その23

   ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
      

「なぁジャック」
「どうかしたか、ese(スペイン語で<旦那>、とか
いった意味)」
「デヴォーンからなんだがな……」
「そうか……」
ジャックは気乗りしない声でそう応えていた。
実際ジャックは代議員達を避けていたのだ。
ジャックとしては彼らに顔向けできないといった感情を
抱いていたからだった。
「閉会中で不確定ではあるんだがね……」
ロドリゲスはそれからようやく話を切り出した。
「ジャクソン陣営に撤退の動きがあるそうなんだ。
ジェシーがこれから会見を開くとしたら、その内容に
対処する準備が必要だろうて……」と。
ジャックがその言葉に驚いて視線を向け、
「それは希望的観測じゃないのか?」と返すと、
「実際ニュースでも、ジャクソンは撤退すると囁かれているよ……」
ロドリゲスはそう言って所在なげに微笑んで、
「これは噂にすぎないがね、ジャック……
ジャクソンはボスと取引きしたんじゃないかな、
副大統領の座をぶらさげられたんだろうて……」
と言っている。
どうやらかなり広まった話のようだ。
ジャックは木曜にバルコニーから落ちて以来、碌に情報らしい
情報に触れてこなかったのだから当然と言えるだろうが、
ロドリゲスはジャックの代理としてカリフォルニアでの投票に
いったりしてしっかり鼻もきかしてきたといったところか。
だとしたら心して耳を傾けねばなるまい。
ハートマンとジャクソンが手を組んだというのか?
32年にルーズベルトとガーナーが取引をしたように、
「それでジェシーの票を加えると……」と水を向け、
「どうなるんだ?」と訊ねてみると、
「それでも足りないだろうな、ジェシーの票がデュカキスに
流れているという話もあるようだからな……」と返されて、
「バーネットが動いているということだろうか?」と訊ねながら、
さもなくばフルールが動いたのではなかろうか、と考えていた。
あの女は女狐だ、うまい汁を嗅ぎつけたに違いない。
ひょっとしたら、バーネットではなくフルールが秘密のエースでは
あるまいか?そういえばあの女に軍歴があったのではなかったか?
そんなことを考えていると、
「今朝以降に限っていうならだがね……」
流石にロドリゲスは抜け目ないようだ。
「連中に動きはないよ、確かフルールといったかな、あの女も
含めてだ、勿論接触していたとしても、連中はそれを隠すだろう
がね……」そう考えを見透かしたような言葉が返されてきて、
そこでジャックは思わず浮足立っていた。
ジム・ライトの新たな投票を告げる鬨の声が響いてきたからだ。
ジャックはそこで眩暈のような感覚を憶えながらも、
投票に継ぐ投票で、永遠に思えて何一つ確かなものがない。
これはいつまで続くのだろうか?
そんな感慨に耽っていると、
「Fuck(ちくしょう)!Fuck(なんてこった)!」
ロドリゲスがそう叫び、受話器を電話台に叩きつけるようにして
電話を切ってジャックに視線を向けている。
「デュカキスが追い上げているようだ。
どうやらジャクソンの代議員が流れているというのは間違い
ないようだ。
バーネットの方はどうやら変化はないらしい。
こちらは4分の一の得票が必要だというのにな……」
「それじゃもしかすると……」
「バーネットがトップになりかねないということだ」
ロドリゲスはそこで一旦言葉につまったが、
「デヴォーンの読みがあたったということか、だとしたら
ジャクソン撤退の噂を広めると同時に票のとりまとめもまた
必要になるだろうが、だとしてもバーネットの支持者は耳も
貸さないことは確かだな……」
「だろうな……」
ロドリゲスはそう言って肩を竦めて、
