第5章その26 第五章完

     メリンダ・M・スノッドグラス
         午後11時


タキオンはナースステーションの壁を力一杯殴っていた・・・
痛いのはわかっていたが、そうせずにはいられなかった
のだ・・・
「どうして引き留めておかなかったのですか?出来たはずでは
ありませんか?必要だった、いえそうせねばならなかった、
というのに・・・」
「ドクター」細身の黒い肌の看護婦が辛抱強くそういって
から応えた・・・
心療内科のドクター・イングリッシュを呼びましょうか?」
「私が会わなければならないのは・・・ミスター・ブローンで
あって、精神科医じゃありませんよ・・・」
「あの方は・・・ここにはおられません・・・」
看護婦のその言葉も、タキオン同様断固としたものだった・・・
そこでタキオンは肘を掴まれた・・・
それは万力を思わせる強い力だった・・・
「ダンサー、こっちだ」
その言葉に振り返ろとしたところで、痛みを感じ呻きを漏らすことに
なった・・・
ポリアコフにその万力のような強い力で肘を捕まれて・・・
関節が悲鳴を上げているのだ・・・
タキオンが抵抗せずに従うことにしたところで・・・
「やっと覚悟を決めてくれたんだな、二人でテレビの会見を見て
いてそれがわかったよ・・・」
「二人で、ですって?」
タクシーを呼び止めながら・・・
「セイラだよ、あの人を保護しているんだ・・・」
と応えたポリアコフに・・・
「理想の名にかけて、あの人に会わねばなりません・・・」
と応えると・・・
「案内すると思っているのか?」
そうポリアコフが言い出したところで、タクシーのドアが開かれた、
タキオンの前に横たわる・・・
前途を象徴するかのように・・・