ワイルドカード7巻その3

       ジョン・J・ミラー

1988年7月16日

午前8時


そこには丘がある。
腕を振り、軽く息を弾ませて、
険しい斜面を駆け上がる、そうすると朝露に
濡れる青々とした芝地が広がっていて、
コースを定めてはいないが、行き着く場所は
決まっている。
舗装されていない田舎道の先、
暑すぎず心地よい風の吹く場所、
砂利敷きの私道に囲まれた、
<アーチャー園芸&造園>という看板の
掲げられた玄関、

そこに帰るのだ。

そしてつながった私道に囲まれて三つの
庭がある。
ブレナンの造園技術の粋を示すものだ。
最初のひとつは日本のtsukiyama築山様式の小型庭園で、
次は英国風の生垣で覆われたもの、
三つ目は様々な種別、様々な色で彩られた花のベッド、
その花のベッドに彩られた私道沿いには温室が二つある。
一つは熱帯植物の、
もう一つは砂漠の植物のもの、
そうA型枠の小屋だ。
そこの回りを全速で駆け、後ろで歩みを止め呼吸を数分整える。
そうして身体をリラックスさせ、kare sansui枯山水
視線を遷し精神を瞑想状態にして、
微風にそよぐ水の 流れが凍りつき、三対の石の周りに敷詰められた
子砂利に姿を変えたかのような、
そこで時を忘れ。zazen座禅をし入り込んでいくのだ。
そこで岩を見ているわけではない。
その影、苔が覆うさま、その成長を見てから、
ゆっくりと腰を上げ、そのリラックスした状態で一日を迎える。
それから手入れのいい木の床に、Futon布団のしかれ、ゆったりできる椅子、
それと書見ランプと本棚のあるサイドテーブルに大き目の籐のあまれた洗濯かごのある
寝室に戻ると、ジェニファーはもうそこにはいない。
そしてバスルームからはシャワーの音が、
ブレナンは汗にまみれたTシャツを脱いで洗濯籠に放り入れ、
リビング兼オフィスに向かった。
そこでTVをつけ、朝のニュースを眺めながら、デッキチェアに腰を落ち着け、
PCの電源をいれてスケジュールをチェックする。
ニュースではアトランタにおける本日の党大会のことを大きく取り上げられている以外は
さして事件らしい事件はないものと思われた。
もっともそこで語られている選挙予報はかなり先走り誇張されたものに思われはするが、
グレッグ・ハートマンが候補としては好ましいにしても、その道は容易でないといえる。
なぜなら彼の政治信条と信念に対して真っ向から対立する候補、レオ・バーネット牧師の
存在があるからだ。
正直政治家という人種は信用できたものじゃないと考えているが、
もし選挙権があったとしたら、ブレナンはハートマンに投票することだろう・・
正直で労わりに満ちているように思える人間だからであり、少なくともバーネットのように
デマを撒き散らしたりはしないだろうから。
ハートマンにはジョーカーの支持者も少なくない。
ニュース画面のカメラは、アトランタ公共公園にパンして、そこに集まった上院議員
多くの支持者とその熱狂を映し出した。
それから街中でのジョーカーのインタヴューが流されたところで、ボリュームを絞って、
ハートマンとジョーカーたちの善戦を願いつつ、コンピューターのスクリーンの方に
集中することにした。
時間を無為にすごしつつある、己のスケジュールにこそ集中すべきだろう。
スクリーンに示された本日のアーチャー造園の仕事は二件、
どちらも懸かり中のもので、
一件は岩から伝い落ちる水の流れを子砂利で表現したtsutai-ochi伝い落ち様式のヒルガーデンで、
最近越してきた日系アメリカ人銀行員の依頼によるもの、
もう一件は何層にも連なる植え込みに囲われた魚の泳ぐ池のある庭園で、 
道を下った先に住む医師、ヨアヒム・リッツの依頼によるものだ。
ヨアヒムはこの辺りの医者の顔役とも呼べる男で、自身の手のふさがって
いるときは、他の医者を手配してくれたりもするが基本かかりつけの医師といえる。
日本庭園には多少熟達したといえるか。
そうひとりごちながら、椅子に深く腰掛け、
このところの安らかで充実した日々に軽いとまどいを覚えてもいる。
死と破壊にまみれた生活を捨て、己の人生に向き合うようしたことは悪くないどころか
最良の選択であったといえる。
血の匂いのしない平和な日々をおくることにはこれまでにない満足を覚える一方、
キエンとシャドーフィストに対する復讐に目を背けることに罪の意識を感じないでもないが、
ここ数ヶ月に至り、徐々に緩やかであるとはいえ、それも薄れつつあるように思えてきたのだ。
Tachibana Tosutuna橘俊綱Sakuteiki作庭記を手にとった。
造園に対してよく参照している古典的論文ながら、そこから新しいイメージを掴むには至らなかった。
TVになじみの深い女性の姿が映し出され、その集中はとぎれることになったからだ。
TVのボリュームを上げてリポーターの声に意識を向ける。
「……ナイトクラブ、クリスタルパレスにおいて今朝未明、そのミステリアスな支配人、
クリサリスが、遺体で発見されました・・・警察は明言を避けていますが、現場からは
スペードのエースのカードが押収されていて、弓と矢を用い、1986年から1987年初
頭にかけて50余人の死にかかわったとされている正体不明のヴィジランテ、ヨーマンに、
何らかの関与があるものとみて調査を進めているとのことです・・・」
そうしてスクリーンを眺めていると、シャワーを浴びて濡れたままのジェニファーが壁をすりぬけ、
お茶を二杯持って現れた。
「どうしたの?」ブレナンの深刻な表情をみてジェニファーは聞きなおした。
「何があったの?」
目に冷たい光を宿したまま、スクリーンをみつめ、厳しい表情のまま言葉を搾り出した。
「クリサリスが死んだ」
「死んだ?」
ジェニファーが信じられない調子を滲ませながら繰り返しているとブレナンがそれに応えた。
「殺されたんだ」「誰が?どうして?」ジェニファーは椅子に沈み込みながろうそう尋ね、
カップをひとつ手渡すと、ブレナンは自然とそれを受け取って、脇に置いてから応えた。
「詳細は語られていないが、死体の傍らにエースのスペードがあった・・
つまりはめられたということだ・・」
「誰が?あなたをはめるというの」
そこでようやくジェニファーに視線を向けて返した。
「わからん、だがそいつをみつけださねばなるまい」
「警察に……」
「やつらは俺が犯人だと思っている」
「そんな……」息を呑みながら、ようやくジェニファーがを言葉を継いだ。
「一年、いえそれ以上この街をでていないのに・・」
ニューヨークを出て、シャドーフィストを仕切る犯罪王キエンに対する復讐から
手を引いてそれほどたってはいないはずだが、何しろ忙しかったのだ。
ジェニファーとの旅で互いを愛し、過去の傷を癒すすべを学び、
ニューヨークから見て北の地、Goshenゴーシェンを出たところの小さな街に腰をすえたのだ。
そこでジェニファーはロバート・トムリンの伝記を書くことに思い至った。
死をもたらし、破壊しかもたらさない生き方に飽いていたブレナンは造園業を始める
ことにした。
なにより何かを作り上げる生き方に惹かれてやまなかったのだ。
そしていささか造園に対する才能もあったとみえる。
ジェニファーは研究を重ね、執筆することに喜びを感じているようだ。
静かで平和な日々、
「誰かが俺を犯人に仕立て上げた」声を潜めて囁いた。
「誰なの?」
ジェニファーに視線を移して応えた。
「キエンだろう」
すこし思案して尋ねるジェニファーに、
「それじゃどうしてクリサリスを……」
肩をすくめてブレナンは続けた。
「奴がシャドーフィスト会のボスであることを掴んだのかもしれん、そこで
口封じと同時に俺も始末しようと考えたのかもな」
「ここにいれば警察に見つかることはないわ……」
「かもな」
「だとしても真犯人はみつけださねばなるまい」
「ここでの生活はどうなるの……」
「捨ててしまうというの……」
過去の方を捨て去るべきなのだろう、そうするほうが容易いだろうから。
その内の迷いに対し、ブレナンは応えた。
今と未来を生きるべきなのかもしれないが、俺にはその道を選べはしない、と・・
クリサリスは誰かに殺された、その事実を忘れ去ることなどできはしない。
そいつにはめられたとするならば、なおさら許すわけにはいくまい、と。
ブレナンは立ち上がって結論を口にした。
「みすごすわけにはいくまい、それはできない話だ」
ジェニファーのまっすぐな視線を感じながら、視線を外して、弓と銃のしまってある
納戸の鍵をあけてとりだし、ヴァンに積み込んでから、ジェニファーがついてくるのを
しばし待った。
それからブレナンはエンジンをかけ、違う道に踏み出したのだ。
たった一人で。

