その7

  ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
       


朝食にコーヒーでステーキをたいらげるのは
一仕事と言えるが、それだけでは終わらない・・
これからバーネットに会うという大仕事が待って
いるのだ、おそらくエースの殺し屋が出てくると
いうのは揺るぐまい・・・
ウォッカを数杯ひっかけて手の震えを抑えは
したが・・・
たとえ自分で喉を掻き切ろうとしたしたところで
ワイルドカードに感染したこの身には傷一つつく
まいが・・・
だからこそやっつけ仕事でない大舞台が好ましい
というものなのだ・・・
着替えをしつつニュースを眺めると・・・
本日最初の投票ではハートマンの票は200にまで
落ち込んだということだった・・・
ジャックの知っている代議員からも30人ばかり造反
したものがでたようで、デュカキスやジャクソンに
流れたようだった・・・
それだけではない、バーネットも40票ばかり票を
のばしているではないか・・・
急がねばなるまい・・・
ネービーブルー色をした肩幅の広いコットンの
夏ジャケットを選んだ・・・
40年前にニュージャージーの老人に仕立てて
もらったものだ・・・
それに明るめのブルーのアローシャツに黒のイタリア製
ウィングチップ、そして赤いタイを組み合わせた・・・
タイが黄色いと失敗した朝食のつぶれた卵を思い出すから
赤で良いのだ、と己に言い聞かせていた・・・
そうしてハリウッドの影響を強く感じさせる衣装に身を
包めば二日酔いも多少はごまかせるかもしれないなどと
考えながらも・・・
またディマイズがどこかから姿を現すのではないかなど
と考えてもいる・・・
そこでウォッカを迎え酒とばかりに数杯ひっかけて・・
ロビーで煙草を買っていると・・・
迎えのリムジンがドアのところに着いたようだった・・
行進するジョーカーやらバーネット支持の清教徒やら
とんがり頭のジッピィを思わせるミュータントやら
離れたホテルから吐き出されたジャーナリストやらで
通りはごった返しているなか・・・

フルールがオムニホテルのドアのところに立っていて、
それを見た神経が逆立つのを感じつつも・・・
その気持ち宥めすかして・・・
笑顔を浮かべてみせ、その手をとったところで・・・
「エレベーターを待たせてあります・・・」
とかけられた言葉に・・・
「悪くないね」と応え、よく磨かれた床をよぎっていくと・・・
「コンスウエラがあなたに失礼なことを申しあげた
そうでそれをまずお詫びいたします、ここのところ
いたずら電話のようなものに悩まされていたもので・・・」
「なぁにすんだことだ、気にすることもないさ」
「コンスウエラはグアテマラからスペイン系ユダヤ人への迫害を
逃れてきた難民で、三人の子の母親でもあります、師父は気の毒に
思ってこの国に滞在する便宜をはかっているのです・・・」
そう言ったフルールに視線を向け微笑んで見せて・・・
「それは良いことです、バーネット師父は人助けにより時間を
さいておいでのようだ・・・」
フルールは何か暗い影をみているような眼をして・・・
「師父はそう心がけておいでのようですね」
そう応えたところに・・・
「師父だけではなく、きっとあなたもそうした慈善の精神を
持ち合わせているのでしょうね・・・」
「そんな私などは・・・」
そう謙遜の言葉を言いかけたところにかぶせるようにして・・・
「純潔を糧にタキオンを立ち直らせたと伺っていますからね・・・」
そうして発せられた不躾なその物言いにフルールは目を白黒させて
いたが・・・
「だとしても、それは二人の個人的な話というものです・・・」
「立ち直らせた、というより立ちあがらせたというべきかな・・・」
さらに露骨な言葉を被せて笑顔を向けてみせたところで・・・
フルールの態度が明らかに冷たくなったと見た頃合いでエレベーターを
出るとそこには私服警備員にレディ・ブラックまでもバーネットの
スイートに通じる通路にたむろしているのを見て・・・
ジャックは気づかれなければいいのだが、などと考えながら入っていった
スイートには彼の支持者たちの活気で溢れていて、そのほとんどが魅力に
溢れた女性か若者のようだった・・・
そしてバーネットのいる部屋のドアの前で、フルールがドアをノックすると、
ドアを開けてレオ・バーネットが姿を現した・・・
38歳にしてはえらく若作りに見える男だ・・・
「ようこそ、ミスター・ブローン」そう言って手を差し出している・・・
その手を見つめながらも、手だけではなく心も掴まれてしまうのではないか
と考えながらも、なんとか平静を装って手を伸ばし、その手を掴んだ・・・
逸る気持ちを必死で宥めながら・・・