体の状態に対する疑問が残る。
シャドの力が強いと言っても精々常人よりはまし程度という話だからだ。
闇の世界の住人で、血の代わりに光と熱を飲み込むヴァンパイアだと噂されて
いて、この男の犠牲者は体温を全て吸い取られて殺されているという。
頭を潰す殺し方はしないか、
そこでこの男も除外した。
ブラジオンは獰猛な7フィートのジョーカーで、右腕が棍棒のようなかたちで
固まっていることからそう呼ばれている男で、以前はシャドウ・フィストに
属していたらしいが、何か下手をこいて追放されている、以前ハイラム・
ワーチェスターと一緒にいたときに出くわしたことがあった。
あの拳ならば、骨もろとも頭を潰すことも簡単であるに違いない、
もしそうだとしたら念入りに楽しんで潰したに違いあるまい。
だとしても見かけ通りのチンピラで、こいつには単独でパレスのセキュリティを
破って侵入することはできないだろう、
もちろんクリサリスがこいつを招き入れたとしたら話は別だが、
もちろん誰かと組んだということもありうる話だ。
当然容疑は濃厚というものだろう。
クロイド・クレンソン、通称スリーパーは法の網をかいくぐって活動している
フリーランスの男で、この男の能力は眠るたびに変化する、怪力であることも
あれば、怒りの赴くまま暴れまわる怪物となることもあるが、ジェイにはこの
男がクリサリスに対して不満を零していたのを聞いたという記憶はないが、
アンフェタミンの過剰摂取の副作用で精神状態が不安定になっていたとしたら、
あるいは力を持て余したまま目を覚まして、クリサリスが何か言ってこの男を
怒らせたということもありうる。
とはいえそれもまた可能性があるというだけのこととしてこの際除外することに
した。
これで残り5人となる。
ワームにクオシマン、オーディティにブラジオン、そしてダグ・モークルだ。
「そういやダグ・モークルって何者なんだ?」そう口に出していて、フローにも
訊いてみたが、フローも知らないとのことだった。
ジェイはため息をつきながら支払いを済ませ、いつも通りチップもはずんで渡して
おいて回転ドアへ向かう途中で、
そこから離れていないブースで緑色のモヒカンの男の前に新聞紙が畳まれているのが
目について、
慌てて引き返し、その新聞を手に取っていた。
「おい」モヒカンの男がそう抗議の声を上げてきたが構わず、
Shit(なんてこった)」と呟いて、紙面を眺め直して、
「エルモが逮捕されただと」そう声にだしていて、
勘違いも甚だしいと言うものだ、と内心ぼやいていた。
街の守護者を自任する連中のことだ、嬉々としてその行動に及んだに違いない。
ともあれ思考が中断されたから、ダグ・モークルはそのまま容疑者の内に留めておく
ことにしたのだ。