その17

 ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
       午後4時


騒音にまみれ意味のないことをしている内に
午後もだいぶ過ぎてしまった。
フィルムをカットしてつなぎ合わせる感覚に
近いというものだろうか……
代議員の出入りは激しくて、
ここ30分の間でもコンスタントにハートマンの
得票は減って、バーネットはその分増やしている
ようだった。
ハートマン外しの流れとは別に、デヴォーンは、
いや誰も彼もジャックの記者会見というやつが
バーネットに利するものだったと考えているに
違いない・・・
「やれやれ」デヴォーンが群がるリポーター達に
向かって、
「そろそろ休憩といこうじゃないか、心臓が止まった
のはまだ昨日のことじゃないか、どれだけ脳にダメージが
でているかもしれない状態なのだよ……」
と伝えてくれている。
なんとありがたいことか。
変わらぬ優しい言葉には涙がでるというものだ。
考えうる唯一の救済策というものは、基準値以上の
アルコールをがぶ飲みするしかあるまいが……
ジム・ライトいうところの、投票に次ぐ投票に、
肝臓が働いていないような感覚を覚えながらも、
辺りには拳を振り上げて議論する人々が溢れ、
バンドは頭数は揃えているもののスティーブン・
フォスターからジャガー・リチャードまで節操なく
演奏していて、
ジャックは目の前に落ちたスターシャインのグライダーを
ふと掴み上げ、空に投げようとしたが、手から離れてすぐに
ばらばらとなって落ちてしまった。
ああなってはエースというよりもはやジョーカーだな。
そんなことを考えながらボトルを一本空にしていて、
酔いが醒めてきたようで、
次第に恐怖の感情が高まってきて、
飲み直すしかあるまいか。
そうとも、他にどうしようがあるというのだ。
次のボトルを取ってこようじゃないか。
そう思い立ち千鳥足で立ち上がって、喧騒をよぎって
近くの出口を目指し講堂から出たところで、
ハートマン支持のたすきをつけた若い女が、険悪な
調子で背の高い黒い男と言い争いをしているところに
出くわした。
「悪いがね、Sheilaシェイラ」
眼鏡をかけたその男はへどもどしながら、
「あの人が悪い人じゃないのはわかっちゃいるから
心苦しくはあるけれど、ジェシーにはご近所さんへの
手前というものもあるからな……」
講堂の外にはそういったざわめきが広がっていて、
ジャクソンとのぼりのかけられた平台トラックとリムジンが
人々の間を進んでいる。
今までに見たこともない数のジョーカーの間を、警笛を
鳴らしながら、
そんななかジャックも人込みを縫って前に進むと、リムジンも
進んできて、ドアが開かれて何人か降りてきた。
グレイのユニフォームに身を包んだストレイト・アローに、
ジェシー・ジャクソン、それに見覚えのある小柄な男もそこに
いる、タキオンだ。
ちょうど会いたかったところだ、とジャックが考えていると、
歓声が上がり、報道のカメラがジョーカーの姿を映していると、
群がろうとしているジョーカーに警官や私服警備員達が手を
こまねいている中、
タキオンや代議員は人々と握手を交わしていたが、
誰かがタキオンの顔に唾を吐いて、
ストレイト・アローは茫然とそれを見ていることしかできなかった
ようだった……おそらく弾丸ならばきちんと対処できていたので
はあるまいか。
そうしていると頭上か覆い被さるように影が広がって見上げると、
タートルが静かに浮かんでいた、その側面には銀の
文字で<ハートマン>と書かれている。
ジャックがそこから視線を下すと、人々の中から
見覚えのある餓鬼が飛び出してきたのが見えた。
15フィートと離れていない距離だった。
チェーンソウの手を持つあの小僧だ。
アドレナリンが竜巻のように高まるのを感じ、
「駄目だ!」そう叫んで、
がむしゃらに腕を振り回し進もうとしたが、
そこで小僧の姿を見失っていて、
首を伸ばして見回していると、
一端姿を消した革ジャケットの男はそこにいた。
警官を掻い潜って手を差し出していて、タキオン
笑顔でそれに応えようとしているではないか。
「駄目だ!」
ジャックは再びそう叫んでいたが、誰の耳にも届いて
いないようで、タキオンはその手を掴んでいるでは
ないか……