その22

              ヴィクター・ミラン
                午後10時


「・・・精神的に不安定なところがあるのです」赤毛に長髪の小男がテレビの
画面でそう語っている、その後ろには「JAC」と「SON」と書かれた文字が
両側に掲げられていて、その傍にはにやついた黒い男がたちが控えているときた
ものだ・・・
「あのくされ***野郎が!」
マッキー・メッサーが叫んでいる・・・
ポークリンドを食い散らかしながら怒りのままにTVに向かって叫んでいるのだ・・
皺一つないベッドカバーの上に痩せて捩れた身体を投げ出しているさまは・・・
まるで超電導にとらわれたちっぽけな磁力の染みのようだな・・・
そんなことを考えて齧るポークリンドはほとんど塩と油の味しかしやしないときた
ものだ・・・
Derr Mannあの方は別に引っ込んでいろと言ったわけじゃないではないか・・・
別にそのままいてもよかったではないだろうか・・・
それでもこうして近くの空き部屋二控えていれば・・・
何が起ころうが壁を通り抜けて駆けつけることができるだろうというもの
だろう・・・
拒絶されるのには慣れているというものだ・・・
それはもはや馴染みの感覚といっても差し支えあるまい・・・
そうしてTVを眺めていると・・・
タキオンが不思議な光を湛えた視線を前に向けて再び語り始めた・・・
マッキィにはその視線が闇の奥を見通そうとしいるように思えるものだった・・・
「ハートマン上院議員はもはや民主党公認の大統領候補として相応しくないと
判断し、ジョーカーの権利擁護の意思を強く表明しているジェシー・ジャクソン
師父の支持に回ることを決断いたしました・・・」
Nigger***支持に回るだって・・・
あのいけすかない異星の男はあの方を凶暴な連中の渦中に置き去りにしようと
しているのだ・・・
とはいえあの金髪の売女を仕留めそこなってしまった以上・・・
マッキィとてあの方の拒絶すら受けるに値しないというものだろう・・・
母に捨てられたのも結局そういうことなのだ・・・
そうして抱えた枕を涙で濡らしながら、顔を深くふかふかの枕に押し付けていたの
だった・・・
涙に溺れていくように・・・