ワイルドカード7巻 7月20日 午後2時

      ジョン・J・ミラー
     1088年 7月20日 
         午後2時



「フェードアウトだな」受話器に向かってそう訊ねると、
短い沈黙の後に答えが返されてきた。
「ご名答」
「どうやって俺を見つけた?」そう訊ねると、
また沈黙が流れたが言葉も返されてきた。
「久しぶりだな、カウボーイ、それともヨーマンと呼んだ方が
いいか?」
「好きなほうで呼べばいい、俺の所在はどこから漏れたんだ?」
「教会にいた小鳥が囀ってくれてね」
「レージィ・ドラゴンか」
「いかにも彼だ、教会で何か興味深いことが起きるかもしれないと
考えて見張らせていたんだ。それであんたが現れたから報告してきた
ということだ。
そこでそっちから提案されていたことを思いだしてね、それで彼に
伝言を持たせてよこしたわけだよ」
「そうなって嬉しいが」ブレナンはそう応え、
「シャドウ・フィストの幹部簾中は俺には係わらないことにしている
ものだと思っていたからな」
ブレナンはかつてシャドウ・フィストに潜入して、キエンを告発する
材料を得る目的で、それはあと少しというところのまでたどり着きは
したものの、結局クリニックがフィストの手に落ちて、そこから
タキオンを助け出さなくてはならなくなって、そのため手を引くことに
なった、という経緯があったのだ。
「終わったことだからな」フェードアウトは鷹揚にそう言って、
「あんたのおかげでいくつか面倒が持ち上がりはしたが、それでも
手を組むことはできると判断したわけだ」
「そうか、それでキエンはそれについてどう言っているんだ?」
「心配ないさ……」フェードアウトはそう応え、感情の読みとれない
薄い笑い声を響かせていて、
「些末なことは知らないということだ、さてこちらは細かいところを
詰めようじゃないか、電話でない方がいいな、そういや昨日は会い損ねた
わけだが、確かクィンのところに顔を出してくれたのじゃなかったかな」
「その通りだ、迷惑をかけたなら申し訳ないが、とはいえあんな歓迎を
受けたのは予想外だった」
「俺なら心配には及ばんさ、互いに助けあった方がいいと判断したから」
「そうか」そう応えながらも、フェードアウトは野心の強い男だ、役に
立つことは間違いないにしても、まったく信用できない手合であるという
ことは弁えておいた方がいいだろう、そう考えて腕時計で時間を確認し
ながらも、その文字盤が霞んで見えて、少し休んだ方がいいと考え、
「今夜遅くにでもどこで会うか連絡するというのではどうだろう」そう
提案すると、フェードアウトはしばらく考えて混んでいたようだったが、
「それでいい」そう返されたところで、ブレナンは電話を切って、
うめきを漏らしつつ、ホテルのベッドに倒れこみ、目頭を揉んでいると、
「あの男は信用できるのかしら?」ジェニファーがそう声をかけてきた。
「まったく信用できない、といったところか。組織で上を目指している
以上、うまく利用できると考えているに違いない。
表向き利害が一致したとしても、あの男自体フィストのすべてを知っている
わけではあるまいから、奴自身クリサリスを殺した人間が誰かを知らないと
いうこともありえるわけだ」
ジェニファーは頷いて返してから、
「それでもワームにつてぐらいあるかもしれないと、そういうことね、
それでブラジオンは容疑者から省いていいとして、クオシマンと
オーディティはまだ残っているわね」そう向けられた言葉に、
「クオシマンなら考えがある」そう応え、ブレナンは少し考えてから、
「オーディティにも問題はある、クリサリスとどうつながるかがわからない。
殺された後で、パレスで出くわしはしたが」そう言葉を継ぐと、
「クローゼットをひっかきまわしていたのよね」
ブレナンは首を振りつつ、
「クリサリスがあんなあからさまな場所に、大事なものを入れているとも
思えんが」困惑も露わに、
「そうだ一人忘れていた、ダグ・モークルだ、こいつはどこにいるのだろう」
そう言葉を継ぐと、ジェニファーに肩と首の凝った筋肉をもみほぐされながら、
「なにもわからないと」そう継がれた言葉に、
「そういうことだ、すぐに捕まえないと、地球の外に逃げられてしまうという
ような、そんな焦りが感じられてならないわけだが」
そんな言葉をすら口にだしてしまっていたのだ。