その4

       メリンダ・M・スノッドグラス
          1988年7月21日
           午前9時


アイオワは神に祝福された豊かなトウモロコシの州だからな!」
タキオンには何回もある予備選でこの男がなぜここまで盛り上がれるかが
理解できていなかった・・・
「ほらアル・ゴア上院議員に4票入った!」
タキオンにはオムニコンベンションセンターのその狂乱のさまは
バスケットのコートのごとき狭いエリアに巨大な漏斗をつけて様々な
人種をいやおうなしに押し込んでかき回したかのごとくに思える
ものだった・・・
もちろんそれは極端な誇張に過ぎないとしても・・・
眺めていると眩暈のしてくることは間違いないあるまい・・・
コートの前にかかった砂糖を振り落とし・・・
コーヒーカップの上からドーナツを落とさないようバランスをとりつつ・・・
万年筆を取り上げて慌てて数字を書きなぐって・・・
5つの記事に取り上げられた最初の集計を眺めている・・・
ゴアはまだ際どいところにいるにしても・・・
まぁ時間の問題というものだろう・・・
ハートマンはかろうじて1900票を獲得したところで低迷して
いるといったところか・・・
そこでタクは血走って痛む目から手を離した・・・
私服警備員に邪魔されてこれ以上の演奏は無理と判断し眠ったのは
5時を回ってのことだったのだから無理もあるまい・・・
「あなたの推している候補は際どいところにいるようですね」
折り畳み椅子に腰掛けたコニィ・チャンが後ろから声をかけてきた・・
アンテナのつきでたヘッドホンをつけたその頭はまるで歪な昆虫のように
思える・・・
「私の推している候補は安泰ですよ、ゴアが手をひけばね」
「驚くことになりますよ」
「それはどういう意味でしょう?」
警戒感を顕にしてタクは訊ねていた・・
「北部のリベラル候補3人にに南部の保守系議員と敵対したまま
ですから、このままならば・・・」
「講釈は無用に願えませんか」
幾分嫌悪を滲ませてタクが話を遮ると・・・
コニィも顎についた砂糖を振り落としながら応えた・・・
「あなたはまだこの件に関しては素人だということですよ・・・
良く観察して学ぶことですね・・・」
そうしてその場を後にしながら振り返ってぬけぬけと一言言い残して
いった・・・
「あぁそういえば・・・ゴアは10時に記者会見を開くそうですね」と・・・