「まだ打てる手はないものだろうか?」と唸っている始末だ。
ジャックも肩が急に重くなったような暗澹たる気持ちを抱え
ながらも頭を絞り始めた。
手は打たねばなるまい、刺客エースによって被られた被害
以上の取って置きの手を、
そうジャックがとどめをさしたかたちのへまを挽回する
とっておきの一手が必要なのだ。
そこでジャックはふとカウンターの上で踊る港湾労働者を
思い返していた。
あのときと同じようにできるのではあるまいか・・・
そうデヴィッド・ハーシュタインならばとっておきの一手
たりうる。
あの男を引っ張り出せば党の方針争いを優位に進められるに
違いない。
あるいはハートマンの推薦すらも勝ち取れるのではあるまいか。
いやそうはうまくいくまいか。
多くの人々がテレビを通して党大会の様子に注目している以上、
何かおこせばすぐ気づかれてしまうに違いない。
それに空調設備がフェロモンさえも空気共々浄化してしまうかも
しれないし、
ハーシュタインのフェロモンをもってしても、一度に影響を行使
できうる人間は精々数人というのが関の山というものではあるまいか。
だとしたら……
要人数人に狙いを定めればいいのではあるまいか。
たとえばバーネットの選挙参謀はどうだろう……
そこでジャックは、オムニの中庭に面したベランダに下着を引っ掛け、
受話器を片手にレオ・バーネットにタキオンとの情事の様子を囁くと
いったフルールの妖艶な姿を思い描いてしまって、そのイメージを
頭から振り払いながら……
デヴィッド・ハーシュタインとてあの連中は腹にすえかねているの
ではあるまいか。
だとしたら力を貸してくれるというのもありうる話だろう。
ハーシュタインとてハートマンの勝ちを願わないということはあるまい。
そうでなかったとしても、
ジャックはハーシュタインが秘密のエースであることを知っているの
だから、その秘密を暴露するという最悪の手もうてるというものだろう。
そんなことを考えて胃がむかむかして吐き気すら感じていると、
ジム・ライトがアラバマでの得票を読み上げていて、
それはバーネット優勢のようだった。
ジャックはそこで意を決し、カリフォルニア代議団からニューヨーク代議団
の間を探していると、
大きな演壇の前で腰を掛けたニューヨーク代議員の中に、娘の得票に目を
凝らしているハーシュタインを見つけ出して、
強い決意をこめた視線を向けて、ハーシュタインの肩を叩いて注意を引いて、
席を立てないようにしていると、
俳優は険悪な光を目に宿し、
「私は構わないでくれといったはずだがね、理解してくれたのではなかった
のかな?」と抗議の言葉を向けてきた。
そこでジャックは早口になりながらも「聞いてくれ、大事な話があるんだ。
おそらくジャクソンが意思を表明する前に手を打たねば手遅れになるだろうな、
その前に我々陣営の強化を図らねばならない……」と言い募ったが、
「ハートマンのためにかね?」そう嫌悪も露わに言い放ち、
「それが俺と何のかかわりがある?」と返された言葉に、
「バーネットの票が固まってからでは遅いんだ。
俺達でフルールと話して、その考えを変えなくてはならないだろう……」
「俺達だって?」そう返された言葉は地の底から響くかのように冷たいもの
だった。
「で手をかさなかったらどうするつもりだ?ハートマンにでも話すつもりか?」
ジャックは首を振って否定の意思を示し、
挫けそうな意識を振り払いながら、
「知っているのは俺だけだ・・・誰にも話していないからな、ならば断わる
理由もないということじゃないか?」
ハーシュタインはいかにもうんざりとしたように髪をかきむしりながら、
「それでバーネットの選挙本部に乗り込んでいって、片端から気持ちを
変えろとでもいうのか?」
まるで自分に言い聞かせるようにそう呟いた…ハーシュタインに、
