2009-01-01から1年間の記事一覧

「手繰られしものたち」その9

手繰られしものたち ヴィクター・ミラン「あの悲鳴ときたら」アネッケと呼ばれた赤毛の女が囀っている。 「豚どもの一人はJewユダ公だったじゃない」 まだ朝早く、ラジオからカタカタいう雑音とともに、誘拐に対する 憶測というものが流れていて、テロリスト…

「手繰られしものたち」その10

手繰られしものたち ヴィクター・ミラン同士モルニヤはため息をつきつつ、腰を下ろした。 鋭敏な感覚に反応しているのだろう、首筋と手甲の毛が逆立つのを感じている。 とはいっても能力としては高いものとはいえず、対処の手段もみつからない。 おそらく互…

「手繰られしものたち」 その11

手繰られしものたち ヴィクター・ミラン「ヘル・ドクトル」タキオンは自然と鼻の脇をこすっていた、苛立ちが高まっているのだ。 もう二時間もつき合わされている。 そうして外部の情報も一切摑めていない・・これでは何もしていないに等しいではないか・・ …

「手繰られしものたち」その12

2時30分 ハイラム・ワーチェスターが英語で囁き、 タキオンがそれをドイツ語に訳している 「ウルフさん、それにギムリ、聞こえていますか」 ハイラムの言葉には揺れ動く感情が感じられる。 「上院議員をかえしていただきたい、我々には 個人として交渉す…

「手繰られしものたち」その13

手繰られしものたち ヴィクター・ミランドアを見つめていた、表面の白いエナメル塗装が剥がれ落ちて、その下から緑にピンク、 茶色の導線が覗いている、誰かがナイフ投げの練習でもしたかのようだ・・この部屋には 他に誰もいないのは明らかなのに・・あの口…

「手繰られしものたち」その14

手繰られしものたち ヴィクター・ミラン おまえが欲しい その声に、ハートマンはむさくるしく小さな部屋を見渡した。 ウルリッヒは行きつ戻りつしながら不機嫌な面をさらしている。 がたいのいいウィルフリードは腰を下ろし、細心の注意を傾けてアサルトライ…

「手繰られしものたち」その15

「また雨だ」タキオンにすがってザヴィア・デズモンドがこぼしている。 真顔を通し、何度も聞いたその言葉を聴いて同じように丁寧に応じる。 デズは友人なのだから、と己に言い聞かせながら・・・ そうして添えた手を傘にずらしてデズと一緒に耐えながら、ス…

「手繰られしものたち」その16

「Political Police国家警察の人間だ」口の中の食べ物をくちゃくちゃ噛みながらニューマンが応えた。 「もちろんPopo国警などと略しはすまいが・・」 「ヘル・ニューマン・・」 機械工のつなぎを着た男が困惑の視線を送っていたが、かまわずニューマンは続け…

「手繰られしものたち」その17〜18

「Bastardあの野郎ども」 レインコートの裾から雫を滴らせながらギムリが息巻いている・・・ 「Cocksuckersやつら俺たちをはめやがった」 シュラウドとスクレープは、嘆いているAardvarkアルドヴァルクの傍で、 薄く汚れたマットレスの上で身を寄せ合ってい…

「手繰られしものたち」その19

シュラウドがアルドヴァルクの上にミイラのように覆いかぶさっている。 ベッドルームに積みあがった5リッターのプラスチック容器に入った水に 包帯を浸し、額に乗せて、己に言い聞かせるようにぶつぶつ呟いている。 その様子を瞳に宿る悪意を隠そうともせず…

「手繰られしものたち」その20〜21

Brandenbergブランデンベルグ平原の西側、都市部にも日が落ちようとしていて・・ 小さなラジオからは東方の音楽が零れ、小さな部屋が熱帯のように感じられている・・・ 遺棄されたビルであるにも係わらず、暖房から吹き上げる熱によって、同士ウルフの身体に…

「手繰られしものたち」その22〜23

ギムリはそのぼこぼこした頬に涙が溢れさせ、「もうたくさんだ」とこぼしながらすすり泣いている・・・ 「医者に連れて行くんだ、今すぐにだ」 そういって屈みこんで首に手を回し、苦悶の表情を浮かべている。 シュラウドは包帯に隠されて表情自体はうかがえ…

「手繰られしものたち」その24

ウルリッヒがその大きな拳を振り回して叫んだ。 「それでどうなったというんだ」 スツールに腰掛け膝に手を置いたウルフは、 目に見えて年老いて見える。 弁護士と活動家という二つの顔を使い分けてきた男ながら、今回のことはこたえたらしく、酸っぱいもの…

ワイルドカード4巻「ザヴィア・デズモンド」の日誌Ⅷその1前編

ザヴィア・デズモンドの日誌 G・R・R・マーティン 2月7日 アフガニスタン、カブールなんとか痛みをあしらうのにも慣れてきましたが、さすがに他の皆さんと同じように 史跡巡りの観光に回る気になどなれはしません。観光・・・・・・いやそうではないのでしょう、…

ワイルドカード4巻「ザヴィア・デズモンド」の日誌Ⅷその1後編

ザヴィア・デズモンドの日誌 G・R・R・マーティン 2月7日 アフガニスタン、カブールアフガニスタンのことも書くべきかもしれませんが、あまり記録も残して いませんし、カブールの景観を楽しむ余力もありはしませんでしたが、妙 にソビエト人が目につきま…