その14

 ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
       午後1時


「なんてことをしてくれたやら……」
その菫色の瞳に怒りを滲ませて、医療鞄を
手にもったタキオンの後ろには、
血液検査の結果に、バーネット言うところの
サタンの黒い雨の影響など認められなかった
事実を受けて待ち構えているレポーターたちを
ぞろぞろ引き連れているときたものだ。
「もう言わないでくれないか……」
ブラッヂィ・マリィ漬けのような状態でそう呟いて
いるジャックに、
タキオンは振り返ってつかつかと近づいていって、
尖った顎をつきだすようにして、
「あなたのしたことはバーネット指名を後押しした
ようなものではありませんか、それがわからなかった
というのですか?」と詰め寄ってきた。
「人のことが言えた義理か?」そう八つ当たりのごとく
怒りの言葉を返して、
「性質の悪いフルールなどに引っかかってジャクソンに
鞍替えしたのはどこのどいつだ?」と言葉を被せると、
「あなたもカリフォルニア代議員をジャクソン支持に
説得できるのではありませんか?」などとしれっと
言い出したタキオンに視線を据えつつ、
「少なくとも俺はそんな真似をしはしないさ」
そう冷たく応えると、タキオンも一端視線を返しはした
ものの、言葉を飲み込んだとみえて、そのままジャックの
前から立ち去ってくれた。
そこでジャックは記者控室に向かうことにした。
その部屋の後ろにはバーが設えられているのだ。
そこで151プルーフラムの500ミリ残ったフラスクを
見つけてポケットに押しこんだ。
まるで酒の力が、代議員たちからジャックの姿を安全に
隠してくれる、とでもいうかのように……