ワイルドカード4巻「ザヴィア・デズモンドの日誌」ⅩⅡその1

        ザヴィア・デズモンドの日誌

                4月27日 大西洋上
数時間前には室内灯も消えました。
ほとんどのものたちは眠りに落ちているようですが、私は痛みゆえ目がさえたままです。
薬の助けを借りようと服用しましたが、それでも眠りに落ちることはできませんでした・・・
実際ここのところ気分はいいのです・・・穏やかと言って差し支えないと思います。
長いとも短いともいえる旅の終わりが近づいているからでしょうか・・・
もう息をついてもいいころでしょう・・・
あとは数箇所を残すのみ、カナダでのわずかな滞在のあとは、モントリオールトロント
経て、オタワでのレセプションのあとにはついにトムリン空港に至り・・・
そしてジョーカンタウンに、故郷と呼べるファンハウスに再び帰り着くことができるのです・・・
いくつかのケースを除けば、期待した成果はほぼ挙げることができたのではないでしょうか・・・
そうシリアに西ドイツにおける惨劇、フランスでの事件等は、あのワイルドカード記念日の
悲劇をも薄れさせる効果すらあったといえましょう・・・
私にとっても、もちろん大多数の人々同様、テロリズムなどというものは、我々の住む世界に
おける一部に限定されるものと信じたい事柄でありますが、それはワイルドカードのあるなしに
係わらず、存在するものであったのです・・・
ベルリンでの流血沙汰には、エースやナットのみならず、ジョーカーまでが係わっていたことは、
世界中の知るところとなりました・・・
あの惨劇には、ギムリとその痛ましき支持者たちに、二人のエースも係わっていたということ
ですが、ドイツ警察の必死の捜索に係わらず、逃げおおせているということですが、その背後には、
レオ・バーネットにヌール・アル・アッラー、あるいはタキス人の呪いに満ちた手が関与していると
囁かれています・・・
世界にはそういった、絶望に狂気、悪を望む人間が少なくありませんが、ともあれ実に皮肉と
いえるのが、シリアで生命を賭したグレッグを救ったのは、彼の勇気と情熱ではなく、彼らの
骨肉の間とも言える一人の人間の憎悪であったのです・・・
これは世界の不条理の一例とはいえ、私とて西ドイツでギムリの最後が確認できていたら
安堵できたであろうにと考えたことは否定できませんから・・・
それでもベルリンの事件の後の、セイラ・モーゲンスターンによるポスト誌の号外インタビューによって、
彼の激情のみならず、冷静な判断といったものが疑いなく印象付けられたことにより、ハートマン氏の
株が上がったということは、機内の空気のみを鑑みても明らかといえ、ダブリンに戻った際、ホテルの部屋で
ギネスとアイリッシュソーダをディガーと酌み交わしたときに、今までは今ひとつ及ばなかったハート氏を抜いて、
ハートマン氏こそが民主党代表候補に選ばれるであろうことは同意を得ました・・・
確かにゲーリィ・ハート氏の存在は、彼が候補になる際の障害としてあることに変わりはないはずなのですが、
ダウンズは折れた鼻を掻きながら、皮肉な笑みを浮かべ、「今はゲーリィの方が優勢かもしれんが、奴さんは
何か間抜けな失態をやらかすことだろうな」と妙な言葉を口にしたのでした・・・
もし私の健康が許すならば、ジョーカータウンを揚げて、ハートマン氏の民主党候補になる後押しをしたことでしょう、
おそらくそう考えているのは私だけではなく、長い旅を共にした、ハイラム・ワーチェスターにペレグリン、ジャック・
ブローンにミストラルといった綺羅星のようなエースのみならず、烏賊神父といったジョーカーに・・・
政治や政治家といったものとは注意深く距離を置いているドクター・タキオンの同意をも得るものでありましょうから・・・