その19

       ヴィクター・ミラン
         午後4時


気が付くと鉄格子の中のでっかい黒い連中に囲まれた
部屋にいて、
夢を見ているのじゃないか、と思いはしたが、
顔とジャケットの前に、プラスチックを溶かして固めた
ような異星人のものと思しきまだ暖かい血肉のかたまりが
こびり付いているのに気がついた。
右手は何も掴んでいないが、左手はまだ振動したままで、
タキオンの首を肩の上から落とそうとしたときのままだ。
けれど今はアトランタの強い日差しの下にいるのではなく、
目の前にタキオンもいないときたものだ。
Nein(嘘だ)!」と己の手首を叩くようにして思わず叫んでいた。


Nein(嘘だ)!Nein(嘘だ)!Nein(嘘だ)」と……
また失敗したというのか、そんなはずあるものか!そう呟きは
したものの、失敗したことには変わりはないのだ。
胃がむかつく感覚と共に、髪のない黒く金のイヤリングをつけた
巨漢にみつめられているのに思い至った。
「おい、あんた!」そう声をかけられた。
「どっから入ってきやがった?」
マッキーは再び叫びを上げ、叫びをあげ始めた他の連中が
叫び声を上げることができないようにしてから、独房の柵を通り抜け、
吐瀉物の悪臭に汗と恐怖の染み渡った回廊を抜け、ニューヨークの
陽光の下に出ながらも考えていた。
アトランタに戻らなければなるまい。
愛しいあの方に再び会って信頼を回復するために、と。