ワイルドカード7巻 7月21日 午前1時

    ジョージ・R・R・マーティン
      1988年7月21日
         午前1時


「また大きくなったんじゃないか」はじめは3インチ
程度だったものだから、そう声をかけると、
「そういやそうだな」ディガーはオーラル・エーミィの
手の平の上でそう応えて、
「毎日学校に行く前に一度、小さくしてもらう必要が
あったからね、そうしないと大きくなっちまうんだ」
「ゆっくりとのようだけど」ジェイがそう言うと、
「ゆっくりとだけどね」ディガーも憂鬱そうにそう応え、
「どこに行っていたんだ、ハートマンにみつかったかと
思ったじゃないか」そう言いだしたから、
「ハートマンはアトランタだよ」ジェイがそう指摘してのけ、
「第一あんたが生きてることすら知らないと思うがね」と
いい添えると、
「どうしてそれがわかるんだ?」
リポーターは沈んだ調子でそう返し、
「あんたらはどうしたいんだ、真実を告発したいのか?」
そうおぞおずと言い出したところに、
「そのつもりはないよ」と応えて、奥の部屋に行き、
灯りを点け、エアコンをつけて、デスクに腰を下すと、
ディガーはオーラルの手から降りて、ばたばた音を
立てながら後を追ってきて、
「黙って待てというのか?ホワイトハウスからご丁寧に
殺し屋がさし向けられるかもしれないというのに」
ディガーは憤懣やるかたないといった声でそう言っていて、
アトランタじゃ予備投票が始まってるって話じゃないか、
しかも優勢だと聞いている、クリサリスを殺したかもしれない
男が大統領になっていいのか?」
ジェイは襟を掴んで持ち上げ、そこでダウンズを黙らせて、
「任せてくれないか、ダウンズ、ともあれ少し黙ってくれないか」
そう言って、ダウンズをくずかごの中に落とすと、
ダウンズはピザの箱の残骸にまみれ、文句をたれながらも、
「何かあったのか、ポピンジェイ」そう訊きだして、
「また死体をみつけたんだ」そう応えると、
Jesusなんてこった」
ディガーはそう悪態をついて「誰のだ?」と言葉を添え、
「知るものか」と応えると、
「マッキィの仕業か?」とさらに畳みかけてきたダウンズに、
「そうは思わないがね」ジェイはそう応え、
「幾分腐敗は進んでいたものの、手足は揃っていたからな」
そう言葉を添えると、ディガーはピザの箱に上って、屑籠の
端まで到達すると、そこから床に飛び降りて、着地の際にしこたま
ぶつけた脚に不平を零しつつ、
「ともかくハートマンに見つかる前にどうにか
しなくちゃな」ディガーはそう言って、
「あいつがどうしたか話しただろ……」
そう継がれた言葉を
「たしかにあんたの言った通りなら」
ジェイは認めつつも、
「ひどい話だが、もしうまく告発できたとして、
さて世間はどっちを信じるだろうな、大統領候補と
ハウラーの隠し子なんて秘密をすっぱぬいた奴の
話だぜ、しかもその話を裏付けることのできる人間は、
クリサリスにカーヒナ、ギムリとすべて死んじまって
いるときたものだ」
「あのジャケットがあれば!」ディガーはそう言ったものの、
「あれがあれば証拠になるだろう」
「なるかもしれんがな」ジェイはそう応えつつも、
「あればの話だろ、じゃどこにあるんだ、クリサリスが
しっかり隠しおおせたものだから、どうにもならないと
言うのが現状だろう」
かぶりを振ってその現実を振り払うようにしているダウンズに、
「これは望み薄かもしれんが」ジェイはそう言って、
「サーシャならどうだろう?」と言い添えると、
「サーシャだって?!」
ディガーはそう言って考えこみながら、
「そうか、確かテレパスだったな、だからどうできるというんだ?
精々感情を読みとれる程度じゃなかったか、いや待てよ、もし
あいつがちくったとしたらどうだろう……そうか、つまりサーシャが
ハートマンとつながっていたら、何か知ってるかもしれないと言うんだな」
「ありえないとは言えんだろ」ジェイはそう応えつつ、
Jesusそうか」ディガーはそう繰り返し、
「サーシャとは盲点だった。つまり、空気のように考えていたんだ。
確かにパレスにいたわけだから……ハートマンに内通していたなら、
クリサリスには信頼されていたからな、Goddamnitなんてこった、
あいつとエルモはクリサリスに信用されていたからな、確かサーシャが
面倒を察知し、エルモがそいつを片付けてうまいことやってたのにな」
「そうだ、サーシャ自身が大本ならば気づかないということになる」
ジェイはそう応え、
「ところでサーシャのガールフレンドについて何か聞いていないか?」
そう言い添えると、ディガーは心底驚いた様子で、
「ガールフレンドなんていたのか?」などと言っているではないか。
ジェイはため息をつきつつ、
「知らないならいいさ」そう言って、腰を上げると、
「どこに行くんだ?」そう訊いてきたディガーの言葉に、
「外だ」そう応え、
「いつ戻ってくる?」
「後になるかな」ジェイはドアにカギを掛けながらそう応え、
何か飲んで落ち着いて、食事もできたらさらにいいし、
眠れたらもっといい、と思いながらも。心のどこかで、
おそらくそいつは適わないだろう、とあきらめてもいたの
だった。