その5

         ウォルター・ジョン・ウィリアムス
              午前9時


電話が鳴ったのは、最初のキャメルを吸っていたときだった・・・
確か書類バッグに入れていたはずだがすぐには見当らず・・・
コーヒーテーブルの下にあるのを見つけ、長椅子の上で寛ぎながら
電話に出た・・・
エーミィ・ソーレンスンからだった・・・
「これは厄介だわ、グレッグも慌ててるでしょうね」
寝起きの濁った目で天井を見上げながら応えた・・・
「何があったというんだ?」
「これからゴアが記者会見を開くことになっているのだけれど、
彼の支持者から漏れた話によれば、出馬をとりやめて、バーネット
支持に回ると零してるらしいの・・・」
「あのcocksuckerオカマ野朗、奴には恥というものがないとみえる」、
思ったままとはいえ、女性に聞かせるには下品にすぎる表現だと
後悔しながらも・・・
長椅子から飛び降りて・・・
傍にあったコーヒーテーブルを倒しそうになりながら言葉を返していた・・・
「つまりバーネットの副大統領に狙いを変えたということだな」
「そのようね」
「とんだブリキ缶入りのプリンス・アルバート号(見掛け倒し)だな」
「それだけじゃないの・・昨日の夜、ピーチツリーモールで記者が明らかに
ワイルドカード能力者と思われる人間にきりつけられたそうよ、これもそれに
絡んでのことじゃないかしら?」
そうなると身内の間でも態度を決めかねる人間がでてくるのではあるまいか・・
ゴアの及び腰は当然バーネットに難色を示している支持者離れを引き起こすに
しても・・・
ハートマンも4回目の予備選で更に104人の代議員の支持を得はしたが・・・
それでもバーネットは300人近い支持を増やしたことになるだろう・・・
今のところは時勢はバーネットに味方しているといえよう・・・
実際ジャックの見ていた2インチのソニー(TV)からも、ダン・ラザーの声で
Anyone But Hartmann(ABH:ハートマン外し)の動きが加速してしていると
伝えているではないか・・・
デュカキスとジャクソン陣営の勢力争いといった噂も伝え聞いているが・・・
今のところは支持代議員の数でジャクソン優勢といったところか・・・
TVからはゴアのこの動きでジャクソンが副大統領となるのに大きな障害と
なるだろう、といった声が聞こえて来ているが・・・
ジャクソンはABH<ハートマン外し>に与しているという話はでてきていない・・・
ABHなんてのは確かラザーが言い始めた言葉であって・・・
バーネット陣営の人間や政治畑の連中しか使っていなかった言葉だったようだが・・・
今では性質の悪いことに普通に使われているのを耳にして気分が悪くなる・・・
どうしてAnyone But Burnett略してABB<バーネット外し>じゃないのだろう?
やはりどこかにエースが隠れていているに違いない、そう秘密のエースがいるのだ・・・
そうひとりごちずにはいられなかった・・・
今のところは<クレムリングレムリン>同様、与太話にすぎないわけだが・・・