ワイルドカード6巻第三章 その4

       ウォルトン・サイモンズ
        1988年7月20日

          午前11時


ファットマンに出くわして些か仰天したが、
ウィスキーをがぶ飲みしてなんとか気を静め、
ベッドの端に腰掛けて背中を丸めて広げた新聞の
一面に目をやると、
<ハートマン、本日パークで何を語るのか>という
見出しが躍っている。
どうやら上院議員殿は白昼堂々非暴力の主義に則って
ジョーカーたちに語り掛けるつもりらしい。
何て傍迷惑な話だろう。
それをとめないというならばその取り巻きも正気じゃ
ないといって間違いあるまい。
大体政治家などという人種は本来、壁に背をつけて
移動するといわれるくらい用心深い生き物なのでは
あるまいか。
スペクターはTVを点けた。
いつどこでそれが行われるか知るためで、
その目的はすぐに達することができた。
どうやら1時予定とのことであまり時間の余裕もない。
何か手はないものかと歯嚙みしながら新聞を眺めてみた。
人ごみに紛れハートマンに気づかれず近づく方法をみつけようと
足掻いてみたところ、
隅のほうの小さな記事が目に付いた。
いやKeaton`sKostumesキートン仮装店の広告か。
仮面に扮装、コスチュームにパーティ用品取り扱いとある。
その広告に一人の男が妙な格好をして間抜けな笑みを浮かべているのが
見て取れた。
Marcel Marssouマルセル・マルソーみたいじゃないか、
そこでスペクターは新聞を放り出して腹を抱えることになった。
妙案に笑いがこらえきれなかったのだ。