その12

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
       正午


「記者会見を開いてほしいんだ」
ジャックがそう告げると・・・
「あなたがそう言うんなら、彼らも
飛びつくんじゃないかな・・・」
バーネットも異存はないようだった・・・
見たところ党大会の指名争いから
ハートマンは脱落したように思える・・
何しろ予備投票を行うたびに票は
落ちて行っているのだ・・・
バーネット陣営自体にはさして変化は
みえないのが救いとは言えるが・・・
切り崩しには程遠いというのが実情と
言えて・・・
ロドリゲスのカリフォルニア代議員の
経過報告を聞いている、とそういうこと
になり、いい加減聞くのすらうんざりして
きていたところだった・・・
記者会見はホテルの宴会場で行われること
になった、そこはバーネット陣営の記者
控室に使われていた場所とのことで・・
ジャックはそこからブラッディ・マリーを
二杯頼んで飲んでいる・・・
そこではフルールがマイクに囲まれて何か
ぼそぼそ言っていている、マイクのテストを
行っているらしい・・・
ジャックとバーネットはそれを尻目に演壇に
立つと、フルールは胡乱な視線を向けてき
はしたが・・・それは信頼の欠片すらも
感じられない冷たいものだった・・・
ハリウッド時代によくしていたフードを被って
いはしたが、それでも裸にされたような感覚を
覚えていると・・・どうやら始まったようで・・・
「バーネット師父をご紹介する前に・・・」と
フルールの声が響き渡って・・・
「サプライズゲストをご紹介したいと思います、
ハートマン陣営のカリフォルニア代議団の代表に
してゴールデン・ボーイの名でも知られている方
でもあります、ミスター・ジャック・ブローンです、
どうぞ・・・」と言葉がつがれて・・・
ジャックはそれに応じてにこりともせずに壇上に
上がって、マイクの波に翻弄されるように感じ
ながらフードを脱いで畳んでおいてからカメラの
フラッシュに向けて笑顔を浮かべてみせた・・・
寝不足と酒浸りで目が赤くなっていないように、
と願いながら・・・
「レオ・バーネット師父と二時間に及ぶ話し合いの
機会を得まして・・」と口火を切ると・・・
オートマチックカメラの発するパシャパシャいう音が
己を貫く拳銃の発射音のように感じて・・・
ふらふらする感覚を演壇の端を掴んで堪えつつ・・・
「党大会では思いがけないことが起こることもある
ものです、不意の暴力や・・・」そこで一旦言葉を
切ってから言葉を継いでいた・・・
「暗殺が行われることすら珍しくはないようで、
実際ハートマンは二度襲われたぐらいですから・・・
そしてそれは二度ともワイルドカード保菌者による
ものであって、私がその相手をしなければなりません
でした・・・バーネット師父などはワイルドカード保菌者
こそが混乱の元凶であり、彼らに責任があるとさえ
申しておりまして・・・
私もそれには異論を持つものではありません・・・」と・・
ジャックの40年に及ぶ報道との付き合いで、カメラが
ズームしたときやシャッターの切られたときに立てられる
音というものは聞き分けることができる・・・
その音に可能な限り誠実な顔をして、まっすぐに前に視線を
向けて見せた・・・
エディ・リッケンベッガーを演じてパーシング将軍に空を
飛びたい、と告げたときのように・・・
「党大会に<秘密のエース>が潜んでいると・・・」
そこで一旦切って言葉を継いでいた・・・
「極めて影響力の強い人間が一人いて、この混乱を引き起こして
いると私は考えました・・・遠く離れた場所から法に反して
己の欲望を満たそうと望む人物が、何人かの殺し屋エースを
操ってこの混乱を巻き起こし、政敵を亡き者にしようと暗躍して
いると・・・」
それを聞いたバーネットとフルールの顔に緊張が高まるのを感じ
ながら、カメラに向かって笑みを浮かべてみせた・・・
クリント・イーストヲッドが浮かべるような獰猛な笑みを・・・
「さきほど師父と話した際に・・・私は確信を持ちました・・・
その<秘密のエース>こそが・・・」
そこで効果的に間を置いて言葉を継いでいた・・・
「・・・レオ・バーネット師父であると・・・」
カメラがバーネットの反応をとらえようと躍起になっているの
を感じながら・・・
「バーネットこそが暗殺の黒幕であると・・・」と叫んでいた・・
そうして勝ち誇りながら・・・
「もちろんレオ・バーネットは間違いなく否定なさるでしょう
が構いません・・・」
バーネットは息を飲んで、フルール・ヴァン・レンスラーの
顔面が蒼白になって唇を怒りのままに歪めているではないか・・
バーネットは何かを振り払うように首を振って前に身を乗り出して
いた、おそらく本人はそうするつもりはなかったに違いあるまいが・・
そしてジャック自身は後ろに下って、演壇を降りていると・・・
伝道師はマイクに覆いかぶさるようにして、手をポケットに
突っ込んだまま弱弱しい笑みを浮かべつつ・・・
「ジャックが何を言っているか正直理解できないわけですが・・」
そうして絞り出すように言葉を継いでいた・・・
「私が考えていたことと違った結果になったのは事実ですから、
医者のチームを結成してきっちり血液検査を行い身の証を立てる
必要が生じたわけです・・・」
そして苦笑と共に言い放っていた・・・
ワイルドカード保菌者ではないことは私自身が一番よくわかって
いるわけですが、私を嘘つき呼ばわりする者のある限り致し方ない
というものでしょうから・・・」
そしてジャックに憐れむような視線を向けて言葉を継いでいた・・
「ひどい誤解もあったようですから・・・」と・・・
ジャックは伝道師の青い瞳を見つめ返しながら、勝ち誇った感覚が
足元の黒いイタリア製ウィングチップからすら剥がれ落ち、崩れ
おちていくように感じられてならなかったのだ・・・
またやらかしてしまったのではあるまいか・・・
そう思えてならなかったのだ・・・