ワイルドカード7巻 その4

        G・R・R・マーティン

        1988年7月18日

             正午


さしずめMaserykマセリークの演じているのが良い警官で、
Kantカントは悪い警官というところか。
マセリークはやせぎすで陰気なViolet菫色の瞳を持つ男で、
カントは髪のない瞬膜(猫や蛇に見られる、目と瞼の間にある薄膜)のあるジョーカーで、
そうして7度も同じ話をさせられた。
(容疑者がジョーカーの場合は役割を入れ替えるんだろ?じゃ俺はどうなるんだい)
そう思いはしたが一瞥をくれただけであえて尋ねはしなかった。
お昼時になって……クワの木周りをぐるぐると……という例えがあるような、
同じ取調べの連続で二人とも疲れたとみえる。
「俺たちをからかっているつもりなら、そろそろ勘弁してくれないか?」と
カントがはさみをちらつかせながら含みをもたせてきて、

(どっちがだ)そう言葉がでかかったが、視線をあげ応じようとしたところで、
「Mrアクロイドだから憶えていることはすべて話してくれたさ、ハーヴ」と
マセリークが懐柔にかかってきた。
「他に何か思い出すことがあったら、連絡をくれたらいい」といってマセリークが名刺をだして、
カントにこの町からでるんじゃない、と念を押されてから、
二人に促がされ執務室に向かう事になった、どうやら調書に署名が必要らしい。
署の中には馴染みの顔があふれていた。
クリスタルパレスのドアマンが制服警官に調書をとられている一方で、
先月クリサリスから首を言い渡されたウェイトレスが隅で泣き崩れているのも見て取れる。
長い窓際の木製ベンチには呼び出された他の従業員も控えていて、
三人のウェイター、皿洗い、それから毎週木曜の晩Green Roomグリーンルーム
ラグタイムピアノを弾いている男が見知った顔で、
他は重要な容疑者かもしれないが知らない顔ばかりだが、
臨時のバーテンLupoルポが簡素なデスクの
傍に腰掛けているのがみてとれた。
ジェイは書類を片づけてから、ルポのところまで行き、
「信じられるかね?」とルポにたずねると、
「何が起こっているんだろうね」と返してきた。
ルポは深くくぼんだ赤い目をもち、デニムのシャツを着て、肩まで髪をたらしているジョーカーで、
ジェイがそれに答えずにいても、あまり気にする風ではなく言葉を重ねてくる。
「あんたが死体を発見したんだって……そこにスペードのエースで噂の、あの男がいたのか?」
「いや、死体の傍にカードがあっただけだよ」
「ヨーマンか」ルポが怒りを滲ませ、はき捨てるようにこたえた。
「あの野郎には一度か二度、Tullamore Dewタラモア・デューを持ってったことがあるんだ、
この街から出て行った、と聞いてたがな」
「マスクはしてなかったのか?」
ルポは首をふりながら返してきた。
「憶えちゃいないよ、忌々しいことだがな」
赤い舌を口からちろちろだしながら、
「エルモはどこにいるのだろう」
ジェイは部屋を見回しつつ別の話を振ってみる。
「あっちゃいないな、小耳に挟んだところによると、
どうやらAPB緊急指名手配になってるようだ」
そこでカントが姿を現して、背後から近づいてきた。
「あんたの番だぞ、ルポ」
カントが取調室を顎で示しながらそう伝えてきてから、
「まだここにいるのか?」と目ざとく尋ねてきた。
「出るさ、出るとも……まぁ些か警察に協力しはするがね」
とジェイがぞんざいに応え、
そうしてカントとマセリークがルポを連れて行ったところで、
一度不意打ちのようにCaptain分署長の部屋に戻ってみると、
デスクに向かい、紫煙を燻らせながら、速読もかくやという勢いで
書類をめくっているAngela Ellisアンジェラ・エリス分署長に出くわした。
緑の瞳と長い黒髪のアジア系の小柄な女性ながら、NYPDニューヨーク市警一のタフさで知られている。
このオフィスでエリスの前任者が死んだ、心臓麻痺と言われているが、
疑う向きも少なくない、その前任者もまた殺されているのだから。
「それで」と声をかけ疑問をなげかけた
「エルモの消息はつかめてないのですか?」
エリスは煙草の煙を吸い込んでから視線を向け、それが誰かを思い出すかのように
たっぷりと間をおいてから言葉を搾り出した。
「アクロイドね」
ようやくの言葉ながら不快感を隠そうともしていない。
「あなたの調書はよませてもらったけれど、かなりの穴があるわよ」
「しかたないだろ、情報がないのだから、サーシャから何か聞いてないのか?」
「それもほんのわずか」
エリスは立ち上がって、それからゆっくりろ言葉をついだ。
「起きて、異変を感じ、階段を降りて、クリサリスのオフィスにいったら、誰かさんが
隠れていた、と」
「隠れていたんじゃない、
探偵スクールで身を隠すすべは学んでいる、隠れるならもっとうまくやるさ・・
まぁ隠れる理由もなかったからね、それでエルモに対して掴んだことは?」
「あなたはどうなの?」
「小柄な男だな」
「強い男よ」エリスは少し考え込んでから言葉をついだ。
「女性の頭をプリンのように潰すに十分な強さをもっている」
「それはそうだが、
普段エルモがあの人に接していた様子からして、
手をあげるというのは考えにくい」
おかしくもないというように乾いた笑い声をあげながら
エリスの言葉が返されてきた。
「アクロイド、あなたに猟奇趣味をもった殺人犯の何がわかるというの、
彼らは妻や家族の前では善良な市民の顔を被っているものよ」
灰が煙草の端から落ちるのもかまわずエリスはさらに言葉をついだ。
「お友達のエルモが普段おとなしくて、クリサリスを崇拝していたところで、
夜な夜な別の男が寝室を出入りすることを知って逆上したり、
つきまとわれることに嫌気がさされて、面とむかって嘲笑われたとしたら
どうかしら……」
「エルモが逆上したと?」
エリスは吸殻であふれかえった灰皿で煙草の火をもみ消してから言葉を返してきた・・
「だとしても許しはしない」
「執行猶予はないのか?」
「私が分署長であるかぎりそれはないわね」
ジャケットからキャメルをとりだし、一本出して火をつけてからさらに続けた・・
「あなた探偵でしょ、事実をごらんなさい」
立ち止まって壁の額にはまった免状をじっと見つめてから、ジェイに向き直って続けた。
「頭はセミオートでcanterloupeカンタロープをなでたようにひしゃげ、脚は両方とも
Broken壊れ、左手の指はすべてSnap破れ、骨盤は6つにShatter砕かれて、
すべて血にまみれている」
エリスはさらに強調するように煙草をぐいとジェイに向け突き出して続けた。
「ガンビオーネ一家のなわばりでストリート暮らしをしていたときに、
タイヤ着脱用のてこをもった男がよ、街娼のひもでエンジェルダストを
きめた奴に襲われたのを見たの、野球のバットで全身の骨をばらばらに
されていた、ひどい状態だったけれど、それでもクリサリスよりはましな
状態だった。
並の人間の仕業じゃない、エースか、それともジョーカーの超人的力に
よる犯行よ」
「その条件に合う奴なら他にもいるだろ?」ジェイがそう言い添えたが
クリスタルパレスでなら彼だけよ」エリスは譲らず、デスクのところに戻って
腰を降ろし、ファイルホルダーを開けながらさらに言い募った。
「エルモの力をもってすれば犯行は可能だわ」
「かもしれないがね」ジェイはそう応えつつもも可能性を考えていた。
(たしかにエルモにはナット以上の超人的腕力がある、
それでもわずか97ポンドの小男にすぎない。
ハーレムハマーにトロール、カーニフェックスやオーディティに
だって可能というものだろう。
もちろんあの忌々しいゴールデンなんたらと呼ばれているジャック・
ブローンにだって力だけを問題にするなら容疑はあるというものだ、
どうにもエルモの犯行じゃない、と俺の勘が告げている)
エリスはその先を遮って言葉を告いだ。
「動機はともかく、エルモには犯行を行う機会があった、
それだけでも充分容疑に足るというもの」
「そいつぁどうかな」
「エルモが無実だとしたら、どうしてここにいないのかしら?」
机上のホチキスをもてあそびながら、エリスはさらに言葉を覆いかぶせてきた。
「エルモの部屋を調べたけれど、眠った形跡もなければパレスに戻った形跡すらない、
