ワイルドカード1巻追加①その1

Captain Cathode and the Secret Ace
   キャプテン・カソードと秘密のエース

  Micheal Cssuttマイケル・カサット

             成層圏ジェット内、正午

急旋回に唸りをあげる成層圏ジェットのエンジン、ウルフジョーカーの仕業だ、
身構えるカソードをよそにハッチの開く音が響いた。

Martyr(声のみ)

キャプテン、空気が

ほそくえむウルフジョーカー

ウルフジョーカー:暗号をよこせ、さもなければ3人が窒息することになる

カソード:きさまも死ぬのだぞ

ウルフジョーカー:山に進路をとって飛び降りるまでさ

カソード:臆病者のジョーカーにできるものか

ウルフジョーカー:おこらせようたってそうはいかん、その手はくわんよ

そういうやいなやウルフジョーカーは顔面に手をかけひっぺがした、マスクだったのだ、
その下から現れしは

ROWAN MERCADOロワン・メルカド、タキスの宿敵、その人の顔だった。

カソード:メルカド、貴様だったとは





そこでKarl von Kampenカ−ル・フォン・カンペンは脚本を閉じ、デスクの上に裏返し伏せて置いた。
1956年8月月曜早朝、リパブリックスタジオ、そこにキャプテン・カソードのオフィスはある。
サンタ・モニカ山脈に近い、サン・フェルナンド渓谷の中で、外の気温は華氏90から100度
(摂氏にして30〜40度程度)に達するほどで、エアコンがうなりをあげて気温をさげてくれているというのに、
それにもかかわらずカールは、そこで寒気を感じてならなかった。
キャプテン・カソードの脚本は、マクベスのような高尚なものである必要は無く、
HG・ウエルズみたいに驚きを体現する必要もなく、Hellcats of the Navy勝利への潜航のごとく興奮に満ちたものである必要すらない。
だったら古びて陳腐な仮面の悪漢だけでればいいのか?Willy Leiウィリー・レイのいいだしそうなことだ。
椅子から立ち上り、背伸びをしたのは、緊張をときほぐすばかりではなく、単に認識を整理したかったからでもある
確固たる現実を脳裏よりしめだし、椅子とデスク、そしてタイプライターのみがあるように望み
そこにメモを書き付けるのだ。
棚にはきっかり六週間ぶんのキャプテン・カソードの脚本しかありはしないのだから
カールは白髪交じりの金髪に蒼い瞳という典型的アーリア人の小柄な男で、
丸い肩をみればむしろがっしりした体格といえるが、脚をひきずった様子が顕著なためそうはみえない
戦時中ペーネミュンデで受けた空爆の後遺症だ。
そこで電話の鳴る音を耳にしてほっとした、多少は息がつけるだろうから。
アシスタントのアビゲイルが「お電話です」と呼びにきたが、でるまでもなく
その内容はわかっている。
「またブラントが遅れるというのだろう?」Brant Brewerブラント・ブリューワー、キャプテン・カソードその人だ。
引き出しから濃い目の色のついたメガネの一つをつまみだして、オフィスからでると、
アビゲイルが丁度受話器を電話台におくところだった。
Saul Greenソール・グリーンに連絡をとって、抗議の意思をつたえましょうか?」
ソール・グリーンはブリューワーの代理人ではあるが、抗議しても無駄なことはわかっている・・・
「ブリューワーにはどこ吹く風、警告ぐらいにはなるかもしれないがね」
「あら、ケロッグのハロルド・ダン氏が9時にお見えになりますよ」
シリアルメーカーのケロッグがメインスポンサーについてくれたおかげで、二倍の予算がかけられるようになった。
いわばカールにとっても生命線といえる。
「なんとかしなくてはな」
怒りのやりばをもてあましたまま、アビゲイルのデスクにあったヘラルド誌の朝刊を掴み取っていて、
ふとGriffith Park observatoryグリフィスパークの記事がめにとまった。
石化したような人の姿が
メデューサ・キラーがまた現れるんだ」
石にされるジョーカーたち、これで三ヶ月はシリーズをもたせることができるだろう
「これで首の皮がつながるってもんさ」
「カール、あなたが本当は悪の黒幕じゃないかと思うときがあるのよ」
「皮肉としてしては上出来だな」
実際アビゲイルイースタンカレッジくらいでているだろうし、カールはそれより英語が堪能で
あるふりをしていることになる
「悪か、君がそういうならそうかもしれないね」
アビゲイルは25歳の、細身の落ち着いた色の髪をしている娘だ。
ニュース番組で、辛辣な批評家たちの間に一人いる目立たない女性、
そうたとえるとわかりやすいかもしれない。
実際アビゲイルの声は心地よく、仕事上のつきあいしかないにせよ、面倒な会議のあとでも癒されるように思える。
いやいやそもそも秘書が、雇い主のことを姓ではなく名で呼ぶことは許されることではあるまいに……
「で今回ジョーカーに狙われるのは若い女性じゃなくて、実際は男性だった、という趣向はどうかしら」
「つまり演じているわけだね」自分でもその言葉は苦笑めいて響いた
「プロデューサーに殺されるよ」笑顔でアビゲイルに応じ、濃い色のメガネで表情を隠して部屋を出る。
「どっちが悪の黒幕かしれやしない」とつぶやきながら。






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自分自身にうそをついているのが悪とするならば、
たしかに私は悪人といえるだろう。
戦時中の無残な体験で弱さやもろさから目をそむけるようになり、
それをドイツ式の歪んだユーモアで覆い隠すようになったのだから。
名前すら隠し持っている、Fokusフォーカス(英語だとFocus)と
いう名でワイルドカードもちであることを意味するドイツ語での名だ。
遠くのものをズームして視る能力で、視覚的能力というより精神的能力のようだ、
間に何かあっても関係なく視えるのだから。
実際能力を使っている際には時間すら引き伸ばされているようにすら思える。
そしていまだコントロールしようと躍起になっている段階にすぎない。
熱くなったアスファルトを越え、山から谷の北はじまで視線を向けると、突然
ウィルソン山が姿を現し、その高台にあるTV通信塔がクローズアップされてくる。
まばたきひとつとともに巨大にそびえる百インチの白いドームをもつ放射版が目に
とびこんできて、塗装のはがれまでみてとれる。
またまばたきすると、KNXラジオの塔が、そしてその安全灯が消えるさまも、
それは性的経験よりぞくぞくする体験といえる。
もちろんそれはプライベートなものでなければならず、ささやかな特権にすぎない。
実際フォーカスならば、相手が近かろうが遠かろうが状況に係わり無く見張るなんて芸当も
可能というものだ。
ワイルドカード能力自体は際立ったものでないとしても、力の発動時は蒼い瞳が赤くもえたった
ように輝く。
だからつねに手の届くところに暗い色のメガネを用意して不測の事態にそなえているのだ。
メガネとドイツ語のアクセントに気をつければ万全であるとしても、ふと思わずにいられない。
1956年当世のハリウッドにおいては、エースであることと、ヒトラーの国から来たということ、
どちらが重いハンディになるだろうか、と。