ワイルドカード7巻 7月22日 午前10時

      ジョージ・R・R・マーティン
          午前10時


    「機内にないとはどういうことだ?」
「申し訳ございません」デルタの手荷物預かりの職員は
ウォルドー・コスグローヴもかくやといった様子で
縮み上がりながらも、「20分後にラ・ガーディアから
到着する便がございまして、おそらくそちらに紛れ込んだ
のではないかと……」そう言葉を継いだではないか。
職員の女は後ろに壁のように積みあがった手荷物に視線を
向けつつ、「どのようなお荷物でしたでしょうか?」
と言い出して、「バッグの詳細をお知らせ頂ければより早く
探しだせるものと存じます」と言葉を被せてきたところに、
「スーツケースじゃなくてだね」ジェイはそう応え、
「猫用の運搬ハウスが心配なんだ。灰色のプラスチックの
奴で、こいつを見つけるには大分苦労したんだ。いかに
マンハッタンといえども、24時間営業のペットショップを
探すのがどれほどたいへんかわからんだろうな」
そう言ってためいきをついてみせ、
「つまりだな、猫がお漏らしするかもしれんということだ」
「ああ、なんということでしょう」女はそう応えて嘆いてみせて、
「私も5匹猫を飼ったことがありますからわかります。
さぞご心配のことでしょう。
かならず見つけますから、ご心配には及びません。
アトランタでのご滞在先を御教えいただけましたら、そこまで
お届けいたします」
「それに越したことはないが」ジェイはそう応えつつも、
しばし考えこんでいた。
そして「どこのホテルも一杯なものだから、まだ落ち着き先は
決めていないんだが、それじゃこうしよう。
マリオット・マーキスのハイラム・ワーチエスター宛に届けて
おいてもらおうかな」
そう伝えて、どう綴るか示すと、
「お安い御用です」女はそう応えると、カウンター上の遺失物
取り扱い書に書き込んで、
「ところでなんと名付けられましたか?」と訊いてきた。
「ディガーだよ」ジェイはそう応えつつも、少なくとも衣装
バッグは調べられなかったからよしとしようと考えていた。
そうして踵を返しつつ、タクシーを探すことにしたのだ。