それじゃどこにいったというのかしら?」
ジェイは肩をすくめてはぐらかすように応えた「外だろ」
苦いものをふくんだような調子で吐き出すような言葉が
返されてきた。
「まるでエルモより有力な容疑者がいるような口ぶりね」
ホチキスをデスクに放り出し、紫煙を大きく吐き出しながら
迫ってきた。
「たとえば、そうスペードのAの男とか」
そのジェイの言葉にエリスはまったくとりあう風もなく応えた。
「ともかくエルモを見つけ出します」
煙草を握りつぶしてさらに続けた。
「あなたが5セントだか10セント均一でトランプ一揃いを買って、
侏儒のお友達をかばっていた、なんて情報が捜査線上に浮かび上がって
こないとも限らないのよ、アクロイド、そうならないように身を慎むことね」
「精々身を慎むさ」ジェイはそう応えたが、
エリスはまったく信じたふうもなく緑の瞳を細め、立ち上がってから言葉を返してきた。
「ひとつだけはっきりいっておくけれど、私は私立探偵という人種が嫌いなの、
そいつがエースだったら最悪もいいところね、これ以上首を突っ込むというなら、
あなたの免状がとりけされることも覚悟しておくことだわ」
「怒るとますます綺麗だね」
ジェイの軽口を完全に無視して最後通告を投げかけてきた。
「ばらばらにされてここに放り込まれないといいわね」と。
「どうにもご機嫌斜めだね」
ドアに向かい、ガラスに覆われた部屋の壁の前に立ち止まって
ついつぶやいていた。
「ブラック分署長はここで殺されたんだな」
何の気なしの言葉だったが、
「そうよ、だとしたらどうなの」いらだちを含んだ険のある言葉がかえされてきた、
どうも痛い所をついたらしい。
椅子もあのときのままだろうから……
「でこれからどうするつもり」思いがけない言葉がなげかけられてきた。
「頭の中身を整理する必要がありそうだ」
複雑な笑みを口でかたちづくりながら、右手を銃にあててから、
指三本で握りこぶしをつくり、残りの親指一本を立てて拳銃に見立て、
人差し指をアンジェラ・エリスに向けてから引き金を引くジェスチャー
して、またいらぬことを口走っていた。
「あんたに手をだそうという輩がいたら、まっすぐここに送り込んだほうが
よさそうだな……」と。
一瞬何を言われたか理解できない様子だったが、ようやく合点がいったとみえて
つぶやきがもれきこえてきた……「エース能力を使うということね」
そして悪態がかえされてきた。「とっとと出て行って」と。
そうして部屋をでると、Squad room点呼室に戻っていたカントとマセリークに
顔を合わせまた軽口をかけていた。
「分署長はon the ragあの日なのかい?」と。
二人は顔を見合わせていたが応えず、黙って暑をでるに任せたとみえる。
一端出てから、正面玄関に回って、中に戻り、
ボイラー室の隣りにある薄明かりに照らされた暗がりにあり記録保管室に入った。
中にはコンピューターにXerox Machineコピー機
そして壁際に鉄のキャビネットが据えられていて、ファイルが納められているのだが、
それだけではなく、青白い顔の背の低い近眼の警官が一人いた。
「やぁ、ジョー」そう声をかけると。
ジョー・モーが振り返って、淀んだ空気をかぐしぐさをした。
モーは5フィート以下の背をさらに前かがみにした、太鼓腹で、
マッシュルームのような肌の色の男で、
他に見たこともないおおきく微かな色の入った薄い眼鏡の向こうで、
小粒なピンクの眼を細め、白く毛のはえていない指を神経質に
こすり合わせている。
モーはNYPD最初のジョーカーであり、十数年の間唯一の存在だった。
ハートマン市長の70年代初期ジョーカー肯定政策による後押しで
任命されたものの、物議を醸したゆえ世間の目をひかぬよう即座に
記録室に押し込まれるにいたったわけだが、
当人は表にでるより、裏方の記録業務を好んでいる為気にもせず、
Sergeant Moleモール(もぐら)巡査部長と陰口をたたかれるに
いたっている。
「ポピンジェイじゃないか」眼鏡を直しながらそう応えたモーは、
濃紺の制服に乳白色の肌の色が際立って眼に刺さるようで、
昼も夜もなく、室内でさえ警帽をかぶっているのだ。
「本当か?」
「ああ、本当だよ」
通称Fort Freakフォート・フリーク(奇形要塞:NYPDジョーカータウン分署の
蔑称)においてでさえのけもので、モーと組むものはいない。
非番のときも例外ではなく、クリスタル・パレス
オープンしてからこのかた、そこに入り浸り、けばけばしい
ショーを愉しみながら、クリサリスの目となり耳となって、
本業の10倍の利益をあげている、というもっぱらの噂だ。
「死体を発見したのはあんた一人だったんだな?」
ジョー・モーが念をおしてきた。
「そうとも、まったく難儀な話だな、ジョーカータウンであの人が
無事でなければ、もはやあの街では誰も安全とはいえないだろう」
暗く薄いレンズの奥でまばたきしながらモーは言葉をついだ。
「何かできることはないのか?」
「スペード、エースのファイルが必要だ」
「ヨーマンだな」
「ヨーマンか」
ジェイ・アクロイドはモーの言葉を繰返しながら思案に沈んでいく。
(いつの夜からだっただろうか、感情抑制にたけた人だというのに、
パレスの暗がりでヨーマンという名を口にするクリサリスの言葉が
冷たくなっていったのは……一年いや一年半だったか……)
「憶えている……」とモーが応え、
「あの弓矢の男が殺しをしなくなってからもう一年以上たつというのに
なぜいまさらこんな」
そう続けたジェイの言葉にモーが疑問をかぶせてきた。
「あの男の犯行だと?」
「そうでなければいいと思っている」
ヨーマンは誰にも気づかれず煙のようにバーに入ってきて
弓をつがえ、
ハイラム・ワーチェスターが怒りにまかせてその前に
たちふさがったが、
突然ヨーマンの姿は大気に消え去った。
ジェイ・アクロイドは指差すことでテレポートさせる
ことが可能であり、右手に銃を持ってはいたが、その能力を発揮したのだ。
「殺すこともできたんだぜ……墓に直接テレポートさせる
こともできたというのにホランドトンネルに送っちまった。
くそったれが」
クリサリスに対する声の調子か、
Wyrmワームに向けた嫌悪の目か、
いや盾になろうとしたハイラムに対し、一瞬ためらった自分自身に対する
何かがひっかかっているのかもしれない。
そういえばあいつの傍には、マスクを被り、ひもビキニのみを身にまとった
ブロンドの娘がいたが、
(故意に見逃したわけじゃないと、いや自分で決断してそうしたんじゃないか。
本能的直感にしたがった、というのが一番正しいといえるが、いままでそれで
間違ったと思ったことなどなかったというのに、そうあの夜までは。
その甘さがクリサリスにふりかかったにすぎない、命で購ったと)
「ファイルを調べる必要が大いにあってね」
するとたたくように耳障りでありながら悲しげな声でモーが応えた。
「あのファイルは分署長のデスクにあげちまったよ、当分返してはくれまい、
とはいえコピーはとってある、いつも上に出す前に控えはとっておくことに
している、なくされないとも限らんからな、あんただってどんな些細な情報と
いえども見逃したくはないというものだろ」
そういってゆっくりとまばたきをし、周りを見回しながらさらに言葉をついだ。
「どこにおいたかな?そうともそうしていたところで何の不思議もない」
そういってコピー機の上に視線を向けている。
そこにある書類をフォルダーから取り出し、丸めて
ブレザーの懐に入れて、かわりに20ドルを二枚おいて
言葉を添えた。
「あんたの嗅覚はたしかだったな」
ピンク色の歯茎をむいて笑顔をつくってモーが返した。
「なぁにそうでもないさ」と。
「分署長が原本を戻してきたら、俺の分のコピーはそのときすれば
いいだけだからな」
そうしてジェイがドアを開け出て行くのを尻目に、忙しげに
また書類のファイリングに戻っていたが、
何かを思い出したように声をかけてきた。
「ポピンジェイ」
「何だい?」
「あの野郎をみつけだしてくれ」
色眼鏡を外し、ピンクの瞳をすがるようにゆがめてさらに
言葉を重ねてきた。
「俺たちは協力を惜しまない」そう請け負いながら、
もちろんジェイにはわかっていた、俺たちというのが
警察の仲間ではないということを。

