ワイルドカード7巻 7月21日 午後6時

    ジョージ・R・R・マーティン

        午後6時


Jesusジーザス(なんて面だ)」ディガーはそう言って、
「何があった?」そう声をかけてきた。
ジェイは後ろ手ドアを閉めつつ、リポーターを見下ろすと、
今では8インチ程になっていて、ここ数日で侏儒と
言っても通るぐらいには大きくなっている。
「しこたま殴られたといった体の顔じゃないか」
ディガーはそう言いながら部屋を横切って、
腰を下していて、ラジオからは党大会の様子が溢れ出して
いるように聞こえているが、耳がきんきんしてきたから、
電源を落として黙らせた。
Godおい、なんて痛々しい顔をしてやがるんだ」ディガーはそう言って、
「顔の半分くらいは青あざで覆われてるじゃないか?」そう言いかけた
ところに、
「ネクタイをしてなくてよかったよ、会う色を探すのに一苦労した
だろうからな」そう軽口を返すと、
「いち二日もすれば、黒ずんで目立たなくはなりそうだけどな」
ディガーもそう返しつつ、世間に忘れられたリポーターといった
不安げな声で、
「でどこに行っていた?」と言葉を投げてきた。
「寝てただけだよ」ジェイが痛み止めでふらつく頭のままそう応えると、
「寝てただって?Jesusおい、アクロイド、アトランタじゃ
たいへんなことになってるんだぜ、わずか300票も積めれば
ハートマンが選出されちまうだろうな。あんたは日和見するとでも
決め込んだのか」
「ダウンズ」ジェイはそう呼びかけてから、
「起き抜けで、頭に綿でも詰め込んだような気分なんだ。
肋骨が折れていて、痛みどめで紛らわせているからまともに頭も
回らないときたものだ。おまけに目当てのジャケットはもうなくて、
気分は最悪なんだ。もし黙る気がないないなら、ホランドトンネルの
道路の真ん中に飛ばしてやるからな、いいな?」
「あのジャケットがもうないだって?」
それは年老いた母親が今しも轢かれようとしているとでもいうような
金切り声だった。
ジェイはため息を漏らしつつ、
「ダットンが処分したと言っている以上しょうがないじゃないか」
自分でも憂鬱な声でそう応えると、
Jesusなんてこった」どうやらパニックに陥ったようで、
JesusJesusJesusなんてこったなんてこったなんてこった。
それじゃどうなるんだ」と繰り返しつつ言葉を向けてきたではないか。
「手詰まりというやつだな」ジェイはそう認めつつ、
「今更という気もしないではないが」そう言葉に出して、考えをまとめ
ようとしたが、どうにもうまくいかず。頭がガンガン痛むのを感じながら、
「もしカーヒナがジャケットをもっていたなら、血液検査だか何かを
していたかもしれない。だとしてもどこを探ったらいいのだろう?
あの人については何も知らないと言っていいだろうから」

「少し調べたことがある、あの人が殺された後にね……」
ディガーはそう言って、
「なんせ正式な手段を踏まずに入国したから形跡はほとんだないに
等しかったがね。そこは蛇の道は蛇というやつだ、なんとか調べだしたさ」
「それでどこにいたんだ?」そう言葉を向けると、ディガーは肩を竦めて
みせてから、
「ジョカータウンに潜んでいたんだ。偽名を使ってね。
たいした度胸だな。とはいえ何の痕跡もなかったわけじゃない。
着いたその日は、あれは何と言ったかな、あの民族衣装、そうチャドルだ。
すぐに着換えはしたようだが、やはり目立ったようだな。
しかも泊まったホテルには他にナットはいなかったうえに、
当の本人はジョーカー嫌いを隠そうともしていなかったようだからね」
「そこでクリサリスやギムリと連絡をとっていたのだろうか?」
ジェイがそこでそう口を挟むと、
「クリサリスとは組んでいなかったようだよ」ディガーはそう応え、
ギムリの方とは何かあったようだがね。信仰にせよ政策にせよ
戦略にせよ、うまはまったくあわなかったようだがね」
ジェイは沸きあがる不穏な気分を抑えつつ、
「どうしてそれがわかったんだ」と言葉を向けると、
「クリサリスが教えてくれたんだ」ディガーはそう認めつつ、
ギムリがあの人にそう漏らしたのじゃないかな、といっても
ジョカータウンじゃどこにいようとクリサリスに知られないことは
なかったとも言われてたもんだったがね」
「そうだな」ジェイはそう応えつつ考えていた。
そして朧気ながら何かが見えてきたように感じたところで、
「どうするつもりだ?」ディガーがそう訊いてきた。
「ジョーカータウンに行ってみるさ」ジェイはそう応え、
「あの人が最後に残した形跡を辿ってみるつもりだよ」
そう言葉を継いでいたのだ。