「手繰られしものたち」その19

シュラウドがアルドヴァルクの上にミイラのように覆いかぶさっている。
ベッドルームに積みあがった5リッターのプラスチック容器に入った水に
包帯を浸し、額に乗せて、己に言い聞かせるようにぶつぶつ呟いている。
その様子を瞳に宿る悪意を隠そうともせずにアネッケが見つめ、悪態をついた。
「費用の無駄というものじゃないかしら」
「ジョーカーだって血が流れれば苦しむさ・・
それをどうにかしようとするのは無駄じゃない」
悪意の感じられない素直な答えだった。
そこでアネッケは興味を失ったらしく、ふらふらとウルリッヒに駆け寄った・・・
「ちゃんと見張ってなさいよ、あのSchweinfleisch豚肉上院議員をスーツケース一杯の札束と換えるまではね・・」
アネッケは唇をすぼめてさらにいいつのった・・・
「我々の解放すべき自由の闘志のことを忘れるから、あんな目にあったのよ・・」
「だまらねぇか、このBitchスベタ」
髭面の真ん中から唾を迸らせながら、ギムリが叫び、赤毛の女にくってかかった・・・
そうして銃を持ち上げたところで、スクレープがそのキチン質の尖った腕で床をひっかくようにした、ギムリを制止しようとしたのだろう・・
そこでパチパチいう音がさらに加わってようやくその手を止めることができた・・・
モルニヤが立ち上がって、顔の前に手をかざして見せたのだ・・・
何かを摑もうとするように広げられたその指の間には、神経線維を思わせる青い火花が明滅したが、それをけしてから覆いかぶせるように口を開いた・・
「これ以上仲間同士争ったところで・・」
言い聞かせるように続けた
「我々の敵を喜ばせるだけというものさ」
パペットマンのみが、その脅しを含んだ言葉がはったりであることを見抜いていた・・・
そこでご丁寧にグローブをはめてみせ、さらに
語りはじめた・・・
「痛い目にあったのだろう、あれが我々の敵、資本主義の豚どものやりかただ」
そこで笑顔をつくりさらに押しかぶせた。
「決意を固めなければならない、ともに手を携え、裏切りの報いをくれてやろうじゃないか・・」
これで同士うちは回避されてしまった。
ハートマンは再び恐怖を感じ始めていたが、
なぜかパペットマン歓喜を迸らせている・・
ハートマンの困惑は深まるばかりであったのだ・・