ワイルドカード7巻その5

                ジョン・J・ミラー

               1988年7月18日

                   正午


17号線を転がしながら、ジェニファーのことは考えないよう努めている。
クリサリス殺しの犯人を捜す旅なのだから、手をかすことがなくとも責める
いわれなどありはしない、結局ジェニファーが正しいのだろう。
静かで美しい暮らしだったのだ。
なぜブレナンは死しか待ち受けていない街に戻るというのか、
そんな理由などありはしない。
庭をつくる暮らしではなく銃弾をかいくぐる日々、
暴力とすえた匂いを放つ汚物にまみれた路地に戻ろうというのだから、
結局口に出しはしないが悟っていたのだろう。
ブレナンがクリサリスの影を振り払えなかったということを。
ジェニファーの横に眠りながら、時に他の女を思い出して目を覚ます
ことのあったことを。
愛を交わす際に、闇の中で、蠢きあげる声、
その繊細な透明な肌が情熱に赤く染まることを思い出している
ということを、
愛を囁き、守ると誓った記憶のあることを、
ジェニファーに対して持つ過去の記憶がずきずき痛む傷のようにブレナンを
とらえてならないなか、
トムリン国際パーキングにヴァンをとめ、タクシーでマンハッタンに
向かい、ジョーカータウンの端にある安いが汚い宿に部屋をとり、
最初に決めたことは、クリスタルパレスに向かうことだった。
おおよそ一年ぶりにマスクを被りホテルを後にした。
弓矢のケースを背に負って。


