ワイルドカード7巻 7月25日 午後1時

     ジョン・J・ミラー

       午後1時


ブレナンは外側のドアの開く音、それから
疲れた声を聴き、ドアの閉まるところで、
腰を上げ、スイートの寝室につながる小口に
身体をねじ込ませ、銃を手に、タキオン
アクロイド、そしてワーチェスターの
寄り集まった前に姿を現すと、驚いた顔を
向けられて、
「ダニエル、ここで何をしているのですか?」
タキオンに声をかけられた。
タキオンが手を失ったということは話で聞いて
いても、実際目にした色を失い、憔悴しきった
顔は予期していたよりひどいもので、
よほどのことがあったことは間違いない。
それでもブレナンは、まだ終わってはいないのだ。
と己に言いきかせ、
「クリサリスを殺した奴を追ってきた」と言い放つと、
血の気を失ったタキオンは更なる驚きに顔を歪め、
「間違いないのですか……」そう切り出したところに、
「何の話をしているんだ」とアクロイドが口を挟んできた。
アクロイド自身も青痣まみれのひどい顔をして、
いつ倒れてもおかしくないように思える。
ブレナンはかぶりを振ってこころを決め、銃口を向けて、
「そこに座るんだ」と務めて冷たい声で命じ、
「それでは話してもらおうか?」そう言葉を投げかけると、
ハイラムは一瞬ふらっとはしたものの、ブレナンの言った通りに
して、アクロイドもその隣に座り、用心しつつも手は膝の上に
置いていた。
Oh God嗚呼、なんたることか」ハイラムはそう漏らし、
「まだ終わりにはしてくれんのか?」などと言い募ったが、
「釈明の余地はないのですか?」タキオンがそう言って、
「どういうこった?」アクロイドは被せるようにそう口にして、
「クリサリスを殺した奴が誰かわかった」
ブレナンが静かにそう言い放つと、
「マリスの腰巾着のしわざだろ?クリサリスは何か都合の悪いことを……」
「いいや、そうじゃない」
深く息を吸い、努めて冷静な声を出すよう努め、
「俺はクリサリスのことはよく知っている」そう言葉を絞り出し、
「極めて親しい友人として、殺した相手を追っていた。
そいつはただ殺しただけじゃない。俺がやったようにみせかけ
すらしたのだ」
そして瞬き一つせず決然とアクロイドに視線を据え、
「それがいかに非道なことかぐらいわかってもらえると思う」
アクロイドは黙って頷いて、
「そこなんだがね、どうにも釈然としないわけだが……」
ブレナンも頷いて返し、視線をタキオンに向け、
「クリサリスが殺される理由があったとは思わない。
何らかの不幸な出来事が積み重なっての凶行といっていいだろう。
あれだけのことができる腕力を持ったエースの仕業と思い込んで、
そこから抜け出せなくなっていた。
しかし腕力なんて必要なかったということに気づいた」
「どういうことだ?」アクロイドがそう訊き返すと、
「そんな莫迦な話があるか」と言い募ったが、
ブレナンは首を振って否定し、
「そもそもおかしいとは思わなかっただろうか。
血がほとんど飛び散っていなかったのは、
潰されたときには心臓が止まっていたということになる。
だから壁にも、机にも、床にすらもたいして血は飛び散らなかったんだ」
タキオンは頷いて、
「そういうことになりますね」と応え、
「つまり誰かが超人的な腕力を持ったエースの仕業にみせかけるため、
あの人の死体を潰したということになる。
誰がそんな真似をしたのか?」
そこでブレナンは迷いを振り払うように首を振り、
「容疑者が絞り切れなくなっていたが、サーシャの存在に着目することに
した。
あいつはテレパスだ。殺人の現場を感知していたはずなんだ。
それなのにその事実を明らかにせず、行方をくらましてしまった。
そこでサーシャを追うことにした]
「けどみつけられなかったんだろ?」アクロイドはそう言って、
「あいつはアトランタにいたのだからね」そう継がれた言葉に、
「その通りだ」と返し、
「その代わりにみつけたことがある。ティ・マリスと呼ばれる謎の
存在に傅いていたことがわかり、マリスの潜んでいたと思しき
アパートに辿り着いた。そこにはクローゼットがあり、コートが
あって、これが入っていた」
尻ポケットに折られた方の腕をそっと差し入れ、カード一揃いを
取り出した。
華美でそれでいて使い古された長い年月が感じられて扱いに気を
使う必要があるものだった。
「それが何だというんだ?」
アクロイドが露骨に嫌な顔をしてそう言い返し、
「これはクリサリスの使っていたものだ」ブレナンはそう説明し、
「いつもソリテールをやっていた、そしてその中の一枚が俺を
罠にはめるために使われたものだ。おそらく考えなしにコートの
ポケットに入れ、それを置いてきてしまったんだ。
そうだな?ワーチェスター」
そう言って、ブレナンは巨体のエースに視線を据えたが、
ハイラムは何も答えず、口籠り、うろたえながら、指を首筋の
痣にかけ、真っ青な顔に、玉の汗を滲ませ、手を震わせている。
ブレナンはカードを床にぶちまけ、ジャケットのポケットから
スペードエースのカードを取り出していた。
このカードがここまで導いてくれたのだ。
そう想い、投げつけると、カードはハイラムの恰幅のよい腹に
当たりカーペットの上に落ちていた。
暗く不吉なその模様を露わにして……