その6

     ウォルトン・サイモンズ
        午前10時


ドアの開く音で目を覚まし・・・
スペクターはベッドの下にいる・・・
一晩中こうしていて・・・
開いたときに眠っていることを考えると
恐ろしくてならず・・・
カーペットとベッドの僅かな間から
そうして瞳を凝らしていると・・・
茶色くて留め金のついた靴がタイル張りの
洗面所に入っていくところが見て取れた・・
「昨日の夜から誰もいないじゃない・・・」
黒い肌の女がそう言っている・・・
「時間の無駄もいいとこだわ、誰かを呼んで
そう言った方がいいのじゃないかしら・・・」
「それでどう言ってくるかしらね・・・」
外からの声がそう応えているようだ・・・
「私だったらそうするけれどね・・・」
その声の主が隣のベッドのところまで来て
スペクターは息を押し殺すことになった・・
そこで女は受話器を手にして、番号を押して
応答を待っていたが・・・
「事務所にはいないのかしら、いつも代議員だか
私服警備員についていきたがっているものね・・」
それから咳払いをして・・・
「はい、シャーリーンです、1031号室の清掃を完了
しました・・・誰もいません・・昨夜はウィスキーの
匂いがしていましたが、今はそれもありませんし・・」
そこでしばらく待っていて・・・
「はい、監視を続けます」そう応えて電話を切ってから、
「あのくそ野郎」
そうついた悪態に外から笑い声が漏れ聞こえてきて・・・
女はドアに向かっていきながら・・・
「監視までしなくちゃならないなら、特別料金が欲しい
ところね、それを弁えたやり手の雇い主ならば全力で取り
組むべきだと思うのだろうけれど・・・」
そう言ってドアを閉めたようだ、スペクターは外の足音に
耳を澄ましながらも・・・
たとえこじゃれたニューヨーカーだろうともこの女に
口出しするのは面倒だと考えるものだろうか、と思い
ながら・・・幾分退屈を持て余してもいる・・・
顎も3インチの釘で打ち付けたようにちゃんとくっついた
ように思えはするが・・・今すぐ移動するというのは避けた
方がよいというものだろう・・・
そんなことを考えつつ目を閉じた、カートの遠ざかる音を
聞きながら・・・