            ジョージ・R・R・マーティン

             1988年7月18日

                午後3時


 <スペードエースキラー、ジョーカータウンのバー店主を殺害>
ポスト紙に見出しが躍る。
ジョーカータウンクライ紙の場合はより対象が明白にされている。
<クリサリスが殺された>という具合で、二枚写真が添えられている。
この街でジョーカーの写真が恒常的に載せられているのはクライ紙のみだ。
民主党員ジョーカー、アトランタに集結か>タイムズ紙の一面見出しはこうだ、
大統領選の最有力候補、グレッグ・ハートマン上院議員の応援として何千人という
ジョーカーが南に向かっているという。
とはいえ今年の民主党の候補者選びは混戦の体をなしていて、
どの勢力が多数派を占めるかは不透明であり予断を許さない状況だ。
とくにハートマン候補は暴力沙汰をさけたいところながら、
ハートマン支持のジョーカーとレオ・バーネット支持の原理主義者の間で、すでに
醜い小競り合いが始まっているという話だ。
ジェイはというと、有料トイレ設置で名の知れた中古車のセールスマンをいつも
推してはいるのだが、
ハートマンの苦戦しているらしい様子が気にならないわけでもない。
ハートマンを支援している人間にも多少の義理がある。
たとえばエーシィズハイの支配人ハイラムはハートマンの有力な支援者で、
何度も断りきれずただで飲み食いさせてもらっているのだ。
それにグレッグ上院議員自体、知的で印象深く、思いやりに溢れていて、
誰が大統領になってほしいかといえば、彼が一番適任であろうし、
彼が選出されるというジョーカーたちの希望を摘むのも忍びない。
一面を眺めていたが、政治情勢に関する記事ばかりで、クリサリスの
ことはどこにも書かれていない。
明日の死亡記事欄に名を載せてそれで終りにするのだろうし、それ以外
載せる気はないということなのだろう。
つまりジョーカーが残虐な死をとげたところで、紙面にのせるまでもない、
という考えが透けて見える。
それがジェイには腹立たしくてならない。
「わずか3日でどれだけのジョーカーが冷たくなっているか知っているのか?」
新聞売りの男がジェイの怒りの声に対してそう応えた。
その声は平坦で感情が一切こめられていない。
その声にはもはや哀しみが日常と化して意味をなさなくなっていることを告げている。
紙面に向いていた視線を上げると、その声の主、バワリーにヘスター通りといった、
いわゆるジョーカータウンの一部というようにありふれたジューブ・ベンソン、
いわゆるウォールラスの姿がそこにあった……彼自身ジョーカーであり、
300ポンドの青黒い肌がてかてか光り、口の端からはカーブを描いた牙が飛び出て、
丸いドーム型をした頭から硬い赤毛の束がぶらさがっている。
ジューブの洋服ダンスの中には、特別拵えのハワイアンシャツが詰め込まれているに
違いない。
今宵はというとやはり赤紫のパイナップルとバナナ柄のものに袖を通しているが、
ハイラムあたりが見たら顔をしかめることだろう、
ジョーカーのジョークを語らせらジョーカータウン一ということだが、
今回は気がついたら落ちを語ったところだった。
「匂わなければ気づかれもしない」と。
「あそこはあんたの帽子より古株だったろうにな、ウォールラス」
そうくたびれきった声をあげたジェイに、
ジューブはへりのあがったフェルト帽に薄い三本指をひっかけ、気障ったらしく
回しながら言葉を投げかけてきた、
「一度も笑ってくれなかったよ」さらに言葉をついだ。
「何年もの間毎晩パレスに通って、新しいジョークを披露したがね、
これっぽっちもあの人から笑いがとれはしなかった」
「あの人はジョーカーを笑いものにする気になれなかったんだろうな」
「あんたは笑えたのか」ジューブはさらに言葉をかさねてきた。
「あそこにいたんだろ?」帽子をかぶり直してさらに言葉をついだ。
「あんたが見つけたと聞いたよ」
「たしかにそんな気になれなかったな」ジェイはかろうじてそう応えた。
「違いない」ジューブも同意を示してくれた。
「前の晩に電話をくれたんだ……ボディガードの依頼だった、
期間を尋ねたが答えてくれなかった、いつまでかあの人にも
わからなかったんだろうな・・相手の心当たりも尋ねはしたが。
それも笑ってはぐらかすばかりだった。
今思えば声が震えていて、すぐにも来てほしかったんだろうな、
いつも以上にクールを装い、英国風のアクセントで話すように
してはいたが、どこか脅えているようでいて、早口に感じ、
なぜだろう、と思ったものだったがね、あんたに心当たりは
ないのか、ジューブ」
「新聞に書いてある以上のことは知らないよ」
ジェイはそう応えたジューブに一瞥のみを返して物思いに沈んでいった。
クリサリスは情報のブローカーをしていて、ウォールラスはその情報源の
一人だったはずだ。
ジューブは販売スタンドに立ってジョークを口にして新聞を売る一方で、
様々なゴシップをも耳にしてきたであろうから
「そいつぁないだろう」とつい口にしたところで、
ジューブが神経質にあたりを見回してから応えた、
「ここでは話せない」そして太った身体をもてあますように続けた。
「店じまいをするから、家で話そう」と。

