ワイルドカード7巻 7月23日 午前10時

    ジョン・J・ミラー
      午前10時


パレスより半ブロックほど離れたところで、
ジェニファーを車から降ろし、別行動を
とることにした。
烏賊神父が言っていた隣人と呼ばれている
連中に対して警戒したからだ。
ジェニファーには幽体状態で先に入ってもらい、
安全が確認でき次第、ブレナンを招きいれる
手はずになっていた。
ブレナンはパレスを通り抜け、面した裏道に
出ると、通用口が見つかった。
そこでブレナンはエンジンを切ると、
ラジオをつけてジェニファーを待つことにした。
ニュースが聞こえてきて、昨夜のアトランタでの
ゴールデン・ボーイの訃報の訂正が報じられていて、
どうやらエース能力で一命をとりとめていたことが
わかった。
そこに突然サイレンの音が響き渡って車の停車した
音が聞えたかと思うと、
「そこの車!警察だ!手を挙げてそこから出てこい!
お前は完全に包囲されている!手を挙げて出てくるんだ!」
という声がけたたましく聞こえてきた。
そこでブレナンは後部座席から頭を下げて隠れるようにして、
どうやって逃れようかと考えていた。
そして窓ごしに見ると、三人の警官でいて、制服を着た
二人が銃をもっていてブレナンに向けていて、もう一人は
後からついてきていた。
その遅れてついてきた男はマセリークだとわかった。
ブレナンは手を上げてみせ、あえて大袈裟に
みせつけるようにゆっくりドアを開けてみせると、
車から出て、感情を表に表さず、連中を待ち受けることにした。
「おとなしくしていられなかったのか?」
マセリークからそう言われたが構わず、
「カントはどうした?」と聞き返すと、
闇の中で何らかの感情がその顔によぎったようだったが、
「ちとごたついてはいるが、快方に向かってるよ」
そう返されたところで、
制服を着た一人が後部席のドアを開け、もう一人が
ブレナンに銃を向けたままで、
「こいつだ」ドアを開けた男が興奮気味にそう言うと、
「弓矢の殺し屋だ」弓入れをみつけてそうまくし立てていた。
「殺し屋が戻ってくると思って見張っていたのか?」
ブレナンがそう言うと、マセリークは肩を竦めてみせ、
「まぁそんなところだ」
その言葉にブレナンはかぶりを振って否定してみせ、
そうか、こいつを警告していたのか。
と内心舌打ちしていると、
ドアを開けた方の警官が、
「ともかくだ」そう言って、
「車に手をつけて、足を大きく広げるんだ」
そう言葉を投げかけてきた。
ブレナンが応じようと手を下ろしたところで、
警官に脚をけられて倒れるかたちになった。
どうやら足首のところにある鞘に入れたナイフが
見つかったようだ。
「さて振り向いてもらおうか}
ブレナンが顔を上げると警官は笑みを浮かべていて、
「捕まえた、By Jesus間違いない こいつは大物だ。
あのスペードエースの殺し屋だ!手を背中にまわすんだ」
「そのぐらいにしておけ、クリス」ブレナンが応じて手を背中に
回したところで、マセリークはそう言っていて、
警官がブレナンに手錠をかけているのを見ながら、
物憂く「あんたには黙秘する権利がある……」などと言いだした。
ブレナンが黙って抵抗せずにいると、そのまま路肩に寄せて
停められたパトカーの中に連れ込まれていたのだ。