第五章その5

ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
午前10時


ジャックが事故の話を聞いて最初に考えたことは、

<秘密のエース>が関与するのか、ということだった。
「で上院議員は今どこに?」
「病院です」
「それでレイは?」
「同行しています」
レイがいるなら心配はあるまい。
ならばジャックがすべきことは別にあるというものだ。
セイラの残した危険なメモはジャックの胸ポケットに収まって
いるが妙に冷たくのしかかるように感じられて、
思わず周りを見廻したものの、
選挙本部の周りにもありきたりの運動員が黙々と集っているに
すぎない。
秘密のエースが最初に狙うとしたら最初に狙うとしたらハート
マンだろうとジャックは考えている。
なぜならば今のところハートマンが際だって代議員の票を集めて
いるからで、
そう考えるとこれまでのことにもすべて説明がつくように思えた
からだった。
テレビからはカーターによる二回目のスピーチが流れていて、
エレンの流産による党綱領に対する影響が話されていたようだったが、
今はコマーシャルで中断しているようだ。
そして事故のことを考えると沸々と湧き上がるような怒りを感じてならない。
もし秘密のエースの仕業とするなら、代議員を狙うのみならず、縁故の市民をも
巻き添えにすることも厭わないやつだということになるからだ。
セイラ・モーゲンスターンのみがそのエースの正体を知っているはずなのだが
行方をくらませてしまっていて、私服警備員と手分けして一晩中探してはいるが
まだみつけられずにいるのだ。
デヴォーンも選挙本部から出払っていて、
エーミィの姿も見えない。
そこでジャックは自分で電話してクレジット払いで誠実な愛を現す1001本の薔薇を
注文しエレンの病室に届けるよう手配しておいた。
それからメディアセンターに向かった。
そこで未使用のVCRビデオデッキを見繕い、テープに他の候補の経歴を入れて部屋に持ち帰った。
何にせよグレッグ・ハートマンの立候補は確実であろうし、ジャックの意思は決まって
いるのだから迷うまでもないことだろう。
ロドリゲスを呼んで代議員投票の委任をして、残りの投票をすべてハートマンに対して
入れるよう頼んでおけばいいだろう、ジャックには他にやることがあるのだから。
そうだ、<秘密のエース>を狩り出しに行かねばなるまい。
そう決意していたのだ。