「手繰られしものたち」その22〜23

ギムリはそのぼこぼこした頬に涙が溢れさせ、「もうたくさんだ」とこぼしながらすすり泣いている・・・
「医者に連れて行くんだ、今すぐにだ」
そういって屈みこんで首に手を回し、苦悶の表情を浮かべている。
シュラウドは包帯に隠されて表情自体はうかがえないが、その目からは同じ感情が感じられる・・

同士ウルフと呼ばれた男がドアの前に立ち塞がって言い放った
「誰もここを出てはならない」
「このちんけな連中に気を使う必要がどこにある」ウルリッヒは喧嘩腰でさらに押し被せた・・
「ほんとはそんなにひどい傷じゃないんだろ」
「ひどい傷じゃないだって」シュラウドが言い返していた。
その言葉にはカナダの訛りがあることに初めてハートマンは気づいた
顔を怒りで歪ませながらギムリが叫んだ
「傷を負い、死にかけているんだ、出してもらおうか」
その声にウルリッヒとアネッケが武器に手をかけにじり寄ってきた。
「共に手を携えるならば栄え」ウルフが宥めに入った。
「諍うならば失墜する、Amisアミの言葉だ」
そこで叩くような音が二度響いた。
壁によりかかったスクレープがAKMをブロンドのテロリストのベルトのバックルに向け、撃鉄を起こした音だ・・・
「ならば失墜を選ぼう」そして言い放った。
ギムリが去るというならば、俺たちもそうするまでだ」
ウルフは入れ歯をなくしたような、年老いた渋い表情をして、ウルリッヒとアネッケに視線で
行動を促したが、シュラウドがアルドヴァルク
の前に立ち塞がり、AKMを掲げて叫んだ。
「ナット、下手な真似はするな」と・・
醜い怪物どもが、信用できるものか
そう考えマッキーは拳を振動させ始めたが、
モルニヤの手が肩におかれたのを感じ、ジョーカーを切り刻み、肉塊にすることは思いとどまった
「何のために努力してきたんだ」ソビエト人が口を挟んできた。
ギムリがアルドヴァルクの手を堅く握り締めて答えた。
「こいつらのためだ、ジョーカーの仲間のためだ、こいつは助けが必要なんだ」
その言葉に同士ウルフは顔を浅黒く化し、額には太い青筋を浮かべてしゃがれた言葉を搾り出した。
「ならばどこに行くというんだ?」
それに対しギムリは笑って答えた
「(ベルリン)の壁の向こうだ、そこで仲間が待っている」
「なら行くがいい、捨てるというのだな、仲間のためにできることがあるというのに、我々は上院議員を抑えているのだよ、勝利の暁には、黙っていはしないからな・・」
スクレープが笑って応じた。
「豚のようにがなりたてるだけじゃないか、
どうせろくなことになりはしないだろうさ」
ウルリッヒの瞳が好戦的に輝き、ライフルの狙いをさだめたところで、声が割って入った。
「止めるんだ」それはモルニヤの声だった。
「行かせてやれ、同士討ちは無益というものだから」
「失せろ」ウルフが吐いて捨てるように言葉を発し
「そうさせてもらおう」ギムリはそう答えると、
シュラウドとともにアルドヴァルクをそっと抱えて、打ち捨てられた建物の暗い回廊に出て行った。
スクレープは彼らが視界から消えるまで出口に立ち塞がり無事を見守ってから、一度立ち止まって、堅いキチン質を歪めて、笑みのようなものを浮かべて見せてから、ドアを閉めて後を追った。
ウルリッヒカラシニコフをドアに叩き付けたが、幸いにも暴発することはなかったようだ・・
「Bastards(あの野郎ども)!」
アネッケは肩をすくめている、くだらない駆け引きにあきあきしていたのだ。
「アメ公だからしょうがないわ」
そこでマッキーはモルニヤからそっと離れ己に言い聞かせた・・・
誰も彼もが間違っていても、モルニヤだけはいつも正しい、彼にはそれがわかっているのだ、と・・・

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あのロシア人エースはただの臆病者なのに