ワイルドカード7巻 7月24日 午後10時

   ジョージ・R・R・マーティン

      午後10時


      「外套をとってくれ」
少年はエジリィに舌を這わせたまま、
ティ・マリスは目に貪欲な光をぎらつかせ、
首に吸い付いたままながら、少年の口から
そう言わせ、静まり返ったところで、また
ちゅうちゅうといった吸うような音が響いて
きた。
まるで母親の胸に吸い付く赤子のようだ。
ジェイがそう思っていると、ハイラムが
外套を持ってきた。
深紫色のフェルト生地で、黒の繻子で
内張りされたものであるのが見て取れた。
ハイラムはブレーズにそいつを着せたが、
ブレーズには少し多きすぎるといった代物で、
裾を下に引き摺ったかたちになったが、たくし
あげて調整し、ぶかぶかのフードを持ち上げて、
少年の赤毛の上に被せ、背中にしがみついて、
その首筋に吸い付いている怪物を隠した。
そうすると背中が妙に盛り上がって見える。
依代と、世に出るぞ」ブレーズの口で
そう告げて、
「エジリィを連れて行くぞ、さぁ服を着るがいい」
そう継がれた言葉に応じ、エジリィはマットの上から
腰を上げると、まだ飛び散った血のかかったままの
しなやかなコーヒー色の身体を、猫を思わせる仕草で
震わせて、そこでジェイが見ているのに気付いたようで、
微笑むと、また唇を舐めてから、屈んで服を集め始めた。
そこで「ハイラム!」と呼び掛けてみて、
「頼む」と言葉を重ねてみたものの、
出向く外のことで頭一杯なのか、それとも
ティ・マリスにコントロールされたブレーズの強い
精神制御の影響下にあるためか、何の反応もなく、
服に袖を通したエジリィが笑いかけ、
「いつ戻ってくるかしら?」とマリスに声をかけ、
「新しい依代に飽きるまでだ」少年の馴染みのある声で
そう応えると、ブレーズはハイラムに手を伸ばし、
髭に触れ、頬を優しく撫で、
「口付けを望まないわけではあるまい」そう告げると、
ハイラムは笑みを浮かべ、
「アクロイドはいかがいたしましょうか?マスター」
サーシャがそう訊くと、
ブレーズが振り向いて、ジェイにその菫色の瞳の視線を
据えると、他の者の視線を感じたかのようにフードで
顔を隠してから、
「戻ってきてから、他の依代を試すとしよう」
ブレーズはそう言って、
「それまでちゃんととっておくのだぞ」
などと言われ、
「ハイラム!」ジェイは再びそう声を張り上げたものの、
ハイラムは地下の扉を開けていて、ブレーズは踵を返し、
そして階上に上げっていき、夜のアトランタに繰り出して
いったのだ。