ワイルドカード7巻 7月21日 午前4時

  ジョージ・R・R・マーティン
     1988年7月21日
       午前4時


鍵はとりたて特別なものではなかった。精々
三回捻るくらいだったろうか、
そのくらいでなんとかできて、バネ仕掛けの
鍵を外すことができた。
そこでドアをわずかばかり開け、暗く冷ややかな
ワイルドカード・ダイム・ミュージアムに忍び
こんでいた。
壁のキーボックスには赤いランプが瞬いていて、
ジェイは木曜の夜にダットンが打ち込んでいた
通りのコードを打ち込んでいた。
ジェイはそういったことを記憶するのは得意な
方といっていっだろう。
またたいていた赤いランプの光は緑の光に切り
替わって落ち着いた。
以前ダットンに案内されて入ったときより
心もち身の毛のよだつような感覚を覚えつつ、
蝋人形に見つめられながら廊下を進んでいった。
物陰を見つけるたびに、そこから怪異なジョーカーの
胎児が飛び出てくるように思えてならなかったのだ。

二度ほど道を間違いはしたが、何とかシリアの
ジオラマに辿り着くことができた。
灯りはすべて消えていたが、ガラスの向こうの
時が止まったような蝋人形の輪郭は朧気ながら見ることが
できた。
慌てふためくサィードの姿に、ハイラムは拳を握りしめて
いて、憐れなカーヒナが血に濡れたナイフを握りしめた
姿もあって、その中心の辺りにハートマンが立っていた。
暗すぎてはっきりとは見えないが、何かしかけが
あるのではあるまいか。
そこでジェイは並んだボタンを見渡して、その内の
一つを押してみるとジオラマの中のジャック・ブローンの
背後に黄金の光が広がって、その前に長く薄暗い影を
生じさせることになった。
そしてカーニフェックスの白いコスチュームが照り映えた
光によってタンポポのような黄色に見え、ペレグリンの手
甲に装着された鋼鉄のかぎ爪が鈍い光を放っている。
そこで視線を別の方向に向けると、描かれた背景もかろうじて
見ることができた。
そこでジェイはドアの輪郭を確認しつつ、ボタンから指を
離して、目を凝らすと、<関係者以外おことわり>と
記されたドアであることがわかった。
連絡通路は暗く息苦しい狭いもので、片手でマッチを擦って
持ち、もう片手を壁につけて、覚束ない調子で先に進むと、
シリアのジオラマにつながるドアにカギはかかっていなかった。
そこでジェイは燃え尽きたマッチを落とし、別のマッチを
つけると、暗いガラスの向こうに己の姿が双子のように
映り込んでいて、その炎に照らされた蝋人形が捩じれて
動くかのように感じながら、用心しつつアラビア風の衣装を
着て気を失ったタキオンを跨ぎ越え、ゴールデンボーイ
オーディティの間に進み、サィードの巨体を越えたところに
グレッグ・ハートマンが立っていた。
ハートマンのネクタイすらきちんと結ばれていて、Yシャツも
アイロンをかけてのりをきかせたような状態ながら、その袖は
まくしあげられているではないか。
ジェイはそこで眩暈がするような感覚になりつつ、背後に
柔らかい足音が聞こえたように思い、振り返ると、巨大な
影が覆いかぶさるように立っていて、闇の中からブンと
唸るような音と共に拳が突き出されてきたかと思うと、
最初の一撃は頭で食らっていて、次は腹に叩き込まれ、
息がつまったように感じ、マッチもどこかになくして
しまっていて、煉瓦のブロックを思わせる拳で頭を掴まれて、
通路にまで放り投げられ、蝋のテロリストに出くわして
こんな目にあったのだろうかと思っていると、覆い被さって
きた影に目を白黒させながらも、そういえばWHOのツアーに
オーディティは同行していなかったじゃないか、と思いだしは
したものの、そう長く考えていることはできなかった。
両手で掴まれ、鋼鉄のケーブルのような指に絡めとられたかと
思うと、放り投げられていて、周りのガラスが砕けたかと
思うと、何か固く冷たいものにぶつかったのを感じていた。
それが床の感触だと気づいたところで全ては暗く沈みこんで
しまっていたのだ。