ワイルドカード7巻その7

            ジョージ・R・R・マーティン
  
             1988年7月18日

                午後4時

ジューブはEldridgeエルドリッジにある宿屋の地下に住んでいる。
壁は剥き出しの煉瓦で、じめついた雨と腐肉の絡んだような匂いが
染み付いていて、
ジューブの部屋には手製の家具があり、
それと床から天井まであるEscherエッシャー
騙し絵から抜け出てきたような奇怪な現代彫刻が目をひく中、
その真ん中にボウリングの球を思わせる球体が据えられており、
その球は明滅を繰り返しているときたものだ。
Jokers Lust<渇望するジョーカー>と呼んでいる」
そうしてジューブは言葉を重ねてきた。
「不思議な眺めだろ、こいつを作った女性にわけを尋ねたくなる代物だろうが、
あんまり長く眺めていると頭痛のしてくるのが困りものでね。
何か飲み物は?」
彫刻の表面を見ているとセントエルモの火がちらついていて気分が悪くなる中、
ジェイは長いすの端に腰掛けてようやく応えた。
「スコッチのソーダ割を頼むよ……ソーダはあったらでいいのだが……」
「ラムならあるがね」
ジューブはキッチンによたよた向かいながらそう応え、
Yumそうだな」と言いながら無感情を装い言い添えた
「それでいい」と。
そうしてジューブは半分ダークラムの入って、氷が一欠けら浮かんだ
ウォータータンブラーを持ってきてから尋ねてきた。
「新聞じゃスペードエースの男がやったという話だが?」
ジューブは自分の分のラムのグラスを手に持って、
気を静めるように巨体をリクライニングに落ち着け言葉を継いだ。
「ポスト誌とクライ詩はそう報じている」
「死体の傍にスペードのエースがあったからな」
ジェイはそう応えてから、ラムをちびちびやりながら続けた。
「警察は認めていないがね」
「あんたはどうなんだ?」
ジェイは肩を竦めて応えた
「わからない」
ジェイは数時間の間、ヤフーに上がった己自身が署名した
調書を眺めていたのだが、
「ヨーマンか」
そう呟きながらも結論はまだでていない。
MO監察医にだって見立て違いはあるさ。
床を埋め尽くす死体に喜んでいるうちに……
感覚が麻痺してしまって……
解剖から明白な証拠が突き出していようとも気付かない、
ということもあるのかもな」
「新聞でも、弓矢を使う殺し屋をたしかヨーマンと呼んでいた」
そのジューブの言葉にジェイは頷いて返してから言葉をついだ。
「奴はあまり融通の効くタイプじゃない。
剃刀のような刃のついた弓で眉間を貫くか、
先端に爆薬をつけて破裂させることがありはしても、
狙う相手は常にアジア系のマフィアに限られている。
そのことから目的は怨恨であり、
そのやり口を考えれば素手のパンチ一発、
もしくはナイフをもった一人か二人の警官もいれば
取り押さえることができるという報告があがっているそうだ」
ジェイはそこでため息をついてさらに言葉をついだ。  
「つまり一つ問題があるんだよ。
クリサリスを死に追いやった人間は超人ともいえる腕力の
持ち主とされているが、
カードフェチのあの男はナットにすぎないということだ」
「間違いないのか?」ジューブが尋ね返してきた。
「一度唐突にでくわしたことがあるからな」
ジェイはさらに言葉を継いだ。
「概ね間違いはないだろうと思う。
それでも確かめる必要はあるだろう。
精神に潜れて・・・そいつがエースならさらにいいだろうね」
ジューブは思案気に牙の片方をさすりながら言葉を搾り出した。
「それなんだがなぁ」
太って小柄なジョーカーは躊躇しているようであった。
「何だい?」ジェイは即座に先を促していた。
「たしかにそうかもしれんがね・・」ジューブはしぶしぶ言葉を継いだ。
「クリサリスはあの男に怯えてはいたと思うんだが」
「話してくれないか?」
「確かにスペードのエースを残す殺しは一年前が最後だったわけだが……」
ジューブがようやく語り始めた・・・
「ストップしただけで、同時にクリサリスにも何か変化があった。
そいつは請合える」
「どう変わったと?」引き込まれるように尋ねていた。
「うまく説明できないんだがね、同じであるように装ってはいたようだった
けれど、毎晩あの人の様子を見ていたら、そうじゃないと気付いただろうね。
以前より・・・そう何かに強くひきつけられているように思えたんだ。
つまりだね……
情報を売りに行ったらけだるげに装いはしても、
以前なら……些かでも興味を示していたのに……
関心そのものを失ったようになった。
ことにヨーマンに関する情報なら食いついて、支払いも良かったんだ」
Shitあの野郎」
ジェイは努めて平静を装いつつも、悪態をついてから応えていた。
「つまり何にか怯えていて、
それどころじゃなくなったと、
あのクリサリスがか……」
「クリサリスはあんたのいう通り、常に己を抑えていたよ……
様子がおかしくなったのはディガーの方だ」
「ディガー(掘り出し屋)だって?」
「通称ディガー、つまりトーマス・ダウンズのことさ。
エーシィズ誌のレポーターであるあの男が、
去年の世界ツアーから戻ってきて、それから足しげくクリスタルパレス
週に二回か三回訪れるようになり、
上に上がってクリサリスに会っていた」
「それでどうなっていたと?」
「朝までそこで過ごしていたんだろ、
エルモかサーシャが朝までそこにいたなら
実際どうだったか聞いてみるといいな」
ジューブは頭から垂れ下がった赤い髪を掻きながら言葉をついだ。
「いたとしたらエルモだ」
ジェイにはその言葉が奇妙に響いてならなかった。  
「サーシャはいなかったと……彼はテレパスなんだぜ、
サーシャがいたなら何が起こったか明白だっただろうに」
「サーシャはいつもパレスにいるわけじゃないよ、
ハイチ出身のあの男はイーストリヴァーを下ったところの
どこかだかに住んでいて……時々あそこに通っているんだ、
あの男には何人かひもというか同居人がいて、
その内の一人、近くで夜倉庫警備をしているレジナルドという
男がいて、
彼が言うにはサーシャは出入りは激しいものの、
パレスに出向くのは夜明けすぎだそうだよ」
「そうなのか」
クリサリスがボディガードを必要としていた事情が
おぼろげながら見えてきてはいるが、
(サーシャがテレパスとはいえ、
その能力はあまり強いものじゃない、
精々精神の上っ面をなぞって簡単な感情を読み取る
くらいの代物で、
トラブルが近づいて初めて警告するのが関の山の
はずだ。
とはいえ夜いなかったとなると……)
「何か事情があったとみるべきだろうな」
ジューブが薄く青黒い指で牙をいじりながら応じた。
「10ヶ月だったか11ヶ月くらい前に、クリサリスが
新しいセキュリティシステムを導入して、
最先端の技術が用いられているということでかなり高く
ついたという話を。
作業した工員が知人でね・・・彼から聞きだしたんが。
聞いたところによると、
クリサリスから特殊な注文があったんだ。
しかけを頼まれたんだと……
壁を通り抜けようとしたら殺せるようにと」
ジェイはグラスを持ち上げて、氷が解けるのを眺めながらも、
ラムを味わう気分になれずにいたが、
それから一度口をつけ、ゆっくりと喉に流し込んだ。
湧き上がる怒りの感情を飲み込むかのように。
(ヨーマンはクリスタルパレスの正面から入る、夜であろうともだ。
だとしたら考えられる人間は……そこ以外から出入りする人間、
すなわち奴の相棒の女、際どい紐ビキニに身を隠したブロンドの女が、
たしか壁を通り抜けられて、バーの鏡から姿を現したことがあって、
ヨーマンをテレポートさせたときも同じようにして逃げおおせている)
「どうかしたかい?」ジューブが尋ねてきた。
「なぁに俺の欠点がまた首をもたげてきちまっただけだ」
ジェイのその言葉には苦いものが染み出している。
「捕らえるためだけじゃなかったと」
「どうやらそのようだな」
ジューブが言葉を搾り出した
Pity憐れでならないね」
その言葉は……ジェイが己の欠点と考えている感情と同じであり
口にだして繰り返していた。
Pityそう憐れでならないんだ」と。

