「手繰られしものたち」その17〜18

Bastardあの野郎ども」
レインコートの裾から雫を滴らせながらギムリが息巻いている・・・
Cocksuckersやつら俺たちをはめやがった」
シュラウドとスクレープは、嘆いているAardvarkアルドヴァルクの傍で、
薄く汚れたマットレスの上で身を寄せ合っている。
そうしてひしめく人々の放つ熱で、室内がむせかえっているなか、
ハートマンは汗でずくずくとなった襟の奥に顔を沈めて様子を伺っていた。
ギムリの性格傾向は摑めているが・・・
連中は私を殺すのだろうか?
そこで疑念が拭いがたくわきおこってきた・・・
タキオンだ!あのタキスの悪魔が疑いを抱いて、スキャンダル以外の方法で
私を始末しようとしたのではないのか?

その考えをパペットマンは笑い飛ばした。
何事も他の悪意のせいにするなかれ、すべては己の愚かさよりいずる也だ
それはレディ・ブラックが、怒りで我を忘れがちの、カーニフェックスをたしなめるのに発していた言葉だった。
そこでマッキー・メッサーが立ち上がってぼやきはじめた。
「なんでこんなことになっちまったんだ・・上院議員を人質にしているのは俺たちの方だろう・・奴らそれを忘れちまったとでもいうのか・・」
そう呟きながら、檻の中の狼のように、手を振り回し、鼻を鳴らしながらうろうろいきつもどりつを繰り返している。
周りはそれをさけながら構おうともしていない・・・
「何を考えているというんだ・・」仕舞いには叫びだした。
「誰を相手にしているか思い知らせてやればいい・・そうさ、そうとも・・
上院議員をばらばらにしてその身体の一部を送りつけてやればいいんだ・・」
そういって手を小刻みに振動させ、捕虜の鼻先につきつけてきたため、
ハートマンは首をすくめて祈らずにはいられなくなった。
Christ(なんてことだ)、やつは本気だ
パペットマンがそれを感じている。
そうしてマッキーの凶器が数ミリまで迫ったところで声が割って入った。
「落ち着きなさい、Detlevデトレフ」アネッケの声が甘く響いた。
公園での打ち合いでほてった体をもてあますかのように、頬を赤く染め上気した表情を浮かべている・・
交渉の失敗など、この女には何の感慨すらもたらしていないのだろう・・
「金もちなのにけちな真似をしてくれたものね」
そこでマッキーの内に真っ白な怒りが爆弾のように膨れていくのをパペットマンは感じた。
「マッキーだ!マック・ザ・ナイフの唄からとった俺の名はマッキー・メッサーだ、覚えておけ・・」
デトレフというのはホモを表す隠語であることをハートマンは思い出し、こころに留めておいた・・
アネッケがその若いエースに笑みを向けたところで、傍にいるウィルフリードの表情が翳り、
ウルリッヒがAKMを構えた、この若者に堪え性のないことは皆わきまえているのだ・・
そこでウルフがマッキーの肩に手を回して語りかけた。
「アネッケはふざけただけだ、本気でそう思っているわけじゃないとも」
笑顔でごまかされてはいるが、その言葉は嘘だ、それでもウルフを押しのけて、
おとなしくすることにした。
その視線はモルニヤを意識しているようであった・・・
そうしてモルニヤが安堵し、ウルリッヒもライフルを下ろした。
「いい子だ」そういってウルフがもう一度マッキーを抱きしめて、
退出を促した。
「資本家による東南アジア開発によって生じた犠牲者といえるだろうね、上院議員、この子は、アメリカを逃げ出した父親とハンブルグの娼婦の間に産まれた子
なのだから・・」
「俺の親父は将軍だ」出て行かなかったマッキーが英語で叫び返した。
「そうともマッキー、いうとおりだとも、この子は港町や裏通りで育ち、
施設に入れられはしたが、そこも抜け出して、最終的にはベルリンに流れついた。
消費社会の産み出した貧民だ、ポスターを見て、ヴォランテイアによる教育
があることを知って、かろうじて多少の教養を身につけることもできたが、哀れな子で
あることに代わりはない、そこで私に拾われ、今に至るというわけだ・・」
「そうよ、あまりにも哀れなおこちゃまなのよ」そういってアネッケは得意げな顔をし、
ウルリッヒも笑っているではないか、マッキーはそんな彼らを見回して、
そこから立ち去ったのであった・・・




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おそらくいう通りなのだろうパペットマンの声が脳裏に響いた。
それはつまりどういうことだ?
私の制御も完璧ではありえないということだ、
予測のつかない相手というものは・・・怖ろしいそうとも、完璧なパペットであればよいが、
あの感情、激しく愛しくはあるが、Drug麻薬のようですらある、死に至るドラッグだ・・・
それでは手を引くのだな

その言葉に安堵の感情が広がっていった・・・
あの小僧は死なせねばなるまい
そうだ、それでいい、それですべてかたがつく、というものだから・・・