ワイルドカード 7月21日 午後5時

   ジョン・J・ミラー

     午後5時


汗びっしょりで目が覚めた。
まだ半ば夢の中にいる気分で、その夢を
思いだしていた。
友や愛するものたちが何者かに殺されて
いるのにどうすることもできないという
やりきれない夢だった。
そして椅子に腰かけ、何かに耳を澄まして
いるジェニファーの姿を視界に捕えてようやく
安堵の息をつくことができた。
クオシマンに渡した通信機に耳を澄ましていたが、
ブレナンが起き上がったのに気づいて、
振り返り、ブレナンが腰を下したのを
見つめ、ブレナンの髪を指で梳かすように
しながら、
「そろそろ起きるころだと思ってたわ」と
声をかけてきて、
「クオシマンの退屈な日常に耳を澄ますのも
しんどくなってきたところだったから……」
と言葉を添えてきた。
「殺しに結びつくものは何もないと?」
ブレナンのその言葉に、ジェニファーはかぶりを
振って応じ、
「思ったより頭が働くということかしら。
正直そうは思わないけど、ともあれバーネットの
取り巻きらしい連中と接触した形跡はないようね」
「今日は何をしていたのだろう?」ブレナンがそう
言葉を向けると、
「早起きしてモップを振り回し、具合を確かめてから、
教会の床をモップ掛けして、それから屋上に上って
コーヒーを飲んだところで、降りるのも忘れてしまって、
烏賊神父に呼ばれて、ようやく墓地の草取りを始めた。
粘り強い性質のようね。
今度は芝刈り機を使っていたようね、それから昼食を
摂って、午後一杯を枝を切ったり、芝を整えたりして
過ごしていたようだけれど、45分の間通信が途切れた
ことがあったの。
宇宙人に拉致されて、別の空間にでもいっていたのじゃ
ないかしら」
「それはあるまいが、実際見たままの男だろうな。
愚鈍なところのある幼い教会の下働き、それが全てだろう」
「そういうことかしら」
ブレナンはその言葉を聞きながら、床に放り出したままに
なっていたジーンズを掴み、そこに脚を滑り込ませ、
箪笥をひっかきまわしてTシャツを出してそれを着こみ、
「そういえばトライポッドが気になることを言っていた。
サーシャにはつきあっている女がいると……」
そこでブレナンはドアの隙間から差し込まれた白い
封筒がドアマットの上にあるのを気付いて言葉を切っていた。
それはホテルの外から滑りいれたもののようだ。
「いつからそこにあったのだろう?」
ジェニファーにそう訊くと、
振り返って封筒を見て、露骨に嫌な顔を向けながら、
「わからない、さっきまではなかったと思うけれど」
と応えたジェニファーの言葉を他所に、ドアに向い、
封筒を手に取ると、封もされていなければ、宛名も何も
書かれていないようだった。
そこで開いて、中の紙を取り出して見てみると、
そこには見慣れた子供のようなたどたどしい筆跡で文字が
書きなぐってあった。
「藪からぽぅとは思うが……」そう読み上げて、
「味方であることは疑うなかれ、手がかりが欲しいなら、
チッカディにゆぅくことだ」
残りの文字を続けて声に出すと、
Damnなんだというのだ」そう呟いて、
「これはどういうことなんだ?」と戸惑いをそのまま
言葉に出してしまっていたのだ。