ワイルドカード6巻 その21

            第二章  

         1988年7月19日
            午前8時

       メリンダ・M・スノッドグラス

昨晩は酒を過ごしすぎて正体をなくしていたのだろう・・・
留守電にも気がつかなかったのだから・・・
今は目もしっかり焦点を保っていて、頭のちかちかする感覚も
幾分落ち着いたように思えるが・・・
ともあれタキオンは水に溶かしたAlka-Seltzerアルカ・セルツァー<頭痛薬>を少し飲みながら、呼び出し音に耳をすましていると・・・
ブライス・ヴァン・レンスラー記念クリニックです」
ようやく応じる声がした・・・
タキオンです、フィンを頼みますよ」
「やぁ、ドク、ようやく気がつきましたか」
「ええ」
「大騒動でしたよ、昨晩バーネット使節団の襲撃に見舞われましてね、
チェータムスクエアで抗議集会をやってた連中らしくて・・・
何度もあなたに連絡をとろうとしたのですよ」
「部屋に戻った時間も遅かったですからね」
「私も例の検視に立ち会ったのです、詳細を知りたいですか?」
タキオンは溜息をつきつつ応えた・・・
「知らないわけにはいかないようですね」
フィンの所見を聞きながら・・・
ポニーサイズのケンタウロスがその可愛らしい蹄を神経質に
動かしてそれを打ち込んださまを思い描いていると・・・
ジョーカーの内科医はそこで面白くもないといった調子で
「これで棺桶でも作れますよ」と言い添えて言葉を切った。
「ところで葬儀はいつ行うのですか?」
「明日朝11時からだそうです」
「顔をだすとしよう」
「渦中のそちらはいかがでしたか?」
「混乱の極みです、まったくあの代議員
どもときたらまったく・・・」
そこで時計を確認して言葉を切った。
「もう行かなくては、それでは明日に・・」
帽子を摑んで、バスルームのドアにかけ、
迸る水に身を任せながら・・・
「ジャックと朝食を一緒に食べることに
なっていますから、10時半にはオムニに
着いていなけりゃならん・・・」
そう念を押してみたが、ブレーズからの返事はない・・
考えがあるのか拗ねているのか・・・
どうせ碌なことではあるまいが・・・