「手繰られしものたち」その13

          手繰られしものたち
                 ヴィクター・ミラン

ドアを見つめていた、表面の白いエナメル塗装が剥がれ落ちて、その下から緑にピンク、
茶色の導線が覗いている、誰かがナイフ投げの練習でもしたかのようだ・・この部屋には
他に誰もいないのは明らかなのに・・あの口笛が響いているように思えてならない・・
それが正気を削るようにすら思える。
行かせるべきではなかったのだ
ギムリとウルフが使節団と会うことにしたのだ・・何かの茶番かもしれず、水面下のこととは
いえ、彼らの意見が合ったのは初めてのことだろう・・・
断固として止めるべきではなかったろうか・・・
どうにもきな臭いものを感じてならない・・・
実際レーガンが交渉することじたいを公式に否定している以上、これは愚行以外の何もの
でもない、だがIrangate Hearingsイランコントラ事件の例もある、テロリストと目される相手と交渉することは、公式の場では不可能と思われていても、個人ならば可能となりうるという見解が示されたといえよう・・・
だとしても、モルニア個人としては、これまでは出された命令に従うということは疑うべくもないものであった・・・
それを発するのはプロであった、スペツナツは精鋭に有能な軍医といったソヴィエトのエリートにおいて構成される軍隊なのだから、あの無秩序な素人どもや殺人狂とは当然異なるといえるが・・・もし祖国に帰還できたならば、それは韓国やイラクといった同盟国でも構わない、
そこの軍事基地に配属されたならば優秀な軍人を鍛えることができただろうが、ギムリやあの連中のような輩では頭蓋に穴を開けて、インプラントでも埋め込まない限り、そうすることも不可能であろう・・・
係わること自体御免こうむりたいものであっても、ここにいるしかない、捕虜のガードを勤めるしかあるまい、ハートマン抜きではさらに混乱も深まるというものだろうから・・・
KGBの手操る糸に結ばれた、混乱を引き起こすためのPuppets操り人形にされているのではなかろうか
それは当然ありうる話だ。
彼らビッグKは、メキシコをはじめ、様々なところで謀略を巡らし混乱を広げ、GRUを悩ませたではないか・・・
そうしながらもKomitet(KGB)の広報係はうまく立ち回って隠蔽をはかっているゆえ、鋼鉄の壁に阻まれることなく彼らは暗躍している・・・
そのイメージはモルニヤの脳裏には、世界に蜘蛛糸を巡らせた巨大な人形遣いのように知覚されている・・・
自分がその上手を行くことを想像し笑みを浮かべようとしたがうまくいかなかった・・・
蜘蛛なんかじゃない、ただの焦燥し怯えきった、かつてヒーローと呼ばれたこともあった一人のちっぽけな男にすぎない・・・
娘の一人Ludmilyaルドミーヤのことに頭を切り替え、そして言い聞かせる、確かに糸は巻きついているかもしれないが、この糸だけは望んで巻いたものだ、それで充分じゃないか・・・
俺は糸を手繰る存在じゃない、それでいいのだ、と・・・

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