ワイルドカード7巻 7月21日 午前8時

    ジョージ・R・R・マーティン

       1988年7月21日
         午前8時


後ろ半分はパロミノ・ポニー(尾と尻尾が白い
黄褐色の小型の馬)を思わせるもので、前半分も
医者にしては若く見えるドクター・フィンが
「何があったんだ?」ジェイのお腹に包帯を
まきながらそう声をかけてきた。
「スポーツ用の上着を探していたはずなんだがね」
ジェイが苛立ち紛れにそう応えると、
「えらく荒っぽい仕立て屋もあったものですね」
フィンはそう漏らし、包帯を巻き終えて、
「できた。具合は如何ですか?」そう再び訊いてきた。
「締めすぎだ」ジェイがそう言って不平を零すと、
手を伸ばしてみて傷んだとばかりに
「動かすと痛むんだがね」と言葉を継ぐと、
「その方がいいじゃないか」フィンはそう言って、
「あばらがつながるまでは動かさない方がいいからね。
運がよかったのだろうね、もし数インチずれていたら
骨が肺に刺さっていたかもしれなかったからね」
「頭の方はどうだろう?」
X線では軽い脳震盪の傾向しか認められませんでしたよ」
フィンはそう応え、
「心配には及びませんよ、もちろん安静にしているならば、
ですがね」と念をおしてきたが、
「それはつまりこういうことか」ジェイはそう言って、
踊っちゃいかんのか」そう茶化してみせると、
「そいつはお勧めできないな」フィンは苦笑いを浮かべつつも、
4つの脚で軽いステップを踏んでみせて、
「どうも床が柔らかすぎたようだ」とぼやいているところに、
「そのようだな、ところで痛み止めはもらえないのかな?
さすがに頭痛を肋骨の痛みで紛らすわけにもいかんだろ?」
それを聞いたフィンはポケットからメモ帳を取り出して、その
一番上に処方箋を走り書きしてそれをちぎってジェイに渡して、
「これでどうだろう?」と言って、「これなら効くのじゃないかな」
と言葉を添えてきた。
「ありがとう」ジェイはそう応え、検査台から飛び降りたが
そいつがまずかった。
肋骨に響いた痛みを堪えつつ、
「ああ、やっちまった」と零しつつ、歯を食いしばっていると、
「痛々しくて見ている方がたまらんよ」とジェイの口調を真似て
からかうようなことを口にしてから、
「載せて運ぶわけにもいかんだろうが、どうやって帰るつもりかね?」
「タクシーでも拾うさ」ジェイはそう応えながら、チャールズ・ダットンが
クリニックまで運んでくれたのだろう、と考えていた。
おそらくジェイからはたいした話をきくこともできないと考えて
解放してくれたというところか。
まさか控室で待ち受けているということもあるまいが。
もし出くわしたとしたなら、ダットンとオーディティには色々
言いたいことはあるわけだが。
そんなことを考えながらも、「ところでクリサリスの検死は
あんたがしたのか?」とフィンに訊くと、
「そうだよ」フィンはそう応え、
「警察はジョーカーの検死にはいつも私たちを呼ぶことに
しているようだね。第一ジョーカーの癖の強い身体は普通の
検視官では検死できないだろうからね」
小柄なケンタウロスといった体のこの男はいかにも
憤懣やるかたないといった調子で脚を踏み鳴らしつつ、
「どんなかたちであっても、殺しの犠牲者が運び込まれるのは
気分がよくないものだが、それにしてもあれは……」
フィンはそこでかぶりを振って言葉に詰まった様子だったから、
「そうだな」ジェイはぼこぼこになって痣だらけとなった顔を
撫でさすりながらそう応え、そしてこうも思い定めていた。
あの人がどう感じていたかも知る必要があると。