「手繰られしものたち」その16

Political Police国家警察の人間だ」口の中の食べ物をくちゃくちゃ噛みながらニューマンが応えた。
「もちろんPopo国警などと略しはすまいが・・」
「ヘル・ニューマン・・」
機械工のつなぎを着た男が困惑の視線を送っていたが、かまわずニューマンは続けた・・
「黙って謝罪を受け入れていただけませんかな、ドクター・タキオン・・」
テロリストたちが逃走して、五分もたたないうちにニューマンが現われたのだ、警察の関与に対して不平の言葉もでようというものだ・・・
セイラは、襟につけたマイクに向けて、事態のあらましを吹き込んでいたが、今はタキオンの後ろの白い影でもあるかのように完全に沈黙して佇んでいる・・・
タキオンは無言で、青い点滅灯をかざしている救急車両を顎で示した・・・
「あの正気と思われない介入でどれだけの人々が銃火に倒れたかご存じないとでも・・・」
「無関係な負傷者は三人、警官も一人撃たれている、他にもう一人刑事の入院が必要となったが、これは撃たれてのことではないよ・・」
「それが何だと・・」
タキオンは叫んで、怒りをぶつけそうになったが、あの私服警官のせいで、テロリストたちを取り逃がすことになったのだから・・・
その感情を抑えて、ともかく詰問することにした。
「あんたがたが、何をしたかわかっているのかね?」
「私の組織は無関係だよ」ニューマンはしれっといってのけた
「これはBerlin Land Policeの一部過激派の仕業で、我々Bundescriminalamtは何の関与もしていない」
「これは罠だったのですね」悲しげに鼻をこすりながらデズが語り始めた。
「身代金を出した金持ちの慈善家とは・・」
「国家警察の連中だ・・」
「ヘル・ニューマン、あなたという人は・・」
ズボンの膝を草の後で汚した国家警察の男が、タキオンを指し示して怒りを顕わにしてきた。
「ポーリィは奴らを狙っていたのに、あんたが精神の力とやらで邪魔したせいで逃走を許した、それはあんたのせいだ・・・」
「テロリストだけを撃つことは不可能な状況であったというにも係わらずの暴挙だったといっているのです・・・
これではどっちがテロリストだかわかりはしませんね」
その言葉に私服警官が顔を赤くして怒りを示してきた・・・
「あんたの妨害がなければ、やつらを止められたんだ・・」
そこでようやくニューマンが制止に入った。
「今は引きたまえ・・」それでもその口調は柔らかいものだった「それが賢明だ」
そこで男は口を噤んで敵意の篭った視線をタキオンに注いでいたが、ともかく立ち去ってくれて、タキオンは苦笑いせずにはいられなかった・・・
「ああグレッグ、我々はなんてことをしてしまったのだろう・・」ハイラムが嘆き悲しんでいる「これであなたを救う手立てはなくなってしまった・・」その言葉はハイラムに重力を操作されたかのように重くのしかかり、意味はわかっていたが、思わずハイラムに尋ねずにはいられなかった・・・
「その意味するところは・・」
「考えたくはありませんが、もう殺されているかもしれないということです・・」
セイラが息を飲むのが感じられ、その表情をうかがおうとしたが、顔をそむけられてしまい、その瞳から感情を読み取ることはかなわなかった・・・
「そうとも限らないやも・・」ニューマンがまた口を挟んできた・・・
「それでは彼らの要求も適うまい・・」
霧に隠された動物園のフェンスを見据え、何事もないかのように平然と言葉をついだ・・・
「代価がつりあがっただけだよ」と・・・