ワイルドカード7巻 その8

          ジョン・J・ミラー

            午後4時

Church Of Our Lady Perpetual Misery
<憐れなるもの達のための永劫女神教会>は
ほぼ無人に思えたが、
傷の目立つ木のPew会衆席には跪き懺悔する数人の姿が
散らばっていて、
その低く静かに垂れた頭からは、
聖書に示された明白なJesus主より現実味のあるもの、
彼らの神に対する祈りが捧げられているのだろう。
Quasiman*クオシマンと呼ばれている背の突き出た男が
綺麗に折り目のついたLumberjack Shirtsランバー
シャツに清潔なジーンズを身に着けていて、
Altar祭壇の間をいったりきたりしつつ
・・小声で何かを呟きながら
tabernacle礼拝堂を掃き清めていたが、
ブレナンが祭壇に近づいたのに気づいたのか、
礼拝堂から降りて、
硬くぎくしゃくした動きで、左足を引き摺りながら近づいてきた。
ワイルドカードウィルスで身体は捻くれたものになりはしたが、
超人的腕力とテレポートする能力を与えられている。
「こんにちは」と声をかけて、
「ファザー・スキッドに会いにきました」と尋ねると、
「こんにちは」と返してきた。
その瞳は暗く熱に浮かされたように見えながら、
その声は深くやわらかいものだった。
Chancellery執務室にいらっしゃいます」
「ありがとう・・」ブレナンはそこから言葉を継ごうとしたが、
ブレナンを見つめるクオシマンの瞳は焦点を結んでおらず、
そのジョーカーの顎は緩んでおり、涎が零れ落ちている。
心ここにあらずといった状態であるのは明らかであるから、
ブレナンは頷いて返してから、
クオシマンの視線が向いたままの先にあるドアを開けると、
ファザー・スキッドはくたびれた木製デスクの前にかけていて、
本を読んでいたが目を上げ、微笑みかけてきた。
ファザー・スキッドはテントのように広がった質素な司祭服で、
その恰幅の良い胴体と幅広の肩を覆った、
薄い灰色の肌をした髪のない男で、
瞬膜で覆われた大きく明るい目、口は一見口髭を思わせる短い
触手がぶら下がっていて、
本の上に置かれた手には、
大きく、長く細身の指が添えられていて、
手の平には退化した吸盤の名残が見て取れる。
かすかなあまり心地のよくない海の香すら
漂ってくるかのようだ。
「どうぞ、おかけください」
その声は常日頃世界と接するのと同じ、
慈悲深く愛情に溢れたものであり、
「古い友人の遺した本を読んでいました」
そして本のタイトル、<一人の人間の人生に
おける一年〜ザヴィア・デズモンドの日誌〜>
を示してみせながら言葉をついだ。
「彼だけでなく多くの、古い友人の思い出が
溢れているのです」
心の痛みを表すように指を、
その上でくねらせながらも言葉を重ねてきた。
「また立ち寄ってくださって嬉しく思います。
姿を隠されて、ずっと心配していたのですよ」
ブレナンは微笑みかえしてから幾分ユーモアをこめて
応えた。
「申し訳なく思います、神父様、タキオンには
事情を話してあったのですよ。
この町に戻ってくるつもりはなかったのですが、
事情が変わったものですから」
ファザー・スキッドは困惑を滲ませながら言葉を
返してきた。
「クリサリスの、死の一件ですね、
あなたがたは……その……親しかったことがあった
とか……」
「警察は、俺が殺したと言っているのでしょう」
「ええ、そう聞いてはいます」
「それでも信じないとおっしゃってくださるのですね」
ファザー・スキッドは迷いを振り切るように頭を
振って答えた
「もちろんです、あなたにクリサリスを殺せるはずが
ありません、とはいえあなたに罪がないとまでは
いいません、罪のない者のみが他人に石を投げられる
ともいいます。
私も魂の清浄とか純潔なんて言葉からは残念ながら
ほど遠いようですからね」
そうしてファザー・スキッドは溜息混じりに言葉を継いだ。
「クリサリスも、その哀しみに満ちた魂の救済を求めていました。
せめてその魂の安からんことを願っております」
「俺もそいつは願っているが」
ブレナンは続いて言葉を吐き出した。
「俺にできるのは殺しの犯人をみつけることだけだ」
「警察に任せたら……」
そういいかけたファザー・スキッドの言葉を遮って言い切った。
「俺ならそれができる」と。
その大きな肩を竦ませて司祭が応えた。
Perhapsおそらくそうでしょう、
Perhapsおそらく藁くらいは掴んでいるのかも
しれませんし、寧ろ目星もついていたとしてもそれでも、
あなたがどうしても自分でそれをなさるというなら……
私の協力のあることを覚悟なさることです。
嫌とはいわせませんからね」
鼻から伸びた触手の集まったところを擦ってさらに続けた。
「まぁ私の知っていることが役にたたないとも限りませんから」
「早速知恵を貸していただきたい、探している人間がいるのです」
「誰だね?」
「サーシャです、彼はここに出入りしていたと聞いていますから」
「サーシャ・スターフィンは信心深い男ですから」
司祭はさらに続けた。
「聖餐を共にする姿を良く見かけたものです」
「サーシャは行方をくらましたのですよ」
ブレナンはそう返しながら、魂の在処をないがしろにして肉体のみを
探しているような居心地の悪さを感じてならなかった。
「普段はパレスにいますが、殺しの証人として口封じされることを
恐れて身を隠しているのではないでしょうか」
ファザー・スキッドは頷きながら応えた。
「かもしれませんが、母親のアパートはお探しになられましたか?」
「いや」ブレナンには思いもよらない言葉であり尋ねていた。
「それはどこです?」
「ブライトンビーチのロシア人居留地です」
ファザー・スキッドは具体的な場所を示してくれた。
「感謝します・・助かりました」
ブレナンは教会を後にしようとしながらも、
ためらいがちに司祭に視線を向けて尋ねていた。
「一つだけお尋ねしますが、今朝クオシマンは
どちらにいましたか?」
ファザー・スキッドは厳粛な面持ちでブレナンに視線を
向けて応えた。
「疑っているのですか?彼は特に優しい魂の持ち主なのですよ」
「強腕をもまた備えている」
ファザー・スキッドは頷いて応じた。
「それは間違いありませんが、彼は容疑者から外さねばならない
でしょう。
ナットというものは身体や骨格が変化したことに注目しはしても、
変わらないものもある、ということを忘れてしまうのですね。
彼は昨晩墓地を警護していましたよ、彼がそれを望んだのです。
物忘れが激しい性質でありますが、少なくともその気持ちは彼本来の
ものです」
「それでは毎晩それを行っているのですね?」
「毎晩です」
「一人でですか?」
一拍の間躊躇いながらもファザー・スキッドは応えた。
「はい、そうです」
ブレナンは頷き返して答えた。
「重ねて感謝します」
ファザー・スキッドは片手を挙げて祝福を示して
「神があなたと共にあらんことを、あなたの為に
祈っております、それにね」
立ち去ろうとするブレナンの背中に向けて言葉を
言い添えていた。
「クリサリス殺しの犯人にしたところで、あなたに
尻尾を掴まれたら、己の平穏を願わずにはいられない
でしょうから・・・」と。
 


