その14

  ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
        午後8時


「俺が一存でやったことだ、誰かにやらされたと
いうやつもいるようだが、全て自分の判断でやった
ことだよ・・・」
ジャックはそこで芝居じみたため息をついてみせた・・
「見当外れもいいとこだろうが、あのときはそれが
正しいと思えたんだな・・・」
そうしてニュースキャスターがセレブのインタビューで
お茶を濁していると、CBSのスカイブースの下には代議員
達が囀りながら何かを待ち受けている・・・
その半分はマスクを被っているようだ・・・
ジャックはクロンカイトの小皺の寄った目に弱弱しく微笑んで
みせながら・・・
「第一筋は通っているというものだろ・・・
ワイルドカード能力者による凶行があったのを
憶えているだろ、俺だって二度も襲われたんだからな、
これはハートマン上院議員の候補擁立を妨げ、バーネット有利に
ことを運ぼうとしていると思うじゃないか・・・
バーネットに個人で面会したことがあったが、そのカリスマに
驚いたものさ、まるでヌール・アル・アッラーのようだって
思ったんだよ、つまりワイルドカード能力を備えた宗教的
指導者がもう一人ここにいると、その安直な考えに飛びついて
しまったんだ・・・」
「それではあなたはもはやバーネット陣営にはもはやワイルド
カード能力者はいないということで納得なさったのですね?」
そこでジャックは皮肉な笑みに見えるよう計算した表情を浮かべて・・・
「もしいたとしたら、そいつはよっぽどうまく隠れているのだろうな・・」
そう応え・・・
陰鬱な笑い声を立ててから・・・
「あんたはどう思うんだい、ウォルター」
そう返したところで、カメラは党大会の会場に映像を切り替えて、
コンソールに向いヘッドフォンをつけた汗だくの人々が忙しく
立ち働く前で・・・
モニターには文字を掲げ持ちマスクをつけて笑いさざめき踊る人々が
映し出されていて・・・
クロンカイトはたたき上げのレポーターの貌を抑え、話しやすい親しみ
やすい調子で、それでも舌鋒はけして緩むものでなく・・・
「それではバーネット陣営に謝罪すべきではありませんか?」
と言ってきたが・・・
ジャックは専売特許ともいえる笑みを浮かべてみせて・・・
「もう済ませたよ、ウォルター、昨日フルール・ヴァン・レンスラーと
非公式で会って謝意は伝えてきたところだよ・・・」
そこで口元を引き締めて、カメラをまっすぐに見つめ・・・
伝えたというより、渡したというべきか・・・ジャックがそんなことを考えていると・・・
「それではグレッグ・ハートマンが指名されるとお考えですか?」
と向けられた言葉に・・・
ジャックはカメラに視線をむけたまま、自分でも笑顔が凍り付いた
ように感じながらも・・・
「それはどうだろう、うまくいったといって途端におじゃんになるのは
何度も経験済みだからね、ウォルター」と注意深く応えると・・・
クロンカイトは耳につけたイアホンにしばらく耳を澄ましていたが
顔を上げ・・・
「代議員団の準備ができたようです、ありがとうジャック、それでは
ダン・ラザーとボブ・シェイファーに画面を切り替えます・・・
カメラの上の赤い光が消えて、轟くような喝采が下から轟き渡るのを
聞きながらも・・・
何の疑問もなく彼らと共によろこべたらどんなにかよかったことか・・・
ジャックはそう心から願わずにはいられなかったのだ・・・