「相手をしてほしいのは一人だけだ、フルールたった一人でいい……」
と言葉を返すと、
デヴィッドソンは視線をそらして、考え込んでいて、ジャックがその沈黙に
耐えかねた頃合いに、
「私には新しい暮らしがある」
デビッドソンはそう言ってから言葉を継いでいた。
「家族もできたから、あの娘たちを危険にさらしたくないんだ。
偽りの人格とはいえ、そういった謀略には向かない人間になったんだ……」
そこでジャックに視線を戻して、
「それに年をとりすぎてしまった、もはやそういった激務に耐えられる状態に
ないんだ、たとえそれがどんなに必要な仕事であろうともだよ……」
ジャックは驚きつつも、デヴィッドソンの言葉を理解していた。
「頼んでいるのはそういう仕事じゃないぜ」
ジャックはそこで様子を見るようにして言葉を継いでいた。
「それに人にかかわりたくないというならここに来ているはずもない、
そうじゃないか……」
「ジャック、あんたにはわからないだろうな、実際わかるはずもない、
私は他人に好意を抱かせるようにしているわけではなく、自然にそうなってしまう
だけなんだ、だからその能力をコントロールすることはできないし、私自身が代議員
になって好意を集めようとしたわけでもない、実際人の気持ちをどうこうする権利など
私にはないからな、これでわかってくれたかな?」
ハーシュタインはそう言って首を振り、激しい拒絶を示しているではないか。
ジャックはその言葉に同意してそこを立ち去りたい強い衝動に突き動かされつつも、
「それじゃこう考えたらどうだろうか」
ジャックは必至で言葉を絞り出していた。
「多くの人間を危険にさらす一人の人間相手なら闘うべきではないだろうか?
そうしなければあんたの娘さんすら危険にさらすというならどうだろうか?」
そこでジャックはその名前を指し示しつつ、
「シェイラといったかな?」と口に出してから言葉を継いでいた。
「シェイラとて染色体の中に、ワイルドカード因子を受け継いでいるはずだ、
たとえ奥さんが感染していないにしても、なんせあんたの娘だからな……
今はその因子が発現していないにしても、結婚して子供を産めば、その子に
発現するかもしれないんだ……」と。
ハーシュタインは何も答えはしなかったが、その視線が娘のいる代議員たちの間を
彷徨っているのに気づかれたのか、シェイラは振り返って、困った顔を向けてきた、
おそらくシェイラもハーシュタインの過去を聞かされて知っているのではあるまいか、
ジャックはそう考えて、
「バーネットが大統領になったらどうなると思うんだ?」
そう切り出して反応を見つつ言葉を継いでいた。
「きっと郊外の環境の整った鉄条網で囲まれた病院にあの娘たちはおくられることになって、
あんたは孫の顔を見ることはけしてないというおちがつくのだろうな、実際バーネットは
そう公言して憚らないのだからな……」
ハーシュタインはそこで顔を上げ、冷たい視線をジャックに向けながら、
「二度と私の娘の名を引き合いにださないでもらおうか、それであの娘たちを危険に
さらすということは私がけして許さないことは覚えておいた方がいい……」
ハーシュタインはそこで黙り込んで、再び娘のいる方向に視線を彷徨わせていたが、
「うんざりするまでにかかわってきたじゃないか、謀略にテロ、戦火に災害、それは
墓にまで引き摺っていかねばならないのだろうか?」
そう抑揚を欠いた言葉を発し、ジャックに視線を向けてきたハーシュタインに、
「認めようが認めまいが、できることはやるべきだと俺は考えているがね……」
ジャックがそう返すと、
「些か驚いたよ、まさか強迫までしてくるとはな、嬉しくて涙が零れそうだ……」
あんたはその人生を自分で選ぶことができたが、俺はそうじゃなかったんだぜ