ノートルダムの男Quasimodoが由来で、日本では「カシモド」と表記されることから、「カシマン」という
表記もありかと・・・

ワイルドカード7巻 その9

       ジョージ・R・R・マーティン
            午後7時

クリスタルパレス前の路地には数人固まっていて、
正面には4台のパトカーが停められており、
5台目が後ろの通りに停められている。
ジェイがタクシーから降りると、
その内の一台の傍にマセリークが立っていて、
警察無線に対し何か話しているのに気づいた。
建物は封鎖されていて、
正面入り口につながる階段にはX字のラインが
張られ、
ドアのところには犯罪現場を示す垂れ幕の
黄色い色もちらついている。
三階の窓についた灯りが、
そこにあるクリサリスの私室を思い起こさせて
つらくなる。
隣の部屋にも人が散らばっているのだろう。
時折フラッシュを焚く光が点滅していて、制服を
着た数人の姿を浮かび上がらせている。
神のみぞ知るといった証拠を求めているに
違いない。
辺りには野次馬の姿もちらほら見え、
口々に何かを囁きあっている。
彼らはジョーカータウン街の元々の住人で、大概が
ジョーカーだが、
スラム街に住むナットだか極めてそれに近い人影も
二人いて、
街につながる歩道に警官の前であるにもかかわらず
客引きに精を出しているポン引きがおり、
他に視線を向けると、いかにも古臭いギャング然とした
Mae westメイ・ウエストのマスクを着けたワーウルフ
団員が四人いて、
鼻をつきつけあっているときたものだ。
もちろんクリスタル・パレスにいつもいる人間も混じって
いるだろう。
無線を切ったところのマセリークの前に行き、
言葉をかけた。
「それで……犯罪者は現場に戻ってきたかね?」
「だからあんたは戻ってきたんじゃないのか・・」
そう指摘したマセリークの言葉を茶化しつつ
言葉を差し挟んだ。
Dollyおいおい、何か指紋は出たかな」
「たっぷりでたとも、あんただろ、クリサリスに、
それからエルモにサーシャとルポのもな。
調書をとった人間のものしかみつかっちゃいないよ」
Ahそうかい」
と曖昧に答えたジェイを尻目にマセリークが続けた。
「カントが言うには、この中に動機を隠した人間が
いるんだそうだが」
Real Good素敵な話だね」
ジェイはタイトな革のミニスカートを身に着けた女に
気をとられつつ、
For a lizard蜥蜴革かな」
と呟きつつマセリークのいる方に向けて振り返ると、
半ブロックほど向こうにフードを被った姿が目に飛び込んできた。
「あんたがそう言っていたと伝えておくよ」
そう苦笑を滲ませつつ返してきたマセリークにジェイが応えた。
「それじゃこいつも伝えておいてくれ、
何か情報を掴んだとしてもそいつ自体が重要じゃないし、
動機としたころで指紋と変わりはしない、
多すぎてもかえって真実から遠ざかるものさ」と。
そうして通りに視線を向けると、
フードを被った男が闇の中に立っていて、
パレスを見つめている。
その男が振り返った。
ジェイが見たその男の顔がある辺りには、
金属の輝きが見て取れた.
フードの下にフェンシングの面を被っているのだ.
「そいつを聞いたら喜ぶだろうて,
他に何か伝えることは」
「そうだな」
ジェイはそう一拍置いて続けた。
「エルモは外した方がいい、そう伝えておいてくれ」
そうして再びマセリークに視線を戻して尋ねた。
「それでサーシャは帰ってきたのか?」
「母親のところに身をよせてるそうだが、
あんたに関係ないだろ、
第一エリス分署長から、手を引けっていわれて
るんじゃないのか?」
「手はださないさ」
ジェイはそう応えながらも視界の隅で、フードの
男が闇に消えていくさまを追いつつ続けた。
「いい手がかりは身近な内にあるものさ」
「見落としたというのか?」
ジェイは両手の平を上に向けて上げ応えた。、
「さぁな、実際どうだかね、
ともあれもう行かなくちゃな……さよならだ……」
ジェイがそう言い放つと、
マセリークは不機嫌な様子で見つめてはいたが、
肩をすくめてからクリスタルパレスの中に消えて行った。
そうしてジェイもまた雑踏に分け入っていくと、
もはや手遅れだった。
フェンシグの面をつけた黒いフードの男は見当たらない。
(いや<男>というのは正確にいうと違う)
薄汚れた黒い服装にあの巨体を見るに明白だ。
オーディティの中には男性と女性両方がいるのだから、
(どんなジョーカーであろうとも重要なことは一つだ)
そうして呟いていた。
「怪力の持ち主ということさ」と。

ワイルドカード7巻 その10

        ジョン・J・ミラー

          午後8時
  

ブレナンのノックに応え、ドアを開けたのは、、
古びた雀を思わせる、小柄で年老いた女性だった。
「サーシャはいるかね?」ブレナンが尋ねると、
「いないよ」という言葉が返されてきたが、
ブレナンはドアの間に足を挿しいれて、
閉じられるのを防ぐと、
ドアの向こうから窺える室内で、
何者かが動くのが見えたが、
誰だかは明白だ。
「サーシャだな、危険なことは何もない」
そうして声を搾り出した。
「話したいだけだ」
年老いた女性はドアを抑え必死で閉めようと
していたが、
ブレナンの体重の載った脚をどけられずにいると、
哀れな声が中から響いてきた。
「大丈夫だよ、Maママ、」
そして溜息混じりに言葉をついだ。
「この人からずっと隠れてはいられないだろうから」と。
サーシャの母親はドアの脇からどいて、ブレナンを中に入れたが、
皺の目立つ顔を困惑に歪めつつブレナンに警戒しながらサーシャに
視線を向けると、
サーシャはリビングのソファーに崩れ落ちるように掛けていて、
「大丈夫だよ、ママ、お茶でも煎れてくれないかな?」
と繰り返し、
ブレナンがサーシャに向かい合ったところで、
サーシャの母はようやくその言葉に頷いてキッチンに向かっていった。
バーテンダーは細身で、骨も筋肉もあまりあるように見受けられない。
生気がなく、その顔は筋張っていて青白い。
「何があった?」
そう尋ねるブレナンの声に
「何も……」
サーシャは疲れきったというふうに首を振ってそう応えた。
その声には痛みと喪失感が滲んでおり、
ブレナンがこれまで耳にしたどの声よりも苦いものだった。
「何を隠しているんだ?テレパシーでクリサリス殺しの犯人を
知ったのではないのか?」
サーシャはじっと腰掛けたままで何も話そうとしない。
ブレナンがそれに対し頷きかけると、
「誰かというならばいたよ」とようやく言葉を搾り出した。
「誰だい?」
「あの私立探偵だ、ポピンジェイと呼ばれている男だ」
(ジェイ・アクロイドか、
たしかエースだったな、
あの男が殺したとは考えにくいが)
「パレスで何をしていたんだろう?」
サーシャは何も答えず、ただ肩を竦めてみせた。
「エルモはどうなんだ?」そうブレナンが尋ねると、
バーテンダーは首を振って返した。
「クリサリスに何か頼まれて出て行ったきりだ、
何を頼まれたかは聞いていないがね」
「エルモが殺した可能性は?」
サーシャは笑って答えた。
「まさか、冗談だろ?あの子男がかい?
あの人をしたっていたんだ、まだあんたがやったと
いう方が頷けるというものさ」
「他に何か変わったことはなかったか?
殺しに結びつくような何かだが」
サーシャは神経質に、首にできたかさぶたを
厄介なもの触れるよう触りながら応えた。
「どうやって殺したかということだな」
そこから熱に浮かされたように語り始めた。
「さっきまでフリーカーズで飲んでたんだぜ、
そこで聞いちまったんだ」
「何を聞いたんだ?」
「ブラジオンさ……やつがやったんだ……
そう自慢していたという話だ」
「なぜブラジオンがクリサリスを?」
サーシャは肩を竦めて応えた。
「知るものか……あいつはいかれちまってるからな。
へましてフィストを外されてから、手柄をたてようと
躍起になってたって話だ」
ブレナンは不敵に頷いて応じた。
(確かに筋力はあるが、それだけだ。
力は強くても間抜けな奴だった。
数年前フィストを相手にしていたとき、
やりあったことがあったのだ。
その後マフィアはギャングの抗争で大分
弱体化したと聞いているが、
もしクリサリスがキエンとフィストの関係を
知ったなら、
ブラジオンが差し向けられることはありえる。
というよりは、フィストにとりいろうと独断で
動いたとみるべきか)
そこでサーシャの母が茶を乗せたトレイをもって
キッチンから戻ってきた。
サーシャが湯気のたつカップを手で包むように
持ち上げたのを見てブレナンは潮時と判断した。
「もう行かなくては、
用心にこしたことないぞ、サーシャ」
そう声を掛け、
年老いたその母に視線を向けて頷いてから、
そのアパートを後にした。
(サーシャの聞いた噂が事実ならば、
トライポッドに言って消息を掴まねばなるまい。
確かにブラジオンならば、
あれを行えるだけの腕力がある。
もしそうだとしても、
奴自身が主犯というのではなく、
そいつらにつながっているとみるべき
だろう)
そしてキエンにつながっているとするならば、
ブレナンは仇敵への復讐を再開するこになるだろう。
キエン、もしくはその組織がクリサリスの死を命じたならば、
フィストは購うことになるのだ。
彼ら自身の血潮で。