ワイルドカード5巻モータリティその2

                不滅ならざるもの              
                   ウォルター・ジョン・ウィリアムス       



三十分後、ファーストフードの容器でいっぱいになったポリ袋を二つ抱え、アンドロイドは天窓を開けた。浮かび上がりそれを通り抜けて屋根を横切ると、裏路地へ続く通気孔を滑り降りる。ゴミを投げ捨てるのにおあつらえ向きのゴミ収集箱が、その路地にあるのを知っていたからだ。
両足がでこぼこのコンクリート舗装路を叩く。様々な音が路地に反響していた。激しい呼吸音に、しわがれた呻き声。奇妙な、歌をさえずる、小鳥のような声もした。
ジョーカータウンでは、音は色々なことを告げる。その褐色砂岩作りの壁から漏れ聞こえてくる、暴行の犠牲となった声なき声。哀しく忌まわしきジョーカー、スノットマンが息も絶え絶え、もがいている。落伍者がまたひとり打ち捨てられ、悪夢に苛まれるのだ。
フリーカーズから出てきた単なる客、そう、酒を飲み過ぎたかあるいは、あまりに異様な光景を見たために、胃の内容物を戻そうとうずくまっているように写るだけだ……
アンドロイドは細心の注意をした。舗道にそっとゴミ袋を降ろすと、静かに数フィート浮上した。身体を水平方向に回転させ、その路地の奥を凝視する。
その激しい息遣いはトラヴニセクのものだった。女を抱え上げて壁に立たせて、ズボンを足首まで下げまま腰を突き動かしている。
女は顔の下半分を凝った作りのマスクで覆っていた。ジョーカーだ。顔の上半分は醜くはなかったが、可愛いというわけでもない。若くもなかった。チューブトップに、キラキラした銀色のジャケットを羽織り、真っ赤なミニスカートを履いていた。プラスチックブーツは真っ白。マスク越しに、あのさえずり声がしていた。
この路地でのわずかばかり時間のためにおそらく、トラヴニセクはおよそ十五ドルをドブに捨てるのだ。
トラヴニセクがチェコ語で何やら囁いている。女の顔つきは落ち着いていた。夢見心地な瞳でただ、路地裏の壁面を見つめている。女が発する楽音のような音は、たぶんいつもしているお決まりの何かであって、女がしていることとは乖離した音なのだろう。アンドロイドはもうこれ以上見るに耐えないと判断した。
通風孔にゴミをそのまま残し蓋をした。それでもそのさえずり声は鳥の群れさながらに、彼に追いすがってくるように思えたのだ。