ワイルドカード7巻 7月21日 午前1時

      ジョン・J・ミラー
       1088年7月21日

         午前1時


ブレナンはぼこぼこのベッドで寝返りを打ちながら、
半ばまどろみ、半ば目を覚ましたような状態で、
現実からほど遠い夢に苦悶しつつ、汗に濡れ、
手足を縛る窮屈なシーツを蹴りながら、ジェニファーを
見つめていた。
まだぐっすり眠っているようで、ベッド脇の時計を見ると
フェイドアウトとあってから二時間半程度しか経って
いないようだ。
まだ眠る必要があると思いつつも、どうにもうまく
寝付けず、
脳裏には鈍い痛みのようにクリサリスの記憶が離れず、
タキオンに言わせれば、それは死者に捕らわれているという
ことになるのだろうが、
そこでクリサリスの死体の傍に置かれていたカードに
ついて考え始めた。
男か女か、エースかジョーカーかわからないが、そいつを
置いた奴こそクリサリスを殺した人間に違いない。
とは言っても問題はそいつが何者かという情報がすっぽりと
抜け落ちているということにつきる。
ブラジオンではあるまいし、オーディティでもない。
そしてクオシマンがあんな冷酷な殺しをやったというのも
考えにくい。
残るはワームとダグ・モークルという男ぐらいか、そこで
アクロイドの容疑者リストは終っているのだ。
ワーム、もしくはどこのどいつだかも知れないモークルか。
そこでみじろぎをするようについ窓に視線をむけつつ、そこから
視線を外せなくなった。
そしてまだ夢を見ているか幻でも見ているのではなかろうかと
考えていた。
そして窓が大きくなったようにすら感じ、だからこそ白昼夢の
ようなものを見ているにすぎないと己に言い聞かせていたのだ。
そこには首から上のクリサリスのかたちに見える姿が映されて
いて、白い頭蓋に、青い瞳、唇のかたちすらも、紛れもなく
クリサリスのものだった。
5秒ほどそれを見つめながら、一度目を閉じ、瞼を擦ってから
目を開けると、その姿は消えていた。
ベッドの上でもはや何も移していない窓を見つめ、起きて追うべき
だろうと己に言い聞かせながらも、捕らわれたようにそこから動けず、
また目を閉じて再び己に言い聞かせていたのだ。
ただの夢に違いない、現実である証などどこにもないのだと。