ジャックは内心そう思いはしたが口には出さなかった。
実際ジャックには新たな人生をおくるなどということは考えもつかなかったわけだが、
そんなことを考えつつ、オムニホテルについて、ジャックとハーシュタインがバーネットの
選挙本部に至るエレベーターに辿り着くのに10分もかからなかった。
そこにはバーネットの支持者と思しき人々がいて、ジャックに視線を向けてきたが、
それを無視するか考えないでおこうと努め、
IDを示してホテルに入り、選挙本部にまで入り込むことができはしたが、代議員達には
護衛がついていて、バーネット自体は別の部屋にいるようだった。

エレベーターを待つ間に、フロントデスクから便箋を調達し、文字を書き込んで、
フルール・ヴァン・レンスラー宛と宛名書きを認めた。
その文面はこうだった。


<わずか5分ばかりお時間をいただきたい。
さもなくばタキオンと貴女の間で交わされた肉の罪が世間(のみならずバーネット
師父にすら)周知のものとなる>

そういった文言を
<主の御恵みのあらんことを>という言葉で締めくくって、

ジャック・ブローンがそうした手を汚すことにすら覚悟を強めていると、
エレベーターのドアが開いて、中に入っていくと、
尼と思しき蒼い装いをした小柄なバーネット支持者の女性が二人ばかりいたが、
驚いたことに、微笑んでエレベーターに手招きしていて、バーネット選挙本部に
通じる階のボタンすらも押してくれていた。
ジャックがエレベーターに入っていくと、距離をおかれはしても、誰もジャック達を
止めようとはしなかった。
それからエレベーターを出て、選挙本部に向っていくと、電話対応をしている女性が
何人かいるようではあったが、フルールは見当たらず、
ジャックは苦笑しながらも、近くにいた人間に向き合って、
「あんたたちの大将であるあの女はどこだ?」と声をかけると、
17歳ぐらいの鼻の頭に眼鏡をぶら下げた可愛らしい金髪のその女性(胸の名札を見ると、
ビバリーという名のようだは)は視線を向けてきて、
「あ……えーとあなたは……」などと応えあぐねているところに、
ハーシュタインは身を屈めて顔を近づけ、
「話して心配ありませんよ」などと言って微笑んでいる。
「え〜と」と尚も判断しかねた様子のその娘に、
「本当に心配ありませんよ、ビバリー」とハーシュタインが優しく言葉を被せて、
「ミスター・ブローンは仕事で顔を出しただけで、私はその付き添いにすぎないのです
から……」と言葉を添えると、
ビバリーはようやく落ち着いた様子となって、
「ミス・ヴァン・レンスラーは事務局にいらっしゃいます」と応え、
「ドア二つ向こうの718号室です」と親切にも教えてくれた。
「ありがとう」などと礼を言っていると、
警報のような音が鳴り響いて、注目を集めることになって、どこかに連絡された様子
だったが、ジャックが宥めるように笑顔を向けて、手を振って部屋を出ると、
ハーシュタインが着いてきて、
「小さい部屋だといいんだがね……」と小声で言ってから、
「エアコンがどんな効果をもたらすかは未知数だからな」と呟いている。
そうして718号室の前に立って、ドアをノックすると、
部屋からはテレビの音と、電話の呼び出し音が鳴り響いてきて、
呼び出し音が収まると、駆け寄る音の後に、ドアが開かれた。
そこには白髪交じりの男が立っていて、険悪な怒りのこもった視線を向けている。
そこで中から「たしかに」とフルールの声が聞こえて、
「あの男が来たわね、ありがとう、ベロニカ」と締めくくっている。
「あんたはここじゃ歓迎されていないんだがね……」
そうすごむ白髪交じりの男に、
「ミス・ヴァン・レンスラーに会いたいんだがね」と伝えると、
男は応えずドアを閉めようとしたが、
ジャックがドアを押して、そうさせないようにして、
「頼むから」と言葉を尽くしていると、
乱暴にドアが開かれて、
四角い縁の読書眼鏡をかけたフルールが視線を向けてきた。
その口は残忍な表情を帯びていて、後ろにやはり険悪な表情をした人間を何人か
従えているようで、
反対側の壁からテレビの音量が響く中、
「あなたと話すことなど何もありはしませんよ、ミスター・フブローン」
そう言い放ったフルールに、
「俺にはあるんだよ」ジャックはそう応え、
「まずはお詫びしたい」と言葉を添えると、
「それは当然のことね」フルールはそう言ってドアを閉めようとしたが、
「数分でいいんだ」ジャックがそういい募っていると、
「忙しいのよ、アポをとってからにして頂戴、党大会が終わってからね……」
と取り付く島もない、そこでジャックはドアを数インチ空いた状態で抑え、
「だったら」と言葉を絞り出して、
「アポならここに書いてある、今読めばいいだろう」と言葉を添えて、
ポケットから出した便箋を隙間から放り込むと、ドアが閉じられはしたが、
駆け寄ってきた二人の守衛を見つめることのなった。
こいつらは電話の女が呼んだに違いない。
そういや朝鮮半島で、ロシアの戦車を山から放り投げたときのやつらの剣幕も
こんな感じだったな……
などとぼんやり考えていると、
「おいあんた」と近い方の男が声をかけてきた。
「ミス・ヴァン・レンスラーがアポを受け入れてくれたらすぐにお暇するから
心配ないよ」と声をかけると、
二人は顔を見かわしていたが、
「騒動が持ち上がったと聞いたから呼ばれているんだがね」ともう一人が意を
決したようでそう返してきて、
「騒動だって、そんなものありはしないさ」
そう言葉を被せたがもうどうにもなりはしないかと観念したころ合いだった。
ドアが開かれて「5分ね」とフルールがそう声をかけてきて、
「それ以上はないわ」そう言葉を添えて、傍の男たちを視線で示しながら、
「ピケンズ師父にミスター・スマット、それにミスター・ジョンソンが何か
あったらただでおかないことは覚えておくことね……」
とすごんでみせたときたのだ。
ジャックと入れ替わりに男たちは胡乱な目を向けつつ出て行ったが、ジャックの
後に続いてハーシュタインが入ろうとすると、
「この男は?」とフルールが胡乱な言葉を向けてきた。
「この男は承知した覚えはないわ」と被せてきた言葉に、
「ジョッシュ・デヴィッドソンだよ、マダム」ハーシュタインは舞台で見せるような
お辞儀をしてそう応え、そのまま様子を伺っている。
「家族ぐるみのつきあいのある古い友人なんだ、構わないだろ」とジャックが口を
添えると、
「外で待っていていただきます」と取りつく島もない。
「マダム、私はおとなしくしていますから……」
ハーシュタインがそう言って、
「空調の聞きすぎた外というのも年寄りにはこたえるものです、寒くて目や手も乾いて
かさかさになるんだよ、、老いた身体にもこたえるし、脚も弱っている、お腹ばかりは
重いときたものだ、憐れな老人だよ、そんなに邪険にする必要もないのじゃないかね……」
と言い添えると、
フルールはハーシュタインに視線を向けて、唇の端を曖昧な笑みに見えるかたちに歪めながら、
「善意というものもときには必要でしょうね……」フルールはそう応え、
「まぁいいわ、いて頂戴……」と不承不承同席を許していた。
そこでジャックは内心こう思わずにはいられなかった。
気の毒な話ながら、あんたの善意は報われることはあるまい、と。



        ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
              午後9時


ジャクソンが行動を起すのには先んじることができた。
圧倒的なまでにうまくいったといって差し支えないのでは
あるまいか。
ハーシュタインは別れ際にフルールの手にキスをするぐらい
ご機嫌だった。
そうしてエレベーターに向かいながらも、
「これで大統領は決まったようなもんだな……」
ジャックは半ば酔ったような気分で、シャンパンでも飲んだ
気分でそう言うと、
ハーシュタインは歩みを止めずに、
「まぁ今のところはうまくいったかな」と応えたハーシュタインに、
「やっちまったことはどうしようもないからな」などと応えると、
ハーシュタインも「できることはやった、といったところかな」
などと言ってはいたが、
ジャックに視線を据えて、
「だからこれで終わりだ、私にも家族にも二度と近づかないことだ、
さもなければただですまないことになる、これは警告だ」
それを耳にしたジャックは背筋が寒くなるのを感じつつも、ハーシュタインを
先に一人でエレベーターに乗せて、ジャックは次のエレベーターを待つことに
なったのだもはや……一人で……