その16

          ウォルトン・サイモンズ
             午後7時


きつく押し当てていただけに離したときには音が立ったほど
だった・・・
ともあれ壁に面したドアのノブに手をかけ回しながら・・・
     「なんて話を聞いちまったんだ!」
と悪態をついて重い息を吐かずにはいられなかった・・・
書類かばんを掴み・・・
寝室に戻って、ベッドの上にかばんを置いて・・・
鼻の脇を擦りながら思案に沈んでいた・・・
彼らを弄び苦しませているのはハートマンであったのだ・・・
ということはトニーには手を引かせるべきだろうし・・・
公園に集ったジョーカーにもいい面の皮というものか・・・
あの野郎はエースで悪の黒幕であるどころか・・・
人々を操って汚い仕事をさせておきながら、己はまったく
を汚しもしないときているのだから・・・
アストロノマーの爺さんよりたちが悪いかもしれないの
だから・・・
そんなことも知らずハートマンの術中に陥っていたことを
考えると忌々しくてならないわけだが・・・
不意打ちをくらったようなものとはいえ・・・
怒りが痛みと共に湧きあがってきてならない・・・
何かし返してやらねば腹にすえかねるというものだが・・・
そうすると結局最初の契約を履行することになるか・・・
タキオンはあてにしたところではおそらく何もできない
だろうから・・・
そう考えているといると内から妙な使命感が湧き上がって
きて身震いながらも・・・
むくむくと維持の悪い感慨も首をもてがてきた・・・
そうやって厄介ごとを引き受けては常に貧乏くじをひいて
きたじゃないかと・・・
そんなことを考えながらスペクターはジャケットに袖を通し
廊下に出て・・・
ハートマンの部屋に向かい・・・
ドアノブに手をかけたところで・・・
「誰だあんた?」と声をかけられた・・・
その声に弾かれたようにノブから手を放し、声の方に
視線を移すと・・・
そこにはジャック・ブローン、いわゆるゴールデンボーイ
いて、胡乱で不機嫌な視線を向けているではないか・・・
スペクターはとっさに駆け出したが、重い足跡が追ってきて
いて・・・
吹き抜けの階段につながるドアを通ろうとしたところで・・・
何者かに肘を掴まれて壁に押し付けられた・・・
背の高い金髪の男が、スペクターの手を捩じりあげている
のだ・・・
そこでスペクターはもう片方の手でサングラスをはたき
落として視線を合わせることに成功した・・・
どうしてこんなナチの青年隊みたいな剣呑な男の相手を
しなきゃならないんだ・・・

そうぼやきはしたがそれだけではすまなかった・・・
床に死んだ男が倒れこんだと同時にドアが開いて・・・
ゴールデンボーイが姿を現したのだから・・・