ワイルドカード6巻その7

                  ヴィクター・ミラン

午前9時

「セイラ」リッキー・バーンズがささやいている。
「ハートマンの件からは手を引いた方がいい……正気とは思えない、意固地になって
反応してるだけじゃないのか」
緑のチェックに彩られた円形テーブル、ル・ピープの窓際で外に視線を向けると、ピーチツリーセンターやハイアットロビーにまっすぐ向かう政治文句に彩られたやぼったい代議士たちがタイルの目のように目に付く、自由になる範囲にあるファーストフードにホテルのレストランに群がって、新たに名物と謳われている卵料理に競って群がっているのだろう。
ローリングストーンズは<80年代の疾患>と謳っていたけれど。
そんなことを思いながら、フォークでオムレツを切り分けている。
白くなりかけた髪を右から左に流し、
膝下まで簡素なピンクのドレスで覆い、そこから黒いストッキングが伸びて、その先に履いた白い靴がウェッジがたって楔のようにすら思える。
バーンズはというと、きっちりした黒のツーピースに身を包み、その下には白いシャツとサスペンダーを覗かせている。
爺むさい金縁眼鏡を除けば、映画<Inherit the Wind風の遺産>に出てくる几帳面な南部のMinister牧師のようだ。
「AIDS報道より加熱気味じゃないか。
このところ君の売りであるジョーカータウン情勢も書かれてなくて、ワシントンの君のデスクの上はアトランタのことで埋め尽くされている。
これまで彼との個人的関係があったとしても、君は優秀な記者であって、グレッグ上院議員の太鼓もちではなかったはずだよ。
彼を買っているKatie Grahamケティ・グラハムなんかもいい顔はしないんじゃないかな」
「私たちはジャーナリストなのよ、リッキー」
その白い指を彼の前のミルクチョコレートの載ったプレート数センチ前において激昂してみせたが、彼は応じはしなかった。
コロンビア大学でともにジャーナリズムを専攻した古い友人で互いを知り尽くしているからだろう。
とはいえその控えめな外見の奥の彼の性分をセイラもまた知り尽くしている。
「だからこそ真実を報道しなくてはならないんだ」
リッキーはそのしっかりと整えられた髪の乗った頭を振って応えてから続けた。
「セイラ、セイラきみはだね、それではあまりにも大人気ないというものだよ、経営者やスポンサーが何を望んだとしても、我々は中立でなければならない、もちろんそれを有権者におきかえてもかわりはしない、私怨ではなく真実を報道していると言い切れるのかい」
セイラの性分を知り尽くしたうえでそれをいっているのだ。
「それが誓って真実、グレッグ・ハートマンは人を死に追いやる怪物で、私はそれを告発するのです」
それはミーシャの言った言葉でもあった。
そう応えねばなるまい。
それは己に発した宣